本物の番
「…終わったかい?」
サクサクとクッキーを食べ紅茶を飲んでいた聖女様は、私達の話が終わるのを見計らって声をかける。
私達が頷くと、聖女様は紅茶をズズズッと啜って一息つくと話し始めた。
「リシェブール王太子殿下の事はどうするんだい?…私の立場ではどこの国の肩も持てないが個人的にリオンとリリアがどうするのかを知っておきたい。」
聖女様は世界を股に掛ける女だからだろう。
どの国にも干渉しないように気を遣っているみたいで…それなのに、私達には直ぐに会ってくれたり話を聞いてくれる。
「まずはクロード殿下に言います。」
「その後はクロード殿下に丸っと投げます。」
とりあえず私の中での決定事項を告げれば、リオンが後に続く…が丸投げって?
「だって、僕達が下手に干渉するとまずいでしょ!僕達は僕達にできる事をしないと…あと、僕個人としては人身売買した奴を捕まえたいと思ってるんだよね。」
どうやらリオンは、リシェ様よりもキャティ様に直接関わった方をなんとかしたいようだ。
それについては私も手伝いたいと思う。
「あと、私はジュード殿下の周囲を探らなければなりません。」
今回、陛下と約束した件を遂行しなければならない。
その為にはジュード殿下に近づかないといけないのだけど…。
チラリとアレスを見ると、アレスは笑顔なのに…どこか怖い感じがする。
「僕はリリアがジュード殿下に接近するのは反対ですが…リリアしか適任は居ないので出来る限り彼女をサポートしたいと思ってます。」
ニッコリと微笑むアレスが怖い。
…ジュード殿下に堂々と近づく為に陛下やお父様にアレスとの事をお願いしたが、アレスは本意ではないのだろうなと思う。
「…ごめんね?」
小さな声でアレスに謝罪すれば、アレスは首を横に振る。
「仕方なかったんだろう?…僕は暫く生殺し気分を味わうだけだよ。」
ふふっと優しい笑みを浮かべ…どこか遠くの方を見たアレス。
それを聖女様は不思議そうに見て、私とアレスに問いかける。
「なんで二人は“本物の番“にならないんだい?」
聖女様の言葉に私はアレスを見て、アレスも私を見ると…二人で赤面してしまう。
“本物の番“になる条件は…互いの体液の交換で…それってつまり…そういう事で…。
私とアレスがモジモジしてる事に聖女様は呆れたように溜息を吐く。
「“本物の番“になるのに性交なんか必要ないんだよ?互いに噛み合ったり…深い口づけを交わせばそれで済むはずだよ?…まぁ、みんな知らないようだけどね。」
聖女様の話に私もアレスもキョトンとした顔になると…再び顔に熱を帯びる。
性交が必要なくても…噛んだり…ディープキスをすればって…それはそれで恥ずかしい。
「…おいおい、生娘でもあるまいし。」
「この世界では生娘です!!」
聖女様がボソリと呟くから私は慌てて否定する。
勘違いされては困るのだ。
私は転生してるから…その…つまり…しょ…しょ…破廉恥です!!
「そういう意味じゃないよ…分かってんだろ?」
「えぇ、分かってますよ。」
聖女様が再び呆れた声を出すので、私は普通に答える。
中身はアラサー女だったから、愛だの恋だのキスだの性交だのは恥ずかしい事でもなんでもないのだ。
ついついリリアの思考で物事を考えてしまうからいけない。
だって…こんなドキドキは前世では味わった記憶がないんだもん。
いや、恋人いたんだけどな…そういう感じじゃないっていうか…?
「つまりは性交など無くても“本物の番“にはなれるのさ…ならないのかい?」
聖女様の問いかけに私は再度アレスを見つめる。
出来る事ならなりたい。
だけどアレスはどうだろう?
私の視線にアレスも同じように見つめ返してくれる。
「私は…アレスと“本物の番“になりたいな。」
ポソりと呟くと、アレスは私を見つめたまま破顔した。
その笑顔に思わず胸がキュンとなってしまう…。
「僕もリリアと“本物の番“になりたいよ。」
優しい笑みのまま私に囁くアレスは…それだけで心臓に悪い。
ドキドキが止まらなくなって俯きそうになれば、アレスがそれを許さないとばかりに私の顎をクイッとあげる。
互いに見つめあってると複数の咳払いが聞こえてきて、慌ててアレスと離れる。
あのままいたら…キスしていたかもしれない。
「互いの保護者にお願いして…リリアの誕生日に“本物の番“になろう。」
「えぇ…そうね、それまではお預けって事…よね?」
ドギマギしながら答えれば、何故かアレスがビシッと音を立てて固まってしまう。
あれ?私なんか変な事を言ったかな?
「…まさに生殺しだよね。」
私とアレスを見ながらリオンが誰にも聴こえないくらいの小さな声でボソリと呟いた。
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