甘々な侍女長
「だ…大丈夫?」
痛そうだと駆け寄り、抱き起こすと頭から足までの前面が見事に泥だらけだ。
そして…
「ぎゃあああぁぁぁぁ!!うわぁーーーん!!」
思わず耳を塞ぎたくなるほどの大音量で泣き喚いた。
4歳児だから無理もない。
どうやっても泣き止まないリナリアに兄のリーマスは見向きもしない。
リオンは耳を塞ぎながら私の傍に来てくれた。
「痛かったね、よしよし。」
天使かっ!!
一瞬我を忘れかけた私だったが、大音量の泣き声のおかげ?で現実に引き戻される。
持っていたハンカチでリナリアの顔の泥を拭う。
侍女のマリーにも手伝ってもらい、一緒に服に付いた乾いた泥を優しく払っていると邸の方から侍女長のエイミーが走ってきた。
「リナリア様!!何があったのです!?」
エイミーは私たちを掻き分け、リナリアの前にくるとリナリアを後ろに庇い私たちを睨んだ。
「勘違いしないでよエイミー、リナリアが走ってきて転んだだけだよ。」
リーマスはテーブルを離れる事なく、エイミーを見ながら淡々と話す。
「転ぶ前に助ける事はできたのではないですか!?まあ、こんなに汚れて!お部屋に行きましょうね?」
リナリアを連れてさっさと邸に戻っていくエイミーを、頭の処理が追い付かずポカンと見届ける。
ふと見上げると、マリーはギュッと拳を握り満面の笑みを携えていた。
実に怖い顔だ。
「いつもの事だよ。さっき僕が走り出そうとしたら止めて説教したくせに、リナリアには何でも許すんだ!」
リーマスは腿を数回撫で身震いすると、ムスッとして怒った。
その様子に違和感を覚える…
「ボク達が悪いってことになるの?」
リオンは不思議そうに首を傾げる。
「う〜ん。このままでいるとそうなるのかな?」
私は反対に首を傾げた。
「私は旦那様にご報告して参りますので、代わりの侍女を至急お呼びしますね?」
変わらず満面の笑みを携えたマリーは颯爽と邸へ戻る。
因みにマリーの言う旦那様は“お祖父様”のことだ。
実に怖い。
「お父様とお母様も…リナリアには寛大なの?」
そうであれば、お兄様だけ理不尽ではないか?と疑問を口にするとお兄様は首を横に振った。
「お父様は基本的には家に居ないから知らないんじゃないかな?お母様は注意するし、エイミーにも言ってるんだけどね…」
どこか力なくお兄様は俯いた。
「つまり…エイミーが甘いってこと?」
「甘すぎるよね。何でも許しちゃうし、悪いのは周りだって考えちゃうの」
なんとも迷惑である。
「「お兄様は大丈夫?」」
お兄様が心配になり出た言葉は、またしてもリオンと被った。
お兄様はクスッと笑うと「大丈夫だよ」と微笑む
「僕も学園に行くから休みの日くらいしか関わらないしね」
微笑んではいたけど、どこか寂しそうな気がして私とリオンはぎゅぅっとお兄様に抱き着く
お兄様は嬉しそうに「ありがとう」と呟いて抱きしめた腕を握り返してくれた
暫くするとマリーに呼ばれた侍女が来たので、再びお茶を入れてもらい領地の話をお兄様にしたのだった。