褒め合う大人達
「ちょっ…リオン?」
リシェ様方から離れた私は、リオンへ声をかけると…リオンは突然足を止めた。
私は突然の事に足が絡れてリオンへと顔面がめり込んでしまう。
それを器用にも正面で受け止めてくれるリオン。
…側から見たらカップルに見える気がする。
「ストッパー役のクロード殿下がダンスホールに来たから吃驚したよ。曲の切れ目でダンスを切り上げたけど…間に合って良かった。」
本来、私は誰ともダンスをする予定ではなかった。
この世界では婚約者がいる者は、婚約者以外の者とダンスを踊らない。
そして、既婚者もそうだ。
噂では婚約が解消となってフリーだと思われているが、実際には婚約関係が終わって婚姻したので既婚者なのだ。
この夜会ではダンスに誘われても断れるよう、相手を務めるのはクロード殿下の予定だった。
だが、クロード殿下がリナリアの元へ行ってしまったので代わりにリシェ様が私の相手になった。
ダンスホールまで歩いて、途中で足を挫き…ダンスを断念するという計画だったのが何故か変な方向へと向きを変えてしまい…。
それに慌てたリオンがすっ飛んで来てくれたらしい。
「あのままじゃ、ジュード殿下にダンスを申し込まれてただろ?相手はリリアよりも身分が上なんだ…断るのも厳しいと思って…かなり焦ったよ。」
ダンスを数曲踊ったリオンはそれだけで体力が消耗していたのに、慌てて駆けつけてくれたようだ。
「ありがとう!」
リオンの機転に感謝し頭を下げると、リオンが首を振って笑った。
「本当に間に合って良かった!あのままじゃ、こっそり見ているアレスが飛び出しそうでヒヤヒヤしたよ。」
「アレス見てるの!?」
目線だけを泳がせ、アレスを探すと…使用人に混じって変装しているアレスを見つけた。
アレスは食器類をトレーに乗せて片付ける係のようで、こちらをチラチラと見ていた。
「…本当にありがとう、リオン。」
私は大惨事になるところだったと悟って、改めてリオンへ感謝を伝える。
「どういたしまして!」とホッとした顔でリオンが答えた。
「失礼!リリア嬢、今日はお招き頂き感謝する。」
「伯爵位の叙爵、おめでとう!」
私とリオンが無事にジュード殿下方から離れられた事に安堵していると、背後から声がかかり…慌てて振り返る。
騎士団長のジン様と、魔術師団長のビルショート様がグラス片手に立っていた。
「ありがとうございます、お二方のおかげで無事に伯爵位を賜る事が出来ました。」
「その節はご指導頂き、ありがとうございました。」
リオンに続き、感謝を伝えれば二人は和かに微笑んだ。
「二人の実力だと思っている。」
「あぁ、私達など居なくとも二人なら取得できていたさ!…だが、そのように思ってくれている事…とても嬉しいよ。」
お二方の言葉に私もリオンも心からの笑顔でお礼を言うと、私の背後に人の気配がした。
「二人共、私の子達が大変お世話になったそうで…ありがとうございます。」
「「リューク!」」
私の背後からお父様がジン様とビルショート様へ頭を下げると、それに驚いた二人がお父様の名前を叫んだ。
「いや、二人はとても優秀だったよ!騎士団に居たのは最短の一ヶ月だったんだぞ?」
「あぁ、うちの魔術師団に居たのだって最短の一ヶ月だ!それに国家資格の取得は過去最速だったんじゃないか?しかも筆記は満点だぞ!」
ジン様もビルショート様も何故か私達の事を褒め…ながら、揉め出した。
騎士団での方が!魔術師団での方が!と私達がお世話になった期間の出来事を事細かに言い合い…揉める。
しかも内容は私達をベタ褒め…何という羞恥プレイだろうか。
止めに入らないお父様を見ると、お父様は嬉しそうに二人の話を聞いていた。
こんな顔が溶けたお父様を見るのは初めてかもしれないというほどにデレている。
「…行こうか。」
「…うん、私達の存在は忘れ去られてしまったと思うから…。」
三人のやり取りに付いて行けず…いや、行かずに頭を下げ「失礼します。」と声をかけてその場を離れる。
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