学習しないリリア
リオンがリビングに戻るまでの数十分…私はアレスに懇々と説教をされた。
ワインバル王国の公爵家で約束していたと言うのに、私は侍従が誰に似ているのかを確認したいが為に股間を蹴り上げた。
それに関してはぐうの音も出ない。
部屋に戻ってきたリオンは、私がアレスに説教をされていた事に直ぐに気づくと残念そうに私を見た。
その顔だけで私は心が痛む…切なくなるから止めて欲しい。
「お父様の許可が下りたから、今から行ける?」
リオンの問いに私もアレスも頷くと…三人でリビングを出た。
遅い時間だからとリナリアは許可が下りなかったようで、話が聞けたら改めて教えるからと今は私室に戻っている。
「失礼します。」
邸の奥…幼い頃に探検した時は物置みたいだったように記憶している狭い部屋の前に辿り着くと、リオンが声をかける。
中から「入れ」と大五郎さんの声が聞こえた。
大五郎さんは尋問もお得意なのかな?とドキドキしながら中へと入ると…どこか懐かしい光景が広がる。
刑事ドラマで見る…取調室だ。
小さな机には灯りが一つ…向かい合って座っているのが大五郎さんと変態…じゃなくて侍従だ。
更に驚いたのが、記録係が部屋の隅にいた事。
あとは窓みたいなやつがあれば、まさにそれなのだが…とキョロキョロしてしまう。
「リオン様にリリア様、アレス様も。狭苦しい所で申し訳ないです。」
記録係が慌てて椅子を用意してくれたので着席すると…正面にいた侍従が私の顔を見て真っ青になった。
レディに対して失礼だと思う…と憤慨していれば、周囲は何故か苦笑いを浮かべる。
「まず、名前から聞かせてもらおうか?」
「そんなもの、聞かずとも調べれば分かるだろ!」
大五郎さんの問いかけに、今しがたまで青くなっていた侍従は偉そうな態度でそっぽを向く。
ほぉ…良い根性してやがる。
苛ついたせいで少しばかり威圧してしまうと、アレスが私の背中を優しく撫でてくれた。
私は一つ息を吐くとアレスに「ありがとう。」と伝えて、立ち上がった。
私が立ち上がった事に気づいた侍従は何故かガタガタと震え出す。
私が侍従の背後にまわって彼を見下ろせば、何故か半泣きで私を見上げた。
「自分から喋るのか…それとも喋らされるのか。貴方はどちらが得策だと思いますか?」
無表情で問いかければ、更に体を震わせ…歯も噛み合わないのかガチガチと音を鳴らす。
「あら?この部屋は寒いのかしら?何か…暖かい物が必要よね?熱湯で良かったかしら?」
私は無表情のまま、声だけ優しく語りかけると男は何故か白目を剥いて気絶してしまった。
私の事を悪魔か何かと勘違いしているのかもしれない。
「リリア様…これでは尋問は出来ないですよ?」
向かい側に座る大五郎さんが困った顔で私を見るので、私は首を左右へ振る。
「ごめんなさい、こんなに臆病だとは思っていなかったわ。少し待ってて?」
仕方ないなぁ…と、男の襟を掴んで耳元で囁く。
すると気絶していた男はビクッと体を震わせ、目を覚ました。
「…何をしました?」
大五郎さんの耳には届かなかったらしく怪訝な目を私に向ける。
私が答えようと口を開くと、私の囁きが聴こえていたアレスが私を制した。
「もう一発…蹴り上げる。」
「「「は?」」」
アレスが呟くと、再び侍従はガタガタと震える。
それを見た大五郎さんとリオンは、凄い勢いで私を見た。
テヘッと笑って誤魔化すと、近くに来たアレスが私を見つめニッコリと笑った。
「リリア、どうやらもう一度よく話し合わないといけないようだね。」
そう言ってアレスは私の首根っこを掴むと…一旦部屋の外に出るのだった。
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体調が少し戻ったので何とか書けました。
遅くなって申し訳ないです。




