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たぶん...悪役令嬢だと思います  作者: 神楽 紫苑
第3章 私リリア!運命が動き出したの。
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ジュード殿下の真意

前回の投稿がどうしても気に入らず、書き直させて頂きました。

「リナリア嬢への恋心に気付いたのは…随分後のことだった。その時には既に彼女を傷つけた後で…凄く後悔した。」

ギュッと両手を握り締め、苦しそうな顔をしたジュード殿下だったが…直ぐに顔を戻し前を見た。


「だが…その後に、それが正解だったのだと思えた。」

「…え?」

リナリアを傷つけて正解だったと言われても…理解できず私は困惑した。

私が漏らした声にジュード殿下は困ったように笑う。


「リナリア嬢を僕の婚約者のままにしちゃいけないと思ったんだよ。兄上の…いや、王太子の婚約者は彼女しか無いと気付いてしまったんだ。」

ジュード殿下の言葉を聞き…ハッとした。

リナリアを自分から遠ざけた理由…。


王太子の婚約者は高位貴族から選ばれる。

その中で最も上位なのが公爵家だ。

公爵家で宰相の職に就いている父を持つ娘…本来選ばれるのは私だが、私は“神に愛されし者“で領地を継ぐので除外される。

次に選ばれるとしたら…リナリアだ。


「流石だね、そういう君だから…僕は君に…いや、君たち双子に憧れを抱いた。」

ふふっと笑うジュード殿下に一瞬…目を奪われた。

いつもとは違い、嫌味な感じが全くない笑い方はとても好感が持てる。


「君に抱いた気持ちを…始めは恋だと思った。だが、リナリア嬢と離れた時に抱いた胸の痛みが忘れられない。君に抱いた感情とは比べ物にならない程…胸が苦しかったよ。」

切なげに話すジュード殿下に…胸が詰まった。

恋に気づくのが遅すぎたのか…いや、気づかなかった方が良かったのかもしれない。

自分から離れていく苦しみを味わう事が無い方が良かっただろう。



「…いつから、偽ると決めたのですか?」

いつからだったのだろう…リナリアと離れようと思ったのは。

いつから…“ジュード殿下“を演じてきたのだろう。

気になっていた事を問えば、ジュード殿下は儚く笑み私の問いに答える。


「昔の僕を君は覚えているかな?我儘で傲慢…自分勝手で気に入らないと文句ばかりだっただろ?その頃は演じてはいなかった…素の僕だ。」

一度、言葉を区切ると…ジュード殿下は夜空を見上げた。

それが…昔の自分を懐かしんでいるように見える。


「キッカケは今の侍従だ。勿論、彼と出会った当初は違ったが…あいつは僕に勉強を強要しなかった。王族には必要無いんだと言って、とにかく僕を自由にさせた。」

そう言って、再び私に顔を向けたジュード殿下は「どうなったと思う?」と私へと問いかけてきた。


「…成績が落ちます。」

当たり前だが…それ以外に思いつかなかった。

だが、合っていたらしく私の答えにジュード殿下はコクリと頷いた。


「そう…僕は自分と君達とがどんどん離れて行くような気がしたんだ。…それでも、あいつは僕に勉強しろとは言わなかった。」

ジュード殿下が勉強する事を望まない侍従。

次第にジュード殿下は侍従へ不信感を抱く。

そして…その頃から自分を偽りだしたのだろうか?


「中等部を終え、僕は国王陛下の指示でワインバル王国へ留学をした。最初はそう思っていたが…ワインバル王国で生活していく中で、この留学は侍従によって仕組まれたものだと気づいた。」

ジュード殿下は眉を寄せ、険しい顔になる。

余程の事があったのだろうか?


「あいつは僕をワインバル王国の公爵と引き合わせた。何故かそこにはロマネスも居て…手慣れた様子と平然とした態度で第二王子であるロマネスと会話したんだ…しかも、チャミシル嬢も一緒に。流石の僕も何か企んでいるのだと気づいたよ…。」

乾いた笑いを漏らし、ジュード殿下は再び夜空を見上げる。

落ちてきそうな月と…夜空を彩る星を見ながら溜息を吐いた。


「いつだって…僕の周囲はそんなのばかりだ。そんな風に思ったら王子でいるのが嫌になったよ…擦り寄って笑いかけてくる奴は殆どが僕を利用しようと考えていて、純粋に僕だけを見る者は居ないんだと思った。」

冬も近づき…吐き出された溜息は白かった。

…この広い世界に一人きり。

出会う者すべてが自分を利用しようと近づいてくる。

それをどんな気持ちで見ていたのだろうか…。


「僕と兄上の大きな違いはさ…王太子に推す人達だよ。兄上の周囲は純粋に兄上に王太子になってもらいたい人達で、僕の方は僕を利用しようと企んでる人達ばかり…そんな僕は王太子にはなってはならないと思わない?」

苦笑しながら問いかけてくるジュード殿下に、どう答えようかと逡巡する。

どう返せば…幾つか言葉は浮かぶのに、どれも相応しいとは思えない。

私は緩く首を振る事しか出来なかった。


「…僕に期待する人間なんかいない。…いたらいけないんだよ。」

私に放った言葉なのに…自分に言い聞かせているように思えた。


「ロマネスやチャミシル嬢がした事も、侍従がした事も…知っていたのに止めなかった僕は同罪だ。」

笑って話すジュード殿下は…既に自分が裁かれる覚悟をしているようだった。


「…リナリア嬢をこれ以上傷つける前に婚約解消出来たのは君達のおかげだろ?…っ…ありがとう。」

ジュード殿下は一度だけ言葉を詰まらせ…深々と頭を下げた。

リナリアの事で頭を下げるジュード殿下に胸が締め付けられる。

…婚約解消を自ら申し出なかったのは、ジュード殿下がリナリアを引き止めたかったからかと思っていた。

だが…改めて考えたら違ったのかも知れない。


リナリアを王太子妃に…そう考え、王族の勉強を終えるのを待っていたのかも知れない。

ジュード殿下にも王位継承権がある以上、その婚約者には王妃教育が施される。

つまり…リナリアが誰よりも王太子妃に相応しい令嬢になったのだ。


その答えに思い至り…痛ましげにジュード殿下を見つめる。

…あぁ…なんて愛が深いのだろう。

そんなにも愛していたなら…ジュード殿下がリナリアを幸せにすれば良かったのに。


私は自分が泣いている事にも気づかず…只々、ジュード殿下を見つめていた。

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