久々の登校
翌日、久しぶりに学園へ登校した。
何故か、使用人と共に私達が出掛けるのを見送ってくれるリシェブール王太子殿下こと…リシェ様。
私達や使用人の心臓に悪いから是非とも止めてもらいたい。
リシェ様は我が家のご飯がとてもお気に召したのか「ずっとここに居たい…。」と何故か切なそうな顔をするので本当に困る。
隣国の王太子がずっとここに居ることなど出来ないし、だからと言って料理長を奪われても困ってしまう。
何故かリオンは私の心配をしてたが、昨日も人の物は奪わないって言っていたので私は1ミリも心配してないんだけどね。
久々の学園での授業は、正直…追いつける自信は無かった。
でも実際はそんなに混乱する事もなく、それなりに分かったので先生の教え方が本当に上手なんだと感心した。
そして現在…ランチタイムへと入ったのだが…。
「リオン様、少しだけリリア様をお借りしますね?」と言って何故か私はラライカ様と一緒に学園の中庭に来ている。
しかも茂みに隠れている。
「えっと…お話というのは?」
「しーーーーーっ。」
小声で問うと、ラライカさんは唇に人差し指を当てて静かにするように言われてしまった。
「今日、2限目でクレア様と一緒になった時にリオン様が学園に来ているという情報を掴んだらしく…リオン様をお昼休みにここに誘うような話をご友人となさっているのを聞きましたの!」
人には静かにするように言っておきながら、自分はそれなりのボリュームで話すラライカ様。
その圧の強さに思わず後退りそうになる。
「リリア様とご一緒だと誘いづらいだろうと思って引き剥がしましたの!何やら嫌な話をなさっていたので…。」
「嫌な話?」
面白がっている訳ではなく、どうやら心配しての事だったようだ。
ラライカ様の言葉に思わず眉を顰めると、ラライカさんも渋い顔をしている。
「クレア様は、リオン様や他の貴族男性の方に声をかけまくっていますが…皆様に断られ続けているようなんです。それをリリア様が邪魔してると思っているらしくて…。」
「…私、婚約者がいるんだけど。」
どうやらリオンが毎回、私を理由に断っているのがいけなかったようだ。
何だろう、自分から悪役令嬢になるとか言っときながら既にされてるという…嫌な感じだ。
「えぇ、それなのに何を勘違いしていらっしゃるのか……来ましたわ!」
ラライカさんの声に思わず私も口元を両手で押さえて茂みに潜る。
…そもそも、ここで隠れていていいのだろうか?
見つかったらもっと状況が悪くなるような…?
「リオン様…やっとお逢い出来ました。」
リオンの先を歩き、誘導するかのようにベンチの前で立ち止まるクレア様。
顔を綻ばせ自然に見える笑顔でリオンへと微笑めば、リオンは一見自然に見える作り笑いで応える。
…あざとい対決なのか?
「そうだね、学園自体が久しぶりだから…ずっとリリアと騎士団の遠征に行っていたしね。」
リオンがクレア様をベンチに座らせながら話し始めた…が、何だろう?やっぱり私をダシに使ってるよね?
態とだよね?だってさっきコッチ見たし。
「…リリア様と?」
「うん、リリアと。」
切なそうな顔でコテンと首を傾げるクレア様に、リオンは笑顔で返す。
絶対に態と私を貶めようとしてないか?
リオンの返した言葉にクレア様は更に切なげな表情をし、目には涙を浮かべる。
「…やるわね。」
「…いや、リオンには効かないと思うよ?」
茂みから少しだけ顔を覗かせたラライカ様がキリリとした目でクレア様の表情に呟くと、その横で私も呟いた。
ああいう態とっぽいのはリオンには効かない。
そもそも、リオンの方が上手いのだから…。
吃驚した顔で私を見るラライカ様に私はしたり顔で頷いた。
「…僕に話があるって何かな?」
リオンは心配したような顔をし優しくクレア様へと問いかける。
そういうところだよ!分かってて聞いてるよね?
むしろ話なんか1ミリも興味が無くて、既にお昼ご飯は何がいいかな?とか思ってるんでしょ?
私には分かる!
『リリア、煩いよ?ちょっと思考を黙らせてくれる?』
心配そうな顔のままリオンが私へとテレパシーを送ってきた。
…本当、顔と考えが違いすぎるよね。
『リリア?』
催促するように名前を呼ばれたので仕方なく思考を黙らせておく。
「こんな事…誰に言ったら良いのか分からなくて、私…リリア様に虐められているみたいなのです。」
ポロリと一粒の涙を零し、胸の前では手をギュッと握り締め…リオンから見たら恐らく上目遣いをする。
最高にあざといポーズでクレア様はリオンへと訴えたのだった。
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今更ながら第三章の冒頭の回収です。




