隣国の兄弟
「お初にお目にかかります、リリア・クリスティアです。リシェブール・ワインバル王太子殿下、本日は遠方よりお越し下さいまして誠にありがとうございます。」
「リリア・クリスティア嬢、初めまして!本日はこんな素晴らしい夜会に招待してくれてありがとう。」
一番最初に、リシェ様とクロード殿下への挨拶に行く。
リシェ様とは初めて出会った事にして、そのつもりで挨拶をすると…リシェ様は以前見せたような作り笑いを顔に貼り付けて挨拶を返してくれた。
そもそも…リシェ様と初めて会ったのは王城だったが、それはお忍びだった。
それからずっとオステリア王国に居たリシェ様だが、それも公表されてない事なので今夜の夜会はワインバル王国から態々お越し頂いたという事になっている。
リシェ様の芝居についつい笑みが溢れそうになって我慢していると、それに気づいたクロード殿下が嬉しそうに笑った。
「リリア嬢、おめでとう!今日は招待してくれてありがとう、楽しませてもらっているよ。」
「クロード殿下、ありがとうございます。ぜひ、ごゆっくりお過ごし下さい。」
リシェ様に続き、クロード殿下とも挨拶を済ませる。
すると、近くにいたリナリアが他の男性ゲスト達に囲まれた。
「すみません!僕と踊って下さい!!」
「いや、僕と!僕とお願いします!!」
「はぁ?お前は引っ込んでいろよ!僕だ!僕と踊って下さい。」
数名の男性にダンスを誘われ、リナリアが少し困った顔で私を見た。
さすが…可愛い妹はモテモテである!
…っと、そうじゃなかったな。
チラッと目の前のクロード殿下を見上げると、クロード殿下が笑顔を貼り付けたまま男性ゲストを睨んでいた。
私がクロード殿下を見ている事に気づいたリシェ様がクロード殿下を然りげ無く小突くと、私達に気づいたクロード殿下は顔を戻し「失礼!」と言ってリナリアへと近づいていく。
「リナリア嬢、私とダンスを踊って頂けないだろうか?」
男性ゲスト達よりも背が高いクロード殿下は彼らの背後からリナリアへと声をかける。
それに気づいた男性ゲスト達は青ざめた顔をしながら左右へ避けた。
「クロード殿下…!ぜひ、よろしくお願いします。」
リナリアはクロード殿下にカーテシーをすると、クロード殿下は嬉しそうに笑って手を差し出した。
その手に自身の手を重ねたリナリアはフワッと笑みを浮かべる。
ダンスホールの中央へと移動し、二人は他の方々と混ざってダンスを踊り出した。
「僕達も踊ろうか?」
「えぇ、そうですわね。」
リシェ様の誘いに乗り…お父様を見ると、お父様はコクリと頷いて「行ってきなさい。」と声をかけてくれた。
「よろしくお願いします。」
改めてリシェ様にカーテシーをすれば、リシェ様は嬉しそうに手を差し出す。
その手を取って、ダンスホールに向かおうと歩き出した時だった…。
「お待ち下さい、兄上!」
私はリシェ様と共に振り返ると、そこ居たのはロマネス殿下とジュード殿下だった。
クロード殿下が居なくなったのを見計らって近づいてきたようだ。
「おや、ロマネスも来ていたんだね?」
今、初めて気づきました!みたいな顔でリシェ様が答えると、ロマネス殿下は明らかに苛立った顔をする。
やはり兄弟仲はそんなに良くないのだな…と感じた。
そして…いつもはジュード殿下の傍にいる令嬢方も、今夜は鳴りを顰めている。
と、言うのも…いつも全面に出てくるメアリ様は男爵家なので招待されてないからだ。
いつもはメアリ様の近くにいる令嬢方も、今夜は他の令嬢や令息と談話しているようでかなり離れた位置にいるせいか声すら届かない。
「兄上…まさか、彼女と踊るのですか?」
「何か問題があるのかい?僕には特に婚約者も居ないし…今夜の夜会は彼女からの招待だ。」
ロマネス殿下が鼻で笑って、私を見下すように見た後…リシェ様に問いかける。
リシェ様は一度首を傾げ、そして私の腰を抱きながら笑顔で答えた。
私もとりあえず笑顔のまま頷くと、ロマネス殿下は面白くなさそうな顔をする。
「ところで、ロマネス。今宵の主役に挨拶もしないのかい?」
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