潜入開始
「リリア、僕…思ったんだけど。高等部に入ってから授業を受けた記憶が殆どないんだよね。」
馬車で国境を越え、リシェ様に渡された地図を元にワインバル王国の都市部から少し離れた邸に向かう途中…リオンが改まった感じで話し出す。
「大丈夫、それって気のせいでも何でもないから。」
今更だよね…と答えると、憂い顔で馬車の外を見るリオン。
馬車には私とリオンとアレス…そして、リオンの肩から下げられた鞄の中にキャティ様がいる。
獣人達の保護に向かうべく計画を立てていると、キャティ様に自身も連れていって欲しいと懇願されてしまった。
自分だけ逃げ出した手前、他の獣人達が気になっていたようだ。
もしかしたら、キャティ様が人型に戻るきっかけになるかもしれないと了承はしたが…それでも危険が多い。
リオンが責任持って守るということで、このスタイルになった。
街道を逸れ、暫く走ると木々に囲まれた邸が見えてきた。
邸から見えない位置で馬車を停めてもらい、此処からは徒歩になる。
木から木へと素早く移動し、邸の正面が見える位置までくると身を隠す。
「門には見張りだけのようね…他に馬車も来ていないみたい。」
「少数精鋭で回してるって言っていたくらいだから、警備は少ないんだと思うよ?」
リオンと状況を整理しながら話していると…アレスが小さな声で疑問をぶつけてくる。
「…先に王城に行って挨拶とかしなくて良かったのかな?」
アレスの言葉にリオンと顔を見合わせる…。
……忘れていた…と互いの顔に書いてあった。
「…此処に来るまで…なぜ誰も言わないんだ!!」
私の小さな叫びに今度はリオンとアレスが顔を見合わせた。
「「だって、リリアが仕切っていたから。」」
「私のせいかっ!」
さて、気を取り直して…邸の裏側にやってきました。
ん?王城に行かなくて良いのかって?
うん、人命第一主義なので王城は救出後に行きます!
決して…決して!此処まで来て戻るのが面倒臭いとか…そんな理由じゃないです!
「裏口は誰も立ってないんだね…ってリリア?真面目にやりなよ!」
心の中で言い訳をしていれば、リオンに怒られてしまった。
「アレスは裏口で待機してくれる?リオンと二人で中に入って…少しずつ誘導するから。」
この邸の使用人はリシェ様が雇ったと言っていたが…。
黒幕だと思われたリシェ様すら知らないところで画策されている可能性がある中…彼らを信用する事はできない。
獣人達が今もまだ、この邸にいる事を願いつつ…私とリオンは邸へと潜入した。
事前に聞いた話だと、獣人達は二階の最奥の部屋にいるそうだ。
人数は8名…結構に多いなと思ったが、獣王国から連れ出した回数が三回と聞き頷けた。
一度に3名を連れ出して、その倍の動物を同じ馬車に積んでいたらしい。
階段脇にいる見張りを見つけたリオンは、懐から何かを取り出す。
てっきり背後からゴンッと何かで殴るかと思っていたら、リオンが香炉のような物を見張りの側にソッと置いた。
気配を消すの上手いなぁ…とか感心していると、見張りの男が膝から崩れ落ちる。
倒れる前にリオンが抱き止めると、階段裏へと引っ張ってきた。
…え?何この子…潜入に慣れてるんだけど?いつ習ったの?私…一緒に習った記憶無いんだけど?
ジッとリオンを見れば、嬉しそうな笑顔で頷くから…とりあえず私も笑顔を返しておく。
階段を登ると最奥の部屋の前に二人も見張りがいた。
階段から最奥の部屋までは身を隠せそうなところも無いなと思案していると、再びリオンが香炉を取り出す。
廊下の端の方にソッと置くと無詠唱の風魔法を発動させる。
香炉から出る煙を微風に乗せて見張りへと送り込めば…数分で二人は膝から崩れ落ちた。
リオンのしたり顔に、私は初めて彼を敵に回したくないと思ったのは内緒だ。
見張りを廊下の端に移動し、万が一目が覚めても大丈夫なように魔法で拘束しておく。
すると、彼らの頭に触れてリオンが魔法を発動させた。
「一応、起きた時に大事にならないように闇魔法で夢を見させておく事にしました。」
サラッと怖い事言うのは止めて欲しい…とは思ったが、リオンの提案には納得なので目を瞑る。
階段の見張りには?と聞くと知らぬ間に済ませていたらしい。
「「さぁ、救出と行きますか!」」
互いに小さな声で気合を入れると、扉を開ける。
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