辺境伯の嘘
褒め合う…いや、揉めている大人達から離れ私はリオンが一人な事に慌てた。
「リオン、キャティ様は?」
ダンス後に私の元へと駆けつけたリオン。
一人取り残されたキャティ様を心配に思い、リオンに尋ねると…リオンは笑顔で答える。
「お母様に預けたから大丈夫だよ。」
その言葉にホッとする。
お母様ならば他の貴族や令嬢からも守ってくれるだろう。
何せ…お母様は王妃様と頻繁にお茶会をする仲だ。
仲良くなろうと擦り寄る者はいても、敵対しようとする者はいないと思う。
そんな話をしていると、ジン様方と別れたお父様が私達の元へ追いついた。
緩んだ顔は少しだけ引き締まっているように思う。
「お母様なら大丈夫だと思うけど…私はお父様と回るからリオンはキャティ様のところに戻ってあげて?初めての夜会で心細いと思うから。」
私が戻るように勧めると、リオンはどうしようかと悩んでいるようだった。
そんなリオンを安心させるべく、私はお父様の腕を掴む。
「お父様とこんな風に過ごせる機会は少ないの。駄目かな?」
私よりも背が高いリオンとお父様を交互に見上げると…何故か片手で顔を覆い天を仰ぐ二人。
…駄目だったのだろうか?
「リオン…リリアの事は私に任せなさい。代わりにキャティ嬢とロザリアを頼む。」
「うん…そうさせてもらうよ。」
お父様とリオンは何故か力強く手を握り合い、リオンはお母様の元へと歩いて行った。
「では、挨拶に回ろうか?」
そう言ってお父様は私の手を自身の肘の内側へしっかりと掴ませ、足を気遣うようにゆっくりとエスコートしてくれる。
「他の者に声をかけられないよう、リリアも演技しなさい。」
そう言って頬を赤らめたお父様は前を向いてしまう。
「はい。」
気遣いが嬉しくて、笑顔で返事をすると…前を向いたままのお父様は一度だけコクリと頷いた。
その後はお父様の招待客や上級生方…そして、私の友人達と順番に挨拶をする。
一通り知り合いへの挨拶を終えると、壁際にいた辺境伯家の方々が目に入った。
チャミシル辺境伯と、ラライカ様のお父様のホワット辺境伯が話をしているようだ。
上級生と挨拶していた時にラライカ様は婚約者のルシアン様と一緒に居たので…私はホワット辺境伯が居た事に驚いた。
「国境を守る全ての辺境伯家に招待状を出しているから、驚く事は無い。」
お父様は私にだけ聞こえる声で教えてくれた。
そして、その足で彼らの元へと歩いていくと…それに気づいたチャミシル辺境伯が頭を下げる。
「今宵は素晴らしい夜会へのお誘い、ありがとうございます。」
チャミシル辺境伯が先に声をかけてきた事に少し驚いたが、彼は私の事を覚えていたらしく…私へも頭を下げる。
「先日の国境の件、リオン様とリリア様に手助け頂いたお陰で無事に修繕出来ました。ありがとうございました。」
深々と頭を下げたチャミシル辺境伯に私は笑顔で応える。
その様子を不思議そうにホワット辺境伯が見ていた。
事情を知らない人から見たら何事かと思うだろう。
「無事に修繕出来たようで、何よりです。ところで…穴を開けた犯人は見つかったのですか?」
…犯人は貴方の娘でしたか?
なんて聞けないので、それと無く聞いてみる。
すると意外にもチャミシル辺境伯は顔を青くし、首を左右へと振った。
「未だに犯人は見つかっておりません。」
小さな声で言ったチャミシル辺境伯の目は泳ぎ、右手で左腕を掴むような格好をする。
その顔は…犯人を知っていて庇っているように思えた。
「まぁ…それでは、また穴を開けられてしまうかも知れませんね?」
私は心配ですわ…と呟く。
隣のお父様は表情を変える事なく頷いた。
そんな私とお父様の顔を交互に見たホワット辺境伯は、顎に手を当て…何かを考えているように見える。
「辺境伯の方々には、常に国境を守って頂いておりますから…私達で良ければいつでもお力になりますわ。」
近くに居た他の辺境伯にも聞こえるように声をかけ頭を下げると、ぞろぞろと辺境伯方が近づいてくる。
どうやら冒険者として依頼を幾つか受けているのを知っているらしく挨拶を交わしながら、そう言った関連の話もチラリとした。
そして、話題が切れた頃合いで私とお父様は再度挨拶をし…その場を離れた。
「リリアも気づいたかい?」
辺境伯方から離れ、誰にも聞かれないようにお父様は私へと耳打ちする。
その問いに私は頷き、声を潜めて答えた。
「えぇ、恐らく自身の娘が関与している事には気づいているのかと…今後、チャミシル辺境伯はどのように動くか…場合によっては彼らを止めなくてはなりませんね。」
私の回答に満足したのか、お父様は一つ頷くだけだった。
ブクマ・評価・感想・誤字報告ありがとうございます。
今夜も遅くなってしまい申し訳ないです。




