褒めて欲しい
「リシェは…とても優秀な子で、何をやらせても直ぐに出来たの。あの子の教師達は飲み込みの速さに驚いていたわ…教えるのが楽しいとも言っていたわね。それに引き換えロマネスはやる気があるんだか無いんだか直ぐに教師達から逃げて…ペラペラペラペラ…。」
話し始めた王妃様は、その見た目とは裏腹に…ずっと口が動いていた。
隣の国王陛下も王妃様のお話にウンウンと頷きながら聞いているので、いつもの事のようだ。
初見の私達は只々…圧倒されるばかりだった。
「やっぱり…“神に愛されし者“は他の者とは違うのかしら?」
話の最後の言葉が妙に引っかかり、リオンと共に顔を顰めそうになって…慌てて顔を作る。
王妃様は右手を頬に当てながら「ふぅ…。」と深い溜息を吐く。
「…発言をしても宜しいですか?」
私が挙手をし、王妃様を見ると王妃様は笑顔で頷いてくれたので居住まいを正す。
「これからの発言に不敬となる事が含まれる事をお許し下さい。」
お辞儀をし、国王陛下と王妃様を見ればコクンと頷き「許す。」と国王陛下が仰ったので話し始める。
懐な深い方で助かった。
「私達“神に愛されし者“ですが…確かにスキルはございますが、他の方々と大して変わらないと思っております。私達を育ててくれた祖母は元は普通の伯爵家の令嬢でしたが、未だに祖母に魔法で勝てた事はありません。」
「まぁ、そうですの?」
私の説明に王妃様は驚いた声をあげた。
「“神に愛されし者“は命を狙われやすいと祖父母には幼い時から鍛えて頂きました。私達が他の方々より優れているのは全て私達を鍛えてくれた祖父母や家庭教師のおかげだと思っております。」
そう言って私はリオンを見た。
リオンもコクリと頷く。
確かに私達は規格外に強いと思われているが…それは規格外の祖父母に鍛えられたからだと私は思っている。
幼少期から今まで毎朝の鍛錬は欠かした事がなく、それだけ頑張ってきた自分達を“神に愛されし者“だから強いと思われているのは心外だった。
「その事を踏まえた上で…リシェブール王太子殿下がもし“神に愛されし者“では無かったら、王太子に選ばれなかったのでしょうか?」
不敬だと分かっているが、リシェ様の為にどうしても聞いておきたかった。
本人では絶対に聞けない事だろうし…国王陛下が“不敬“を許してくれると言うのだ。
その言葉に甘えさせて頂こうと思う。
「リシェが“神に愛されし者“で無かった場合か。…そうだな、それでも私はリシェを選んでいたと思うぞ?」
「えぇ…あの子は陛下によく似ていますからね。それに優秀なだけじゃなく、あの子は人の事を思いやれる優しい子なのよ。」
王妃様の言葉に国王陛下は嬉しそうに微笑んで、ウンウンと頷く。
その言葉に私達も思わず笑みを溢した。
「では、その事を本人にも是非お伝え願えますか?リシェブール王太子殿下が優秀なのだとしたら、それはきっと弛まぬ努力の結果なのだと思います。たくさん頑張ったリシェブール王太子殿下を…国王陛下や王妃様としてではなく“両親“として褒めては頂けませんか?」
努力は頑張った事を褒めてもらうためにする物ではない。
だけど、時には誰かに褒めてもらいたいと思ってしまう。
それが次への活力だったりするからだ。
彼はきっと…王太子として選ばれる前から頑張って来たんだと思う。
選ばれてからも…それ以上に頑張って来たのだと思うから…。
彼が“神に愛されし者“だから王太子に選ばれたと思っている事を否定して欲しい。
そして彼の良いところをもっと彼に伝えて欲しいと思った。
私の言葉を聞いた国王陛下と王妃様は互いに顔を見合わせていたが、直ぐに私へと向き直る。
「リシェが“神に愛されし者“の話をすると無表情になるのは…それが原因でしたの!?」
それまで一度も笑顔を崩さなかった王妃様が驚いた顔で私に問いかける。
私がコクリと頷くと、王妃様は「あぁ…。」と目を瞑って天を仰いだ。
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