捕縛を終えて
使用人を含む全ての人間と証拠品を邸から運び出すと、先程の青年が騎士様と共に近づいてきた。
「君達の協力、感謝する。こんなに早く引き上げられるとは思ってなかったから本当に助かった。」
邸に乗り込んでから、運び出しの完了まで約二時間。
私としてはもっと時間短縮が出来たんじゃないかと思っているのだが…騎士様方にしたら早い方らしい。
「あと、この獣人なんだが…。」
屋根裏部屋の青年を騎士様方は持て余しているようで、彼をどのように扱って良いのか悩んで私達の元へと連れてきたという。
私達は顔を見合わせると互いにコクリと頷く。
「オステリア王国に連れて行っても良ければ預かりますよ?勿論、彼の証言が必要になった時はワインバル王国に一緒に連れてきますし。」
自国の民でもない彼を持て余すくらいならと、騎士様は簡単に事情聴取を済ますと私達に引き渡してくれた。
彼も俯くばかりで自分の今後に興味すらないのか、あっさりと私達と同じ馬車に乗った。
「王城へ顔を出した方が宜しいですか?出来れば、このままオステリア王国に帰りたいんですが…?」
捕縛を終えた今、私達に出来る事といったら拷問…では無く…尋問くらいだろうか?と悩んでいると騎士様は直ぐに頷いてくれた。
どうやら此処からは彼らの領分のようだ。
私的にも満足がいっていたので良しとする。
「あっと…そういえば、先程の鍵の束って何だったのでしょう?」
最後に見つけた鍵の束について騎士様に問いかけると、それについてもしっかり聞き出した上で報告書の写しを送ってくれるそうだ。
「さっきも言ったが、今回は本当に助かった。また協力を頼む事があると思うが、その時は是非よろしく頼む。」
騎士様が爽やかな笑みで私達を見送ってくれたので、私達はオステリア王国へ向けて馬車を進めた。
「当馬車は、凡そ一日半程でオステリア王国の王都にあるクリスティア家へと到着します。どうぞ皆様、ごゆるりとお過ごし下さい。」
某乗り物のアナウンスを適当に真似て獣人達へと声をかけると、獣人達は私を一瞥し…再びブランケットへと潜る。
モゾモゾと座り心地を確認し…落ち着いたのか寝息まで聞こえてきた。
安心し過ぎじゃないだろうか?と不安すら覚えるレベルで寛いでいる。
馬車の大きさはかなり広いので、これだけ居ても狭苦しさを感じなかった。
新たに増えた青年は私達からも獣人達からも少しだけ離れて座っている。
「…お腹空いてない?」
青年が痩せ細っているのが気になり、彼に声をかけるとフルフルと首を振って膝を抱えて俯いてしまった。
リオンとアレスに目を向けると、彼らも首を左右に振っている。
「え?普通にお腹空かない?私だけ?」
コテンと首を傾げると、隣に座るアレスが優しく頭を撫で…耳元で「僕も少し空いてる。」と呟いた。
耳に当たるアレスの息に身を捩ると、アレスがクスリと笑った。
笑い事ではない。
「うーん…あったかいスープでも飲む?パンとかの方が良いかな?」
ガサゴソと魔法鞄を漁り、中身を取り出すと…隣のリオンがヒョイっとパンを奪って齧り付いた。
さっきのアレって断った訳じゃなくて、青年への問いかけを諦めろって事だったの?
スープも普通に飲むと、その器に再度スープを注ぎキャティ様を鞄から出した。
キャティ様の前にリオンがスープを置くと、キャティ様はゆっくりと舐め出す。
その様がとても愛らしく…思わず手を伸ばそうとして、リオンにベシッと叩かれた。
私の代わりにキャティ様の頭を撫でるリオンは…キャティ様が飲み終えるのを確認して話し出す。
「キャティが公爵と商人の顔を教えてくれていたから助かったよ。ありがとう。」
「にゃぅ。」
リオンの撫でる手が気持ち良いのかスリスリと手に擦り寄るキャティ様。
それを嬉しそうに見つめるリオン。
「黒幕はまだだけど、キャティを…皆んなを攫った奴らは捕まえたからね。」
リオンがキャティ様と他の獣人達に聞こえるように話せば、ブランケットに潜った獣人達はモゾモゾと動いた。
どうやら聞こえているようだ。
「お腹空いたらいつでも言ってね?まだ到着には時間がかかるから…体が辛かったりしたら直ぐに教えて?」
私の言葉にも獣人達は反応したようで、再びモゾモゾと動く。
今のところは大丈夫なようだ。
「リリア…少し、良いかな?」
「ん?どうかしたの、アレス。」
お腹もいっぱいになり少しだけ眠気を感じ始めた頃、アレスは真剣な顔で私を見つめ…話しかけてきた。
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