実況と解説は!
「それではこれより、ロマネス・ワインバルとリリア・クリスティアの模擬戦を開始する。模擬戦と言っても実際に魔法を使った戦いとなる為、二人共十分に注意しなさい。」
「「はい。」」
演習場の中央…魔法学の先生からの試合開始の合図を待つ私とロマネス殿下。
先生からは魔法に関する幾つかの注意点が告げられた。
そして…。
「始め!」
先生の合図と共に戦闘開始の幕が上がった。
◇◇◇◇◇
「皆さん、こんにちは!実況のリオン・クリスティアです。」
「解説のリーマス・クリスティアです。」
いつの日かのような語り口で話し始める僕に、何故か続くリーマスお兄様。
やはり、リリアの戦いには僕が居ないとね!
「…久しぶりに聞いたな。」
僕たち兄弟にそう呟いたのはクロード殿下だ。
そういえば以前の時も居たような…居ないような?
ところで最近の僕はリリアを放ったらかしでキャティに夢中だと思われてるみたいだけど…事実です。
だって、やっと僕にも婚約者が出来たんですから!
…でも、リリアの事だってちゃんと心配はしてましたよ?
心配はするんだけど…リリアってば、気がつけば何かしらに巻き込まれるんだもん。
僕の事も考えて欲しいよね?
「おっと?最初に仕掛けたのはロマネス殿下ですね!」
「あれは…どうやら中級の火魔法のようです。…まだ詠唱が続いてるようですね。」
演習場の中心部では、ロマネス殿下の掌の上に炎の球が浮かんでいる。
だが……詠唱が長い。
「リリアはどうでしょう?何か対策を練っているのでしょうか?…肩が揺れてますね。」
「どうしたのでしょう…次第に揺れが激しくなっていっているのは気のせいではなさそうです。」
僕とリーマスお兄様はリリアを不思議そうに見つめた。
肩を揺らし…俯き出した事でリリアがどんな状況なのかを察し、僕もリーマスお兄様も顔を見合わせ苦笑する。
長い詠唱が、どうやら笑いのツボに入ったようだ。
それを何とか堪えている。
「あっ!やっと詠唱が終わったようですね。ロマネス殿下は掌の炎の球をリリアへと放ちました…が、リリアの前で消滅したようです。」
「いえ、あれは消滅では無いですよリオンさん!リリアの目の前で風に攫われて行っただけです。」
本来ならば火魔法が風魔法で消される事はほぼ無い。
火魔法に強いのは水魔法とされているにも関わらず、リリアはあえて風魔法を使ったのだろう。
しかも…模擬戦だからか詠唱もした。
「攫われた炎の球はどうなりましたか?」
「どうやら…攫われる寸前に水魔法で包んで空中に飛ばしたようです。」
暫くすると空中で炎の球が蒸発して消えた。
観戦席には魔法による防壁があるが、リリアは僕達に害が無いように気を遣ったようだ。
「それにしても、あの水魔法…どれだけの生徒が気づいたのかな?」
ボソリと呟くクロード殿下に近くで観戦していた上級生方はウンウンと頷いている。
因みに…水魔法に関しては無詠唱だった。
「おぉ?またしてもロマネス殿下が仕掛けます。今度は…今度も火魔法ですね!」
「ロマネスは火魔法と、あとは少しだけ土魔法が使える位だから。」
僕の言葉に反応したのは、やはり近くにいたジュード殿下だった。
まさか反応するなんて思ってなかった僕は、意外だなと思ってジュード殿下を見返すと何故か困ったような顔をされてしまう。
「…それにしても長いな。」
「そうですね、一つの魔法に2分以上の詠唱…撃ち込む前に攻撃されてしまいますよ。」
今度はまたまた近くにいたリシェ様が呟いたので、言葉を返すと周囲は同意したのか…頷いている。
「あっ…今度のは炎の矢ですね!5本位でしょうか?」
「あれは上級の火魔法ですね!慣れないとコントロールが難しいんですよ!」
今にも飛んできそうな炎の矢をリリアは両手を前に翳して迎え撃つようだ。
「あっーと!炎の矢がリリア目掛けて放たれ…ない。まだ、放たれて無いですね。」
「えぇ、タイミングを見計らっているのでしょう。先程みたいに消されても困りますからね。」
一瞬、動いたかと思われた矢は今もロマネス殿下の前にある。
すると、炎の矢にリリアが何やら詠唱した。
次の瞬間、ロマネス殿下が作り出した炎の矢は向きを変えて照準をロマネス殿下へ向けられた。
「これはどういう事でしょう!リリアに向けられた炎の矢がロマネス殿下へと方向転換しましたよ?」
「考えましたねー。風魔法で風向きをクルリと変えたのでしょう!…どうやら、リリアはロマネス殿下の力量を測っているようですね。」
リーマスお兄様と共に実況していれば、炎の矢はあっさりと放たれ…ロマネス殿下に当たる前に消滅したのだった。
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やっと始まりました。




