余程のバカは存在するらしい
「ご存知…なんですね?」
思わず驚いた顔をしてしまったが、何とか声に出してリシェブール王太子殿下に問いかける。
どうやら驚いていたのは私達二人だけではなかったようで、よく見ればクロード殿下やお兄様方も吃驚した顔をしていた。
「ん?あぁ、だって僕もそうだし。」
あっさりと自分もそうだと明かすリシェブール王太子殿下に再び驚いてしまう。
“神に愛されし者“だと自分で名乗る人間は居ないのだから…。
「あれ?…って、これって言っちゃまずい事だったりするのかな?」
持ってて当たり前に育ったのだろう…そもそも口外したらいけない事だと知らなかったようで更に驚いた。
そうだよね…命を狙われる危険と言われても、そもそも王太子ってだけで命は狙われるもんね。
「あー…じゃぁ、これは内緒って事で。」
そう言ってリシェブール王太子殿下は口元に人差し指を立ててシーッとして見せる。
何ともチャラ…いや、軽いお方だ。
「さて、話を戻して続きを聞かせて?」
ニッコリと微笑むリシェブール王太子殿下に催促され、私は話を続ける事にした。
皆様方は今も微妙な顔のままだが、気にしない。
「最大の疑問なのですが、目撃された馬車の持ち主は本当にワインバル王国の公爵様なのでしょうか?それとも他の方が貶める為に偽装した可能性もあるのでしょうか?」
国境付近の町村で目撃された馬車には公爵家の紋章が入っていたというが、紋章入りの馬車を態々使うなど…普通ならば考えられない。
余程のバカで無い限り、普通ならば偽装して公爵家を貶めようとしていると考えるだろう。
「あー…それね、本当に公爵家の馬車だった。」
「「「は?」」」
リシェブール王太子殿下の何とも間の抜けた声に思わず数人が声を漏らし、慌てて口を噤む。
その様子を気にも留めずにリシェブール王太子殿下は話を続けた。
「オステリア王国から連絡を受けて直ぐ私の部下が秘密裏に国境へ向かって、馬車を確認し尾行したら…公爵家の中に入って行ったんだよ。その後、馬車から大量の動物が邸へと運ばれて行ったところまで確認が取れてる。」
…余程のバカの方だった。
そんな堂々と紋章入りの馬車で運ぶバカが世の中にいるなんて…信じられない。
思わず残念な物を見る目になってしまうと、リシェブール王太子殿下が苦笑する。
「…リリア嬢の気持ちは分かるよ。普通は紋章入りの馬車で目立つ事などしないだろう…僕なら有り得ない。」
思わずウンウンと頷くと、リシェブール王太子殿下も同じように頷く。
いるのか…この世の中にそんなバカが本当にいたのか…。
しかも公爵家…本当に有り得ない。
「他の疑問は無いかな?僕は暫くはオステリア王国に滞在して、動物の輸出に関する報告を待つから…何かあったら聞いてね?美しいレディの疑問は何でも答えちゃうよ?」
ニコニコしながら嬉しそうに私とリナリアを見るリシェブール王太子殿下。
…凄いチャラい。
こんなにチャラい人、前世を含めても初めてかも。
あれか?女性がいたら口説かないと失礼とか思ってるのかな?
情熱の国・ワインバル王国とか言われてるもんな。
…オステリア王国に生まれて良かったなと心でヒッソリと思うリリアなのだった。
「そうそう、滞在中はどこかの公爵家にお世話になるからヨロシクね?出来たらクリスティア家がいいな!リーマス、そこんとこ上手くやってね?」
せっかく締めの言葉を心で呟いたというのに…。
リシェブール王太子殿下はサラッと爆弾発言をし、お兄様の肩をバシバシと叩きながらベッタリとへばり付いて離れなかった。
あれは「うん。」と言うまで離さないという意志を感じるのは私だけでは無いと思う。
チラッとリオンを見ると、リオンも私を見て互いに苦笑するのだった。
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