ただの良い人
リオンは本当に自由人なのかもしれない…。
今のタイミングでリシェ様に聞くってちょっとどうかと思う。
…思うけど、聞いとく事は聞いとかないとって気持ちも分からなくはない。
「え?今?今のこのタイミング!?」
聞かれたリシェ様も混乱しているのか、聞き返してしまう。
リオンは返事を待っているのか、真面目な顔のままリシェ様を見ていた。
「えっと…公爵が人身売買を企んでいると聞き、僕が公爵へと声をかけただけなんだよね。」
リシェ様は困ったように眉を寄せて、頬をポリポリと掻く。
それを聞いた私とリオンは首を傾げる。
…思っていたのと大分違うな。
「獣人達を公爵家に連れて来たのはいいんだけど…僕は欲しい訳じゃないし、だからって購入しなければ怪しまれるし他の貴族に売られても困っちゃうし…って思ってね。今は僕がこっそり管理してる邸に獣人達を一時避難させて…公爵には僕の信頼できる貴族に売るって話にしてあるんだよね。」
困った顔のまま話すリシェ様…その内容に私もリオンも思わず顔を顰めた。
このお方は…と深い溜息を吐く。
王太子殿下に向かって失礼な事なのは自覚があるが、もうすでに失礼な事をしまくっているので気にしない。
私達兄妹が溜息を吐いた事にリシェ様は更に眉間に皺を寄せ「…そうだよね、本当に取り返しのつかない事を僕はしてしまった…。」と呟いたので、全力で否定する。
「取り返しがつきますからー!!」
「なんなら全てを公爵家に擦りつける事だって出来ますからー!!」
私とリオンが思いっきりツッコミを入れると、リシェ様は吃驚した顔で固まる。
話を聞いていたお兄様は顎を手で擦りながら何やら思案していたかと思うと、話し始めた。
「例えばだけど…リシェが事前に掴んだ人身売買の情報を上手く利用出来ないかな?最初から獣人達を保護する目的で公爵家に近づいた…とか。」
「それでしたら…公爵が他の貴族に売る前に保護したのは、獣人達を安全に返還する為と…確実なる証拠を掴む為…とかの理由が宜しいかと。」
考えを纏めたお兄様に続き、リナリアもお兄様の考えに補足する。
見方を変えれば犯罪を犯す側から、拡大させない為に動いていた側に見えてくる。
「え?え?それじゃあ…僕が良い人みたいじゃないか!?」
先程とは違った困惑の顔で私達を見るリシェ様。
やはり彼に悪役は似合わないのだろう。
「「「「ええ、ただの良い人ですね。」」」」
兄妹全員で頷けば、リシェ様は困惑と驚きを混ぜたような複雑そうな顔になった。
表情がコロコロと変わり、リシェ様のイメージは欠片もない。
「でも!僕は罪を償わないといけないだろう?」
「え?何の罪を償うんです?」
両手を拳に握り、自身の膝の上に置くと自嘲気味に呟くので…私は首を傾げる。
何の罪が彼にあるのか今の所1ミリも分からない。
獣人達を連れてきた事だろうか?
だが、彼は人身売買をせず保護している。
「そんな事より…。」
「そんな事!?」
突然…リオンが話を進めようとすると、リシェ様は吃驚した顔で叫ぶ。
それをサラッとリオンは無視をする。
「そんな事より、公爵と商人の事を教えて欲しいです。あと、僕とリリアに彼らの捕縛を命じて欲しいです。」
どうしてもキャティ様を攫った奴らを捕まえたいリオンは、リシェ様から彼らの捕縛の指示を命じて欲しいようだ。
リオンはリシェ様が計画的に獣人を助けた事にし、犯人達を捕まえる…と言った流れにしようとしてるようだ。
既に彼の中ではシナリオが完成されているらしく、リオンはリシェ様に自身の望みを乞う。
「リオン・クリスティア、リリア・クリスティアに命ずる。僕と共に今回の人身売買に関わった者達を捕縛して欲しい。」
「「かしこまりました。」」
リシェ様は私達をそれぞれに見ると、困惑しながらもリオンと私に命じた。
「ちょっと待って!!クロード通さないとダメだから!リシェも他国の貴族に勝手に命じちゃダメだからね!?」
お兄様は大慌てで話に割って入ると、これからの流れをザックリ話し…この話は一旦ここで終わってしまった。
「…頭使ったから、何か甘い物でも作るかなぁ。」
「そうだね!」
先ほどホットケーキを食べたばかりだが、頭の使いすぎなのか甘い物を欲した私の呟きを…リオンは聞き逃す事は無かったようだ。
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今日は一日中、頭痛に悩まされていたので…文章がおかしかったらすみません。




