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たぶん...悪役令嬢だと思います  作者: 神楽 紫苑
第3章 私リリア!運命が動き出したの。
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寝不足に夢見の猫

筆記試験を終えた夜、聖女様から使いが来た。

チョ…トニーが聖女様からの手紙を咥えて私の元へと運んできてくれたのだ。

手紙には「いつでも良いけど、お土産は持ってくるように!」と書かれてあったので、トニーの提げている魔法鞄に手作りのお菓子を入れて帰ってもらった。

そして私は急いでアレスへと手紙を書きマリーにお願いすると、リオンの部屋へと向かう。


ノックをし、リオンが「どうぞー。」と中から声をかけてくれたので入室する。

リオンは机に向かって何かを一生懸命に書いていたが、私が来たので手を止めて振り返ってくれた。

「聖女様から手紙が来たから、明日のお休みに教会に行かない?」

私の言葉に一度手元を見たが、「良いよ!」と言って了承してくれた。

アレスにも手紙を送った事を伝えれば、ウンウンと頷いて同意してくれる。


「いよいよかぁー…あの子、どうなったのかな?ちゃんと目を覚ましたのかな?」

リオンはあの獣人の事を考えないようにしていたのかもしれない。

心配でそればかり考えていたら、きっと今回の筆記試験は受からなかっただろう。

それでも逢えると分かれば、ついつい気になってしまうようだ。


「少しでも回復していれば良いのだけど…かなり衰弱していたもんね、心配だよね?」

「…うん。」

私の言葉にどこか元気なく頷くリオン。

その心境はきっと複雑なのだろう…。


翌日の予定を詰め私は早々に退室すると、今度はお父様の書斎へと向かい…リオンにした話をそのままお父様へと伝えると「一緒に行けなくて申し訳ない。」と頭を下げられてしまった。

仕事なのだから仕方ないのだが…先日、一発お見舞いしたのが効いているのだろうか?

最近のお父様は以前よりも早く帰ってくるようになり、家族との時間を大切にしているように感じる。

宰相という大変な役職に就いているが、ちゃんと家族も大事にしてくれているようで嬉しかった。


その後は厨房へ行き、聖女様へのお土産に簡単なお菓子を作った。

すぐ出来て、美味しいやつ…レアチーズケーキかな?なんて考えながら作って翌朝まで冷やしておいた。




翌朝、アレスが乗った馬車が邸のエントランスへと到着する。

今日はこの馬車で教会に行く予定だ。


「ねぇ、本当に僕も行かなくていいの?行こうか?今から支度するよ?」

昨日からリシェ様は、自分も教会に行かなくて良いのかと何度も聞いてくる。

正直…ウザいくらいに絡んでくる。

きっと可愛い獣人の女の子が見たいだけなのだろう…その下心にリオンが怖いくらいの笑顔で拒否していた。


馬車からアレスが降りてくると、私の手を取り中へとエスコートしてくれる。

こういうちょっとした事をやってくれるのが女の子として、とても嬉しく感じる。

思わずキュンキュンしていると、リシェ様の声が馬車の外から再び聞こえてきた。

私の後に続こうとしたリオンが、振り返ってニッコリと笑って…「目立つので止めて下さい。」と告げていた。

その言葉と雰囲気にリシェ様は苦笑し「じゃぁ、リナリア嬢とお茶でもしてるよ。」と引き下がっていく。

そんな暇があったら、進捗状況を確認して欲しいものだ。


馬車が動き出して暫くすると向かい側に座るリオンが大きな欠伸をした。

「珍しいね…リオンが欠伸するなんて。」

普段から規則正しい生活をしているので、滅多な事では欠伸をしないのだが…今日のリオンは何だか少し眠そうだ。


「昨日…論文書いてたから…。」

先日、話題に上がった論文を徹夜して仕上げたらしい。

今日は自身の“運命の番“に逢えるというのに…なんでその前日にやっちゃうかね?


「論文は早く出したかったんだ!次の学会で発表して…僕もリリアに追いつこうと思ってね。」

「私に追いつく?」

再び欠伸をし、論文の話をするリオンに…ちょっと何を言ってるのか分からなくて聞き返してしまった。


「リリアは既に七歳の時に新しい算術を学会へと発表してるだろう?上位の爵位を賜るのに有利な功績を立てているリリアに対して…僕もって思っていたんだよ。リリアがヒントをくれたから感謝してる。」

リオンはずっと何か新しい発見を…この国に良い事を…と、考えていたらしい。

そういう考えを持ってるだけで私は凄いと思えるのだが、リオンはずっと私に追いつこうと思ってくれていたみたいだ。

先を進んでいたつもりもないが、リオンの頑張りには純粋に褒めてあげたくなる。


再び大きな欠伸をするリオンに苦笑しつつ、教会に着いたら教えてあげるからと眠るように促した。

数分で着いてしまうが、少しでも仮眠は取った方がいいだろう。

何と言っても、これからリオンの“運命の番“に逢うのだから…。



教会に到着すると、リオンはゆっくりと伸びをし…先ほどよりも顔色が良くなっていた。

聖女様がいるお部屋まで案内してもらい、部屋へ入ると待っていた聖女様は私達だけ招き入れ人払いをする。


「久しぶりだね…何だい?若さの秘訣かい?」

「そうですね!どうやって若さを保っているのですか?」

途中で邪魔が入ると思っていたのか、私の返しに吃驚した顔をする聖女様…勝った!


「全く…幼かったお前はまだ可愛かったのにね。」

「……今もそれなりに可愛いかと思いますよ?」

聖女様の嫌味に、普通に返せば…呆れたように溜息を吐かれてしまった。

…解せぬ。


「まぁ、可愛いと言えば可愛いね。若さの秘訣は格好良い男を見る事さね!」

そのままスルーするかと思っていたら何故か普通に若さの秘訣を教えてくれた。

それにしても…格好良い男を見るって…私は思わずアレスを見てしまった。


「格好良い男性を見れば、女性ホルモンが分泌される訳ですね?」

「何だい、分かっているんじゃないか…つまらない。」

面白くなさそうに口を尖らせ、ブツブツと文句を言う聖女様。

確か前世の雑誌か何かで見た知識に過ぎないので、本当のところは分からないのだが…聖女様を見れば有効なのだと思う。


「早速だけど…。」

そう言って聖女様は一度部屋の奥へ行き、小さな猫を抱いてきた。


「精神的なショックからか…完全獣化が解けずにいる。」

プルプルと小刻みに震えた猫は私達を順番に見て、リオンのところで止まった。

時が止まったかのように二人は見つめ合っている。


「見た目は猫だが、言葉はしっかり分かっているようだがら気をつけるんだよ?」

聖女様はそっとリオンへと猫を渡すと、猫はモゾモゾと動くと収まりの良い位置で止まる。

こうしていれば、獣人だとは思えない。


「年齢はリオンとリリアの二つ下だね…リオン、良かったね。」

聖女様はニヤリと笑ってリオンを見る、リオンはコクンと頷いて腕に抱く猫を撫でた。

猫は目を細め、気持ちが良さそうな顔でリオンを見つめていた。


「獣王国の元貴族…カリューア子爵家の末の娘・キャティだ。」

聖女様は姿勢を正し、話し始める。

この獣人の素性と経緯をどうやら掴んでいるみたいだ。


「カリューア子爵家は昨年、没落した貴族だ。表向きは事業に失敗し借金を抱えての心中…だが、実際はどうやら違ったようだよ?」

事業の失敗で…借金。

しかも心中までがセットか…実際のところは違うというが、この獣人の家族は残っていないのだろうか?


「キャティの両親は邸で死亡、長男は病で倒れ…長女は家族の死を受け止めきれずに自殺…キャティは学園の寮にいたから助かったようだ。」

「…殺人…って事ですか?」

聖女様は私の言葉に緩く首を振った。

実際のところは分からずに処理されてしまったようだ。


「カリューア子爵家は遠縁の親戚とやらが引き継いだそうだ…キャティはその親戚に売られたんだろうね。」

「「…っ!?」」

聖女様の言葉に私とアレスは瞠目し、そしてリオンの腕の中にいるキャティを見た。

キャティは美しい淡い碧い瞳を不安げに揺らすと、瞳を閉じてしまった。


暫くすると私の隣にいたリオンからすぅーと寝息が聞こえくる。

寝不足だったところに、暖かい猫を抱いたせいだろうと思っていると…聖女様がふっと微笑んだ。

「どうやらリオンも、心を開いてもらったようだね。」

聖女様の言葉に私もアレスも不思議そうな顔をすると聖女様は説明してくれた。


猫科の獣人の中には“夢見“というスキルが潜在的に備わっているそうで、自身の夢を相手に見せる事が出来るそうだ。

聖女様もリオンと同じように夢の中で獣人の生い立ちを知ったらしい。


猫科と聞いて、ふとアレスを見た。

私の視線に気づいたアレスが困ったように笑ったので、どうやらアレスには無いようだ。

その様子を見ていた聖女様が、呆れたように溜息を吐いた。


「“夢見“は完全獣化した時しか出来ないそうだよ…良かったね、アレス。」

聖女様の言葉に苦笑するアレス…それを理解出来ずに首を傾げる私。

更に呆れた声を出す聖女様。


「“夢見“っていうんだから、一緒に寝てなきゃ見れないだろう?」

聖女様の言葉に…やっと理解が追いついた私は、そのまま赤面して固まってしまう。

一緒に寝るって…一緒に寝るって!?

再びアレスを見て、変な想像をした私は更に顔が熱くなってしまった。


「だから、完全獣化じゃなきゃ…って、こりゃ聞こえてないね?」

深い溜息と共に聖女様はソファーへと身を深く沈めて私達の様子を呆れた顔で見ているのであった。

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