ワインバル王国の王太子
謁見の間から退室すると、入れ違いにワインバル王国の王太子が謁見の間へと入って行った。
お母様は王妃様と話をすると言って別れ、私達兄妹はクロード殿下方と共に王城の入り口にほど近い部屋へと案内された。
全員が椅子やソファーへと座り、侍女が紅茶を用意してくれる。
私の隣にはアレスと、反対にはリオンが座り…その横にリナリアが座る。
そこへクロード殿下が挨拶へと来てくれた。
「此度の事、リナリア嬢には謝罪し切れないほど迷惑をかけたな。」
クロード殿下の言葉にリナリアは笑顔で首を振った、その仕草にクロード殿下は珍しく目を見開く。
「お心遣い感謝致します。私の力不足もございます故、どうかお気になさらずに…。」
リナリアは美しい所作で返事をすると、クロード殿下はハッと我に返る。
幼い頃に数回しか会っていなかったから、リナリアの変貌に驚いているのだろう。
ウチの妹はとても美しいのですよ!と、どこか誇らしげに思う。
「此方こそ、気遣いに感謝する。それにしてもリナリア嬢は随分と変わったのだな。」
「ふふっ…ありがとうございます。良い方へと変わっていれば良いのですが…。」
クロード殿下の言葉に笑みを溢し、謙虚に答えるリナリアにクロード殿下は「勿論。」と短く答えた。
二人の歳の差は5歳と離れているが、リナリアの所作のせいか…そんなに年齢差を感じない。
やはりウチの妹は可愛いし聡明だ。
「おい、クロード!確かにリナリアは可愛いし美しいし聡明だし、王族の勉強も完璧にこなしているから何処に出しても恥ずかしくないが…こんな人前で口説く事はないだろう?」
クロード殿下の背後にいたお兄様はクロード殿下から離れ、リナリアの横に移動すると…リナリアの良さを全面に説明しつつクロード殿下を揶揄った。
隣のリナリアは突然の事に顔を赤らめて照れている…その顔も愛らしい!
その向かいにいたクロード殿下はキョトンとしたかと思うと、突然赤面した。
「そういうつもりは…いや、それも失礼だな。いやだが…今はそういうつもりで言ったのではなく…。」
珍しく言葉に詰まるクロード殿下にお兄様はニヤリと悪い笑みを浮かべている…。
我が家はどうやら悪役の家系なのかもしれないな…と思ってしまった。
「リナリアは王妃教育も簡単にこなすと思うよ?…というか、既に学んでいると思うけどね。」
サラッとクロード殿下にリナリアを勧めるお兄様にリナリアもクロード殿下も何て返せば良いか分からず狼狽えていた。
こんな光景は初めて見るな…と私の顔も思わずニヤついてしまう。
「…リリア?そろそろ説明してくれるかな?」
ニヤニヤしながら三人を見てる私の耳元に息を吹きかけるようにアレスが囁く。
突然の事に思わず「にゃっ!!!」と立ち上がれば、全員の視線を受けてしまった…恥ずか死ぬ。
「そうだったな、詳しく話して貰わなければな。」
私の言動に助かったとばかりに乗っかってくるクロード殿下。
変な助け舟を出してしまった事を少しばかり後悔してしまう。
「そうですね…では、リオンと一緒に説明させて頂きます。」
東の森で出会った獣人、獣王国と繋がる塀の穴の事、その周辺で目撃された馬車…その馬車が隣国・ワインバル王国の公爵家の馬車だった事など先に現在、分かっている事実だけを伝える。
そして、私達が怪しいと踏んだチャミシル伯爵令嬢についてを話す。
「なるほどね…それで、あの計画となった訳か。」
一通り話を終えると、クロード殿下は眉間に皺を寄せて呟く。
他の面々も渋い顔をしていた。
「恐らく…ジュード殿下は利用された側です。」
私の言葉にお兄様方は瞠目したが、クロード殿下だけは頷いていた。
彼もまた…ジュード殿下が自ら動いたとは考えてないようだ。
「謁見の間で聞いた話を考えるとジュードにそんな事をしてる暇は無かったはずだ。…女の子ばかりを追っかけていたんだから……すまない。」
クロード殿下は心底呆れた声で言ったかと思うと…リナリアの存在に気づき慌てて謝るが、リナリアは笑顔で首を振った。
その仕草にクロード殿下がホッとした顔になる。
「うちのロマネスも利用された側な気はする。」
クロード殿下とリナリアの遣り取りに気を取られていると、何故か突然どこからか声がした。
慌てて振り返ると、いつの間にか部屋に入ってきていたワインバル王国・リシェブール王太子殿下が壁へと寄り掛かり此方を見ていた。
「リシェ…。」
「クロード…久しいな、今回はうちの弟が迷惑をかけているようだ。」
壁から此方へと移動してきた青年は濃いルビーのような美しい赤い髪を後に一つに束ね、瞳は淡いシャンパンのように輝いて見える。
この世界の王族は神秘的で美しいと思う。
リシェブール王太子殿下は私とリナリアに気づき、明るい笑みで近づいてきた。
私の横のアレスがさり気なく私の肩を抱き寄せると…それに気づいたリシェブール王太子殿下は苦笑する。
「美しい令嬢方、初めまして!ワインバル王国の王太子・リシェブール・ワインバルです。」
私とリナリアへ輝かんばかりの笑顔を向け、手前に居たリナリアの前に膝をつき…リナリアの手を取って手の甲へとキスを落と…す手前でクロード殿下が割り込んで阻止した。
「…何をする?」
「此方のセリフだ。」
クロード殿下はリナリアを庇うように立ち、リシェブール王太子殿下を睨む。
リナリアがハラハラした顔で私を見るから笑顔で応えた。
「そんな事より、続きを宜しいでしょうか?」
「「「!?」」」
二人がここで牽制し合っても時間が勿体無いので、続きを催促すると…二人は表情を緩めた。
他の方々は私の言葉に驚いた顔をしているが、アレスとリオンだけは何故か微笑んでいる。
「そうだな、続けるとしよう。」
「あぁ。」
クロード殿下とリシェブール王太子殿下が近くのソファーへと座るのを見届け、私は続けた。
「気になるのは西の辺境伯家です。ワインバル王国との国境をどうやって抜けたのでしょうか?」
東の獣王国との塀が壊れており、それを気付けていなかった辺境伯家の当主は娘が関与してるかもしれない事に気づいていなかった。
獣王国からの受け渡しは塀だとして、ではオステリア王国からワインバル王国へはどのように抜けるのだろうか?
西の辺境伯家の令息は特進クラスにおり、ジュード殿下と仲が良かったとは思えない。
チャミシル様とも一緒にいた記憶は無いが…私が知らないだけかもしれない。
「オステリア王国からワインバル王国に抜けるのは簡単かもしれない。獣人を他の動物と紛れさせて愛玩動物として検閲を通せばうまく行くだろう…ワインバル王国の貴族は動物を飼う事が多いからな。」
リシェブール王太子殿下がサラッと答えを言ってしまったが、そんなに簡単なのだろうか?
疑問に思いつつクロード殿下を見れば私に気づき苦笑しつつ頷く。
「オステリア王国に入る前にワインバル王国側の検閲官に聞いたが、頻繁に動物を輸入しているそうだ。」
「…頻繁に?」
塀が壊されていたのは数日間だ…その間に輸出したとしても数回が限度だろう。
頻繁という事は獣人では無く動物を先に輸出しておいて、怪しまれないようにしたのだろうか?
「そこのお嬢さんの思ってる事で大体は合ってると思うよ?因みにお名前を伺っても?」
リシェブール王太子殿下が私の方へと顔を向け、美しい笑顔で微笑んで問いかけてきた。
私の肩にを掴んでいたアレスの手に力が入ったのが分かり、「大丈夫だよ。」とアレスの背中を優しく撫でる。
「ご挨拶が遅れ失礼致しました、リリア・クリスティアと申します。」
私の言葉にリシェブール王太子殿下は「ほぉ…。」と声を漏らし、今度は隣のリオンを見て目で挨拶しろと促す。
「ご挨拶が遅れ失礼致しました、リリアの双子の兄のリオン・クリスティアと申します。」
リオンの挨拶にリシェブール王太子殿下が興味深そうに見つめてくる。
「二人は“あの“クリスティア公爵家の令息と令嬢なのだな…しかも“神に愛されし者“か。」
「「えっ!?」」
リシェブール王太子殿下の言葉に思わず私もリオンも驚いてしまった。
だって…“神に愛されし者“の事を知ってるだなんて…!?
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