最強の妹
「じゃ、僕がオステリア王国にいるのは内緒にしてね?ロマネスには僕からそのうち話すからさ!」
「あ…あぁ、勿論だ。逆にいると分かれば勘づかれるしな、リリア嬢の計画にも支障が出るはずだ。」
クロード殿下は何とも言えない顔でリシェブール王太子殿下に応えると、私達家族の方へと向き直る。
心なしかリナリアを見てるようにも見えなくもない…気のせいだと思う。
「此度はクリスティア家を巻き込む形になってしまって申し訳ない。しかもリシェまで…。」
「殿下、お気になさらず…解決した時に“これで良かった“と話せるように尽力致します。」
クロード殿下の言葉にお父様が応えれば、クロード殿下は「そうだな。」と返す。
王城の入り口にはお兄様のご友人方も自身の父親と共にそれぞれの馬車へと乗り込んでいた。
その中に一人紛れるようにリシェブール王太子殿下が私達と同じ馬車へ乗り込む。
リシェブール王太子殿下が王城に来た際に色んな人を介して報告されたように思っていたが、そうでは無かったようだ。
城門にいた警備兵や騎士達はワインバル王国からの使者としか聞いておらず、確認に向かった外務大臣の部下がリシェブール王太子だと気づき報告したそうだ。
それまでは長いローブで後ろの方に隠れていたらしい…。
内密にするのにバレバレじゃんとか思っていたから、ホッとした。
アレスも一緒に馬車へと乗り込めば、リシェブール王太子殿下は既にリナリアの横をしっかりキープしていた。
素早い行動に思わず顔が引き攣ってしまう。
「じゃあ、クリスティア家に行こう!楽しみだな!ね?リナリア嬢もそう思うだろ?」
「はい、リシェブール王太子殿下。」
リシェブール王太子殿下はニコニコしながらリナリアの顔を覗き込むように話しかけると、戸惑いを一切顔に出さずに愛らしい笑顔で答えるリナリア。
何だろう…この敗北感は…勝てる気がしない。
しかもいつの間にか互いに自己紹介とか済ませているし…やる事が早すぎる。
「リリアの魅力は僕だけが分かってればいいよ。」
私の心情を察してか…そう言ってアレスが私の髪の毛を掬ってキスを落とせば、リオンが「そうだよ?リリアの魅力は僕が分かってるからいいんだよ?」とコテンと首を傾げなから私の顔を覗き込む。
いつものように私の横をちゃっかりキープして座るリオンとアレス。
今も昔もこの並びが定番だから、違うと少し居心地が悪い感じがするくらいだ。
因みに、リナリアの反対の横はお兄様がキープしてリシェブール王太子殿下がちょっかいを出さないように見張っている。
「…君達は兄妹なのだろう?」
目の前に座ったリシェブール王太子殿下が不思議そうに私達を見るので、アレスは首を振り…リオンは頷いた。
「リリアは僕の婚約者…いや、妻になる女性です。」
“妻“と断言するアレスに胸がキュンとした…やだ、何それ…凄い嬉しい。
私が惚けていれば、隣のリオンが私の腕に腕を絡ませ前のめりになった。
「僕の妹ですが何か?可愛い妹達を愛でて何が悪いのでしょう?」
さも当然の権利だろうと主張するリオンに思わず苦笑する。
こっちの主張も嬉しい限りだ。
「いや、分からなくも無い。こんなに可愛らしい妹を持つと兄というのは気が気じゃ無いだろう?」
「「えぇ!」」
リオンと共に何故かリーマスお兄様も同意した。
それを面白そうにクツクツと笑ったリシェブール王太子殿下は「羨ましいよ。」と返す。
私達の様子をお父様とお母様は嬉しそうに微笑んで、ただただ眺めているだけだった。
お邸に戻り、使用人総出でリシェブール王太子殿下を歓迎すると直ぐに来賓用の客間へとお父様が案内する。
その後ろを私達も着いて行く。
部屋に案内されたリシェブール王太子殿下は自身の侍従に部屋を確認させ、私達へと向き直った。
「突然の事だというのに感謝する。良かったらいつでも部屋を訪ねてきて欲しい、特にリナリア嬢…君を歓迎する。」
リシェブール王太子殿下はリナリアにそっと近づくと両手を持ち上げ自身の唇を落とす。
愛おしそうに見る目が本気だ。
あんな美形にあんな事されて落ちない女性などいないだろう。
心配になり、リナリアを見れば…普通に笑顔で「では、何かあれば伺いますね。」と応えていた。
何この子!?なんで、平気で笑っているの?
私が思わず瞠目して固まっていると、リシェブール王太子殿下がリナリアの対応に唇を尖らせる。
「可愛い笑顔は嬉しいけど、僕としては真っ赤になった顔も見てみたいな!」
「ふふっ…リシェブール王太子殿下は面白いお方ですね。」
文句を言いつつも楽しそうなリシェブール王太子殿下と、それをサラッと躱して笑顔で応えるリナリア……。
どうやら我が家で最強なのはリナリアなのかもしれない。
…私も負けないんだからっーーー!とか思ってる段階で既に負けてる自信がある。
二人の遣り取りはそれから暫く続くのだった。
「あっ!アレスって言ったよね?安心してね、僕は人の物を奪うような趣味は無いから!でも可愛い子には普段通り接しちゃうから…やきもきさせちゃうけど…先に謝っておくね?」
「…はい。」
リナリアとの遣り取りを終えたリシェブール王太子殿下はニコニコしながらアレスへと話しかけ、その言葉にアレスがタジタジになる。
毎回…せっかく心で締めの言葉を呟くのに、阻止してくるリシェブール王太子殿下に内心で侮れないと思ってしまうのは私だけだろうか?
「そうそう、リシェブール王太子殿下って長くて面倒だから僕の事は“リシェ“って呼んでいいよ?居る事がバレても面倒だしね。」
サラッと愛称で呼ぶ事を提案されて、今度はアレスだけでなく私達もタジタジになってしまうのだった。
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