氷漬けと拘束魔法、どっちが良い?
ワインバルの国王陛下の指示で、騎士団と打ち合わせた後…。
リシェ様の使者に嘘の情報を流してもらい、公爵と商人が落ち合う日を事前に知り得ていた私達は早速お邸へと乗り込む。
「なんだ?おい、どうなってる?公爵家に勝手に入ってくるなど…。」
公爵家のお邸をズカズカと入り、一番奥にある部屋の扉を開けた先にいた公爵と商人が驚いた顔で此方を見た。
「ボイル・メイカー公爵、そしてデッド商会は獣人達を違法に売買したとして捕縛命令が国王陛下より下りている。これがその書状だ!そこへ膝をつき大人しく捕縛されよ!」
リオンがズイッと前へ出ると、懐から一枚の紙を取り出し読み上げた。
所謂、逮捕状のような物だった。
「なっ!?どう言う事だ?私は知らんぞ!!くそっ…。」
「ど…どどどどういう!?え?捕縛?え?え?」
リオンの読み上げた内容に動揺しまくりの公爵と商人。
面倒臭いので、私が拘束する為の魔法を使おうと手を翳すと…リオンにソッと阻まれた。
リオンを見ればそれはもう…素敵な笑みを浮かべている。
私が止める間も無くリオンが無詠唱で氷の魔法をかけると、公爵と商人の両手と両足が綺麗に氷漬けになった。
満足そうに私を見たリオンを、思いっきりど突くと。
「…えっと、氷漬けされた手足は不用意に動かさないように!じゃないと、粉々に砕けて元には戻りませんから。」
一応、火魔法と水魔法でゆっくり溶かすつもりだが…その間に変に動かれると取り返しが付かない事になるので事前に注意すると…。
公爵も商人も「ひぃぃ…。」と悲鳴をあげ…失神してしまった。
うん、失神して動かないでおいた方が私的に助かるので…このまま氷を溶かし改めて拘束する為に魔法をかける。
氷を溶かし終えた私にリオンが舌打ちしたのが聞こえたが、聞かなかった事にする。
魔法をかけ終えると失神していた二人の頬を叩いて起こす。
「はっ!?私は何を?…あれは夢であったか……っえ?」
公爵が私の顔を見て固まった。
どうやら氷漬けされた事を思い出してくれたようだ。
「夢じゃないだと!?手は?足は?…は?」
暫くすると、ハッと気づき…公爵は自身の手と足を見た。
勿論、氷は溶かしておいたので氷漬けにはなっていない。
だが…今度は見えない何かで拘束されている事に気づき…ジタバタと暴れ出す。
「ん?やっぱり、氷漬けの方が気に入っていたのかな?」
暴れる公爵に笑顔で近づくリオン。
その周囲は真冬のように寒い…気がする。
きっと気のせいではない。
リオンの顔を見た公爵は再び意識を手放した。
「んー…、じゃあ、貴方はどう?氷漬けの方が良いよね?」
クルリと振り返った先にいた商人は、暴れる事なく口をハクハクし首を左右に振った。
その勢いで首がグキッと音を鳴らしていたが…大丈夫だろうか?
「え?氷漬けが良い?もうー…仕方ないなぁ。」
そう言って手を翳すリオンに、商人も再び意識を手放す。
「あれー?」
コテンと首を傾げるリオンの後頭部をベシッと叩けば、リオンは不服そうに口を尖らせた。
「こんなんじゃ足りないんだけど?」
「此処は自国じゃないの!そう言うのは…そうね、彼らが罪を償ってシャバに出てきたら…どこかの森に誘い込んでコッソリやりなさい。」
リオンを一生懸命に説得する中…何故か周囲の騎士様方は一歩ずつ私達から離れていくのであった。
「邸中の使用人も全て捕縛が完了した、そちらはどうだ?」
ワインバル王国の騎士様が私達の居る部屋へと入って来たので、此方も報告をすると一つ頷き最後にアレスからの情報を待つ。
アレスは私達とは別行動にしてもらって、獣人としての鋭い五感をフル活用し邸に残党が居ないかを確認してもらっている。
そのアレスも無事に部屋へと入ってきた…が、何か連れている。
「邸の屋根裏に潜んでいたので連れてきた。」
藍色の長い髪はボサボサしており、みすぼらしい服装の青年?をアレスは私達の前へと突き出す。
青年は下を向いたままだが、よく見ると耳が獣耳だと気づく…。
俯いた青年が顔を上げれば…その容姿には見覚えがあった。
「…え!?チャミシル…様?」
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