リリア、うっかり魔法を出す
演習場の中央、既にロマネス殿下からの攻撃を二つ躱した私は今…悶絶していた。
ロマネス殿下の魔法はとても詠唱が長い。
恐らく、魔法のイメージがしっかりと出来ていないからだと思われる。
…と、言うのも…ロマネス殿下の詠唱は私が聞いていてもイメージは出来ない。
先程から唱えている内容を少しだけ抜粋してみよう。
『…紅き炎の竜よ、瞳に宿し……とか。…今、迷宮の時を超え紅蓮の炎を…とか。』
ふおぉ…思い出しただけで鳥肌が!!
寒い…寒すぎるぞ!
火魔法のクセに寒いとかどんなだよ…。
因みに、この長い詠唱の魔法で作られるのはただの火柱だったりする。
本来なら私を取り囲むように数本立てるはずなのに…あるのはロマネス殿下の前というね。
…竜とか関係なく無い?
私がやるなら…「ーーー燃え盛る炎の柱ーーー」とかで終わらせるかな?
っと、うっかり声に出して言えば…ロマネス殿下の周りを囲うように何本もの火柱が上がった。
「あっ…やばっ!ーーー解ーーー」
慌てて火柱をしまうが…時既に遅し。
ロマネス殿下は突然増えた火柱に驚き詠唱を止めてしまった。
そして…私も魔法を解除してしまったので、演習場には何も無い。
「……おい!今のは何だ!?」
「…火柱ですかね?」
明らかに不機嫌になったロマネス殿下が問いかけてきたので、素直にお答えすると…更に眉間に皺が寄る。
「何故、止めたんだ?」
「…間違えたので。」
更に眉間の皺が深くなったロマネス殿下は、再び詠唱を始めた。
「今日の授業で習った魔法は使わないんですか?」
詠唱するロマネス殿下に問い掛ければ、詠唱を止め鼻で笑われた。
小馬鹿にしたように「あんなのは下級魔法だ。」と吐き捨てると詠唱を再開する。
私はチラッと魔法学の先生を見ると、笑顔だが眉は吊り上がっていた。
しっかり聞こえていたようですね。
「では、そろそろ始めますかね!」
そう言ってロマネス殿下に掌をかざす。
「ーーー大地よーーー」
土壁!っと思ったがそれではロマネス殿下の視界を遮ってしまうので、ロマネス殿下を地面から頭上まで真四角の檻で囲う。
「なっ!?何だこれは!」
…動揺し過ぎだし。
土魔法で檻にしたのは、木魔法だけだと燃やされそうな気がしたからだ。
「土魔法の檻です。…続けますね!」
ロマネス殿下の問いかけに答えながら次の魔法を発動させる。
「ーーー緑のお城ーーー」
今回は鳥籠じゃなくて、グレードアップしたお城にしました。
檻を囲うように…そして、木の蔓が檻に絡まるよう形成していく。
今回は葡萄の木なので良い具合に絡まりますな!
「ーーー恵の水ーーー」
ミストシャワーの様に土の檻と葡萄の木に水が降り注ぐ。
勿論、中にいるロマネス殿下は濡れてしまうが…そこは自分で何とかしてもらいましょう!
「こんなもんかな?…先生!お待たせしました。今からリストの魔法を試しますから、説明の方お願いします!」
無事に葡萄の木の土台が出来たので、魔法学の先生のご要望に応えるべく先生に向かって声をかければ…呆気に取られていた先生はハッとして笑顔で頷いた。
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ロマネス殿下の詠唱を書きながら、寒さに身を震わしたのは私です。




