ポツンとリオン
「……リリアが…君を?」
クレア様の言葉にリオンは信じられないという顔で応える…が、きっと演技だと思う。
リオンにはラライカ様から事前に告げられているので、予想はしているはずだ。
クレア様は涙を瞳いっぱいに溜めてリオンへと身を寄せ…ようとして、リオンが然りげ無く両肩をガシッと掴み拒む。
「「………。」」
互いに困惑しながら見つめ合うと、それでも強引に抱きつこうとするクレア様を押し戻すリオン。
「…えっと、何をしようとしてるのかな?」
リオンが笑顔で問えば、クレア様は眉間に皺を寄せて再び涙を瞳に溜める。
「「………。」」
二人の間に長い長い沈黙が流れた。
『ねぇ、見てるんでしょ?リリアはこのまま悪役になりたい?』
クレア様と無言の攻防を続けるリオンがテレパシーで私へと問いかける。
実に器用だなと思う。
『こんな形の悪役は本意じゃない。』
こんな人の手でなる悪役は何だか気持ち悪いし、やる気も出ない。
むしろ悪意を感じるので止めて欲しい。
『じゃあ、僕が論破する?もしくは、この状況を上手に打開する為にスキルを使ってもらえると嬉しいんだけど。』
リオンの提案を聞き、私は自分のスキルを使う事にした。
論破してしまえば、クレア様から更に恨まれる気がしたからだ。
『ーーーーー最後の采配ーーーーー』
返事の代わりにテレパシーで魔法の発動を告げる。
すると、リオンはクレア様の肩から手を離した。
「リリアが…君にどんな虐めをしたのかな?」
如何にも心配だと言った顔でリオンはクレア様に問いかける。
その言葉にクレア様はパァァと何故か明るい笑顔になった。
きっと「私の言葉を信じてくれたんだわ!」とか思っているに違いない…と勝手に想像する。
変な事を考えてる間に目の前には発動したスキルの選択肢が現れた。
Aリリアが乗り込む/Bリオンが論破する/C何もしない/D認めて悪役になる
久々の四択となった…最近、あまり見ないスタイルに懐かしく思う。
今回はCが凄い勢いで点滅していた。
点滅してる文字に触れ、他の選択肢が消えると…選んだ文字が輝き出す。
『……“何もしない“でいいみたい。』
『んー…了解!』
私の選択を告げると、リオンはクレア様の言葉をただただ聞いていた。
その殆どが、他の方々とお会いして話そうとすると直ぐに断られてしまうのだとか…。
そうするように私が妨害してるって思ってるみたい。
…それって虐めっていうのかな?とは思う。
そして、勝手に私のせいだと思わないで欲しい。
リオンに関しては別だけど。
「…いつも色んな方とお話したいと思っているのに、リリア様が邪魔をするんです!リリア様にはジュード殿下という素敵な婚約者がいらっしゃるのに…。」
「「は?」」
思わず変な声が出てしまった。
何だそれ?どこ情報だよ…間違えられるとか本当に迷惑だな…と思いつつ慌てて口を押さえる。
どうやら聞こえてないようだ。
「…リリアの婚約者は別の方だし、ジュード殿下は先日婚約を解消されたはずだよ?」
「え?」
リオンが直ぐに訂正すると、クレア様が目を見開き驚いた顔をする。
私の婚約者が違う方だった事で驚いたのか、ジュード殿下がフリーになった事に驚いたのか…?
「えっと…では、ジュード殿下は今…?」
「そうだね、お相手が決まってない状態だね。」
どうやら後者だったようで安心する…アレスに興味を持たれても困るからね。
リオンの言葉にクレア様は花が咲くように嬉しそうに微笑んだ。
…新しいターゲットが決まったようだが、私の計画的には困るな。
「おいっ!そこで何をしてるんだ?」
嬉しそうに微笑むクレア様と、それを見てニッコリと笑うリオンの後方から突然声がかかる。
二人は驚いて振り返ると、ジュード殿下とロマネス殿下が建物の方から近づいてきていた。
「…二人はそういう関係なのか?」
「違います!」
ジュード殿下の言葉に、リオンが訂正しようと口を開くと…それを押しのけクレア様が前に立って凄い勢いで否定する。
先ほどまでリオンに抱きつこうとしていたのにね。
何だろう…リオンがフラれたみたいになっちゃったよ。
「たまたま、お話していただけです!!」
「…そ…そうか。」
クレア様の迫力にジュード殿下が一歩後退る。
その横で面白い物を見るかのような顔をするロマネス殿下。
「ジュード殿下!宜しければランチをご一緒しても?」
クレア様は掴みかかりそうな勢いで詰め寄り、両手を胸の前で握り…上目遣いで“お願い“のポーズをとる。
瞳を潤わすのも忘れない。
その顔にジュード殿下は直ぐに嬉しそうな顔を作って了承した。
あっという間に三人で建物の方へと向かっていく…。
ポツンと残されたリオンが…ポソりと「何だあれ?」と呟いた気がしたが聞かなかった事にした。
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