黒幕というのは…
「因みに、どんな計画だったんですか?」
リシェ様を前に私は質問を質問で返す。
まさかそんな風に帰ってくると思っていなかったようで、リシェ様は瞠目すると眉間に皺を寄せて睨んでくる。
「…どういう事だ?全部…掴んだんじゃないのか?」
怪訝な顔で睨まれてしまったので、私は首を傾げる。
そもそも証拠は一つもないので分かったところで問い詰める事はできない。
たまたま、廊下で聞いているから話してくれるのを期待して招いただけである。
「私…そんな事、言いましたっけ?」
「……はぁ………言ってない…か。」
リシェ様は、お腹の深い部分から溜息を吐き出すと…右手で頭を押さえた。
フラフラとソファーに近づきトスンと腰を落としたので、私とリオンは向かい側に移動する。
「つまり…何も掴んでないのに、僕は自滅したのか?」
「まぁ、リシェ様自身がオステリア王国に乗り込んできた段階で既におかしい話だったんですけどね?」
私の言葉にソファーへと深く沈むリシェ様は相当お疲れのように見える。
とりあえず、マリーに紅茶を出してもらうように声をかけ…話を続ける事にした。
「たかだか一度の失敗で、黒幕が出てきてはダメですよ。」
ダメ出しをすれば、リシェ様がムスッとした顔をして私を睨む。
普段からは考えられない程、表情豊かに見えた。
いつもは作った笑顔を顔に貼り付けているようで気持ち悪かったから…今の表情の方が良いように思う。
「いいですか?本当の黒幕というのは最後の最後まで絶対に前に出てはダメなんです。」
「そうです!そんなにあっさり黒幕が出てきたらダメなものなんです。気になっても我慢しないと…それだけバレるリスクは高まるんですよ?」
私が黒幕の何たるかを語れば、なぜか補足するようにリオンも続く。
それをウンウンと頷きながら聞くリシェ様…。
その様子を見るお兄様とリナリアも同じようにウンウンと頷いていた。
「…ならば僕はどうすれば良かったっていうのだ?」
リシェ様はシュンとしながら私とリオンに意見を求めてきたので、私とリオンは互いに顔を見合わせる。
一度、コテンと首を傾げると私もリオンもリシェ様を見た。
「「何も。」」
そう…何もしなければ怪しまれる事もなく、全てはロマネス殿下が企てた事になっていただろう。
公爵家への指示も元を辿れない程に人を介せばリシェ様が黒幕だと思う者も居ない…やっていればだけど。
最後の最後でロマネス殿下を諌め…オステリア王国へ自身の弟の非を謝罪でもすれば、それこそリシェ様は1ミリも疑われなかったのだ。
「王太子という立場で表に出るには早すぎました。クロード殿下からの捜査協力を受けてから出るべきだったんです。」
私の言葉に今度は両手で顔を覆い…天を仰いだリシェ様。
大分…お疲れのようです。
長い沈黙が続いたので、手元の紅茶に口をつけると…私もリオンもほっこりする。
マリーの紅茶はとても美味しい。
聖女様じゃないけど、バリボリとクッキーを食べ…ズズズッと紅茶を啜ってみる。
なるほど!これは中々に面白い。
マリーがコホンと咳払いをしたので、一度で止めておく事にする。
「二人は…“神に愛されし者“なのに、とても自由で羨ましいよ。」
手の隙間からチラリと顔を覗かせるリシェ様は、どこか切ない笑みを溢した。
ブクマ・評価・感想・誤字報告ありがとうございます。
思った文章にならずに少し妥協した感があります。
しかも今日は短めです。
すみません。