ご提案
自由で羨ましい…って言われたのは初めてだった。
よくよく考えたら、公爵家に生まれてきて自由に生きてるって凄い事だと思う。
いや…マナーとか勉強とか鍛錬とかが自分に合っていただけなのかもしれない。
私と同じように過ごしてきたリオンをチラリと見ると、やはり私と同じ事を思ったのか…私を見ていた。
「自由…って、思った事あった?」
リオンが私へと問いかけてきたので、私は左右へと首を振る。
私の仕草にリオンはコテンと首を傾げると、何故かお兄様とリナリアが苦笑した。
「改めて言われると確かに自由かも?」
コテンと首を傾げ…リオンと同じポーズになる。
「二人は自由だと思うよ?」
「確かに…色々と学ぶ事にお忙しいようですが、お兄様もお姉様もそれを苦とも思ってないのでしょうね。いつも楽しそうですもの。」
クスクスとお兄様とリナリアの笑い声が聞こえ、私とリオンは再度見つめ合うと…再び首を傾げる。
「…この家は良いな…、家族の笑い声など…僕には無縁だったから。」
私達を見ながらリシェ様は眉を寄せ…とても切なそうに微笑む。
リシェ様の言葉に今度は私達、四人兄妹で首を傾げた。
「こんなに仲の良い家族っていうのは珍しいんだよ?君達はもっと自覚すべきだと思う。」
私達をそれぞれ見ると、リシェ様は再び手で顔を覆った。
その手が少しだけ震えているように見えるのはきっと気のせいではないと思う。
「僕は…こんな形で王太子になどなりたくなかったんだ…。」
リシェ様の小さな呟きに私達は顔を見合わせる。
返答に困っていると、リシェ様は顔から手を退け…私達を見ながら話を続けた。
「七歳の時に“神に愛されし者“と分かった時から周囲の僕に対する目が変わったんだ。どこか期待するような目で僕を見てきた…でも、それは僕ではなくて…それがどうしても気に入らなかった。弟は呑気に過ごす中、僕は王太子として自由を奪われたんだ…望んでなった訳でもないのに!だからっ!!だから…ロマネスに…陛下に…王国に…。」
叫ぶような声は次第に細く…小さくなっていった。
復讐…と呼んで良いのか分からないが、リシェ様はやはり王国やロマネス殿下を恨んでいたのだろう。
「…リシェ様に黒幕は似合いませんね。」
私の呟きにリシェ様は眉間に皺を寄せながら顔を上げた。
今にも泣きそうな顔をしている。
「こーんな中途半端な黒幕ってないわよ。もっと…こう…どんでん返し的なラストを期待していたのに…これじゃ、読者は途中で本を閉じてしまいますわ!」
私以外の全員がキョトンとしながら私を見るので思わず笑ってしまいそうになる。
だって…推理小説好きとしては、こんな展開はつまらないんだもん。
「どうせ黒幕になりきれないのなら、最初から違う作戦で陛下方を困らせてしまえば良かったのよ!」
ふんっと鼻を鳴らし、私はソファーへ深く体を沈めた。
その反動でリオンが軽く浮いたようになったが…そんなに私は重くない…はず。
「違う…作戦?」
リシェ様がキョトンとしたまま聞き返してきたので、私はニヤリと笑う。
きっととっても嫌な笑みを浮かべているに違いない。
「『僕は二十歳になるまで世界を周って、見識を深めて参ります。』と言って、放浪の旅に出るとかお偉方が困りそうじゃない?」
「『僕的にはもっと国を良くしたいので、一度客観的観点から物事を見てみようと思います。』と言って平民として暮らすのも面白そうだよね?」
「『僕の妻に相応しい女性を探すため、世界を周ってきます!見つかるまで帰りません。』とかリシェっぽくないかい?」
「『より良い国にする為、僕は自分に何が出来るのかを見つける旅に出ます。』というのはどうでしょう?」
私、リオン、お兄様…そしてリナリアまでもが何故かリシェ様に提案する。
それを聞いたリシェ様は瞠目したかと思えば、突然笑い出した。
お腹を抱え、苦しそうに笑うリシェ様を私達は微笑みながら見ていた。
「そうそう!リシェ様は公爵家が行っていた人身売買をどこまで指示していたんです?」
リシェ様の笑いが治まるのを待ち、リオンが真面目な顔でリシェ様に問いかけたのだった。
ブクマ・評価・感想・誤字報告ありがとうございます。
なんか…思った方向に行かないのは、リリアのせいだと思ってます。




