偽り
オステリア王国には二人の王子がいる。
二人の王子が成人を迎えると…国王陛下は二人の王子から王太子を選ぶ。
…そう思っていた。
だが…現在、二人の王子は成人を迎えたのにも関わらず王太子の選別は行われていない。
「…僕が王太子に?…なるのは兄上だよ。」
どこか諦めているような、冷めた顔で呟くジュード殿下に意外だと思った。
もっと野心的で…もっと自分勝手だと勝手に決めつけていたのかもしれない。
「なりたいとは思わないのですか?」
私の問いにジュード殿下は苦笑しながら首を左右へと振った。
いつもと違いすぎるジュード殿下に戸惑ったが…。
よくよく考えたら二人きりで会話などした事もなかったと気づいた。
「王太子になるのは兄上だ…僕には無いものを兄上は沢山持っているからな。」
月を見上げ、ジュード殿下は夜空に向かって呟く。
その目線の先を私も見上げた。
ジュード殿下はいつからクロード殿下が王太子になるのだと思っていたのだろうか?
初めて出会ったあの頃のジュード殿下は、どこに行くにもクロード殿下にくっついていたと言っていた。
その頃は兄に近づく者達が気に入らないのか、常に相手を牽制しているようだった。
そして…リナリアと出会った。
「僕のお姫様に…。」そんな事を言っていたジュード殿下は、翌年にはリナリアに暴言を吐いて傷付けた。
リナリアが打ち明けてくれた時から…私もリオンもジュード殿下に悪い印象しかない。
…もし…それが全て偽りだったとしたら…?
あり得ないと思える事が、時に腑に落ちる瞬間がある。
今日のジュード殿下を“いつもと違う“と認識した自分は、それほどまで彼の事を知っていただろうか?
二人きりで話す事などなかったのに、彼の何を知っていた?
その他大勢と同じ彼を見て…勝手なイメージで思い込んでいたのではないか?
色々な疑問が頭を過ぎるが、その全てに答えが出そうな気がした。
「ジュード殿下は…いつからクロード殿下が王太子になるように考えておりましたか?」
月を見つめていた顔をジュード殿下に戻し、私は再び問いかけた。
私の声に夜空を見上げていたジュード殿下は、ゆっくりと私へと振り返った。
その顔は…今まで見た事がない穏やかな笑顔をしていた。
「ずっと前から兄上は王太子になるべきお方だと思っていたさ…。」
…その言葉で、頭を巡っていた疑問は一つずつ答えを見つけていく。
今まで見てきた彼を全て否定し…その中心に残る本来の目的だけに目を向ければ、彼の真意が分かる気がした。
兄…クロード殿下を王太子にするために…。
自分を偽ったのだ…と。
最初に彼が行ったのは…リナリアとの仲違い。
公爵家を敵に回す為に学園で私に挑んだ。
私に惚れたと思わせ…リナリアを自分から離れるように仕向けた。
次は自分の側近候補達だ。
横暴で傲慢な態度で彼は自らを孤立させた。
彼の近くに令嬢は残ったが…その中で一番力を持っていたのが男爵令嬢なら、放っておいても問題は無かった。
侍従の…そして周囲の企みに気づいていても、彼は止めなかったのかもしれない。
自分がそれに関わっていると思わせれば…それ以上は何もしなくてもクロード殿下が王太子に選ばれるだろうと踏んでいたのか。
だから…侍従が捕らえられたと聞いても驚かなかった。
そして、彼はもう自分の役割を終えたと思ったのかもしれない。
「もう…偽らなくても良くなった…という事ですか?」
答え合わせを終えた私がそう呟けば…ジュード殿下は再び顔を綻ばせる。
こうして笑うジュード殿下は今までと違って魅力的に見えた。
「やはり、リリア嬢は賢いのだな。」
ふふっと笑うジュード殿下は何だか嬉しそうに見える。
それは悪戯に成功した子供のような笑みにも見えた。
「ならば…僕がリリア嬢に抱いた気持ちが恋では無かった事も分かってしまった?」
「…えぇ。ジュード殿下は最初からリナリアだけを愛して下さっていたのですね?」
ジュード殿下の問いかけに、私は苦笑し…そして真剣な顔で問いかける。
私の問いにジュード殿下は虚を衝かれた顔をし、すぐに苦笑に変えた。
「そうか…それも、分かってしまったのか。」
残念そうに溢し、ジュード殿下は再び夜空を見上げて話し始めた。
ブクマ・評価・感想・誤字報告ありがとうございます。
勢いで書いた部分があるので、もしかしたら後日…直すかもしれません。
昨日投稿の最後のセリフも投稿の一時間後に一度直させて頂きました。




