閑話・僕達のクリスマス
リオン視点の幼い日のお話。
クリスマスに因んだ番外編です。
僕達のクリスマスが始まったのは、リリアが記憶を取り戻した年の瀬…その日はとても寒くて外は真っ白な雪が降っていた。
全身を暖かい毛皮で覆い、顔を真っ赤にしたリリアが“雪だるま“という謎の雪像を作りながら空から落ちる雪に向かって「ホワイトクリスマスだぁ…。」と呟いたのが最初だったと思う。
“クリスマス“と言うイベントは毎年決まった日に行われて、その日が雪だと“ホワイトクリスマス“になるそうだ。
真っ白な雪の中、真っ赤な服のお爺さん“サンタクロース“が良い子にプレゼントを届けにやってくる。
日付が変わった真夜中にトナカイに引かれた空飛ぶソリで邸に来ると、煙突から中に入り…枕元に置いてある靴下にプレゼントを入れる。
リリアの前世…“葵さん“のいた国では枕元。
他の国ではモミの木を飾った根元に沢山置かれている事もあるらしい。
「サンタクロースは僕達にも来るのかな?」
プレゼントを届けに来るサンタクロースとはどんな人物だろうか?
煙突から入って煤だらけになったりしないのだろうか?
そもそも夜遅くまで焚かれている暖炉の煙突では火傷をするんじゃないかと心配になる。
…もっと言えば、そんな風に入ってきたら泥棒だって勘違いされないのかなとも思った。
「どうかなぁ?私達のいる世界では聞いた事がなかったでしょ?」
リリアは“雪だるま“にボタンとニンジンで顔を作り、バケツを頭の上に乗せる。
枝を胴体に刺し腕にすると、自身の手袋を枝の先へと被せた。
どうやら“雪だるま“が完成したらしく、リリアは誇らしげに腰に手を置き胸を張って僕に見せてきた。
その姿がとても愛らしくて「可愛いね!」と言えば、更に嬉しそうに笑う。
アレスにも見せたかったなと邸のアレスの部屋の窓に目を向けた。
「アレスはもうすぐお勉強が終わるのかな?」
僕の横に来たリリアは同じようにアレスの部屋の窓を見ている。
「まぁ、とりあえずは今夜のお楽しみ…と言う事で!」
リリアはそう言って、使っていた道具を片付け出したので僕も手伝った。
サンタクロースとはどんな人物なのだろう…片付けながらもずっとサンタクロースの事で頭がいっぱいだった。
その夜はいつも以上に静かだと思った。
それは多分、僕がいつもの時間に寝付けなかったから…。
いつ来るのかも分からないサンタクロースに心が躍って、興奮して眠れずにいると…カタンと音が聞こえた。
ベッドに潜っていた僕は、音のした方へと目だけを動かす。
部屋の扉から中を覗き込むリリアがいた。
リリアはソーッと僕の部屋へと入り、ベッドへと近づいてきた。
僕は目を瞑ってリリアが何をするのかジッと待つ。
「メリークリスマス!」
リリアは囁くような小さな声で僕に言うと、枕の横に何かが乗せられた。
「本物のサンタクロースがいるかは分からないけれど、どこのご家庭もご両親のどちらかがサンタクロースなの。…夢を壊したくないから言えなくてごめんね?」
リリアの小さな手が僕の頭をソッと撫で、先ほどと同じくらいの声音で僕に語りかけると…リリアは「おやすみ」と言って僕の部屋を出て行く。
リリアが扉を閉じた音を確認すると、僕はゆっくりと身を起こし…枕元に置かれたプレゼントを見た。
「なるほど!こうやって互いにコッソリとプレゼント交換すれば良いのか。」
プレゼントは暖かそうな手袋だった。
手に嵌めて、その温もりに顔を埋めると…僕はニッコリと笑う。
「来年からは僕も“サンタクロース“になるからね、リリア!」
翌年から…何故か相手にバレないように枕元にプレゼントを置き合う戦いが始まったのだった。
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本編とは関係ないけど、クリスマスなので書いてしまいました。




