庭園の奥で
会場に戻るとジュード殿下が一人…庭園へと向かうところだった。
頻りにキョロキョロと周囲を見ながら進んでいるので一瞬…私を探しているのかと不安になったが…
どうやら違ったらしい。
彼が目で追っていたのは男性だった。
…その後ろ姿に私の足が勝手に前へと進む…と、突然目の前にグラスを持ったトレイが差し出された。
「リリア様、お飲み物はいかがですか?」
その声にハッとして顔を上げると、真顔で私を見つめるアレスがいた。
「…行くのか?」
私にだけ聞こえる声で囁くアレスに…戸惑う私。
そんな私を真面目な顔で見つめ続けるアレス。
アレスはきっと私を心配してくれているのだろう…。
その気持ちは痛いほど分かるけど…。
だけど…!
「行くわ!…だけど、アレスにはこっそり着いてきて欲しい。」
私はグラスを手に取ると、アレスを見つめ返した。
アレスは少し考える素振りは見せたものの、コクリと頷いた。
「何かあれば、僕が必ず助ける!」
私の肩にソッと顔を寄せ、耳打ちすると…トンッと背中を押された。
慌てて振り返ると既にアレスは人混みに紛れてしまって分からなかった…。
ジュード殿下を追いかけて庭園へ出ると、ジュード殿下は既に庭園の奥の方まで移動していた。
我が家で警備をしているからと言っても王族として…自ら警備の目の届きにくい所に行くなどあり得ないのだが…。
どうやらジュード殿下はそういった事も学ばなかったようだ。
「殿下のお探しの方は…もう殿下の元へは戻られませんよ?」
ジュード殿下の背後から声をかけると、ジュード殿下は驚いたのかビクッとし…振り返った。
どこか不安気な顔で私を見つめ返すジュード殿下に私はゆっくりと近づいていく。
「リリア嬢…どういう意味だ?」
私と認識したジュード殿下は先程の言葉に眉を寄せ…私へ問いかける。
ジュード殿下の前まで来た私は、周囲を見渡し近くのベンチへと誘うと…ジュード殿下は頷き一緒に座った。
「先程、ジュード殿下の侍従の方を…我が家の書斎に忍び込んだ所を捕らえました。」
私は極力…感情を抑えながら説明すると、ジュード殿下は予想に反し「そうか…。」と呟くだけだった。
てっきり、怒鳴るかと思っていただけに驚いた。
「リリア嬢…少し、僕と話をする時間をもらえないだろうか?」
「…え?……私と…ですか?」
侍従と会わせて欲しいと言われるのかと思ったが、そうでは無いらしい。
ジュード殿下は苦笑いを浮かべながら頷いた。
今日のジュード殿下は…何だかいつもと様子が違って大人しいように思う。
「噂を聞いた…リリア嬢は兄上と婚約するのか?」
ロマネス殿下と同様にジュード殿下は私の噂を鵜呑みにしているようだ。
そして…一番、仲良く過ごしているクロード殿下との仲を気にしているらしい。
「いえ、そのつもりはございません。私は領地を継ぐ身…嫁には行けないのです。」
クリスティア領を継ぐのは私とリオンだ。
どちらが欠けてもいけない…二人で一つ。
「そうか…。」
どこかホッとしたような、不思議な笑みを浮かべるジュード殿下は…美しい月の下…どこか神秘的に見える。
初めて…クロード殿下とジュード殿下とお会いした時に感じた、他の人には無い魅力だ。
その横顔を見ながら…私はずっと気になっていた事を問いかけた。
「…ジュード殿下は、王太子になりたいですか?」
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