陛下へご報告
クリスティア家の別邸から馬車で数分…城門を抜ければ、その先には夢の国に来たかと錯覚してしまう程に良く似たお城が見える。
舞踏会から逃げるように去った令嬢が落とした靴を拾うのはクロード殿下が良く似合う。
そんな物語を連想してしまうのも無理はない…だってそれだけ素敵なお城なんだから。
「現実逃避は終わった?」
「うん、ちょっと緊張してたみたい。」
私が阿呆な事を考えていれば、見透かしたようにリオンが声をかけてきた。
リオンは緊張とかしないのかしら?と思ってしまう。
だって、これから会うのはこの国の王なんだぞ?
「クロード殿下とジュード殿下のお父さんだと思えば緊張しないよ?」
「いやいやいやいや、普通に緊張するし!」
お父さんとか言っちゃったら不敬じゃないか?
首とか飛んじゃったりしたら嫌だよ?
隣に座っているお兄様は何故か肩を震わせて笑っているし、リナリアも俯いて唇を噛んでいるから…恐らく笑いを抑えているのだろう。
そんなに面白い事って何かあったのかな?
「もう、それくらいになさい。お…お腹が痛くなってしまうじゃない。」
何故かお母様は震えた声で諫める…が、その口元は扇子で覆われていた。
そんな会話をしていれば、あっという間に王城へと到着した。
入り口には先に来ていたお父様と、ジン様…更には魔術師団長のビルショート様と外務大臣のマッカラン・ウェンスキー公爵様もいた。
更に謁見の間に行く途中でお父様の補佐を務めるモヒート伯爵と、竜騎士団長のレモンチェッド伯爵も合流した。
謁見の間に入れば、クロード殿下とお兄様方…そしてアレスが端に控えていた。
途中で合流した方々が、お兄様と仲の良いご友人のお父様方だと気づく。
全員が揃えば、陛下が奥の扉から現れた。
陛下の言葉を待ち、顔を上げれば「前置きは良い。」と言って直ぐに説明に入るよう言われてしまう。
良いと言われて本当に大丈夫かと不安に思いチラッとお父様を見ると、コクリと一度頷いたので今度はリオンを見た。
リオンと顔を見合わせ、互いに頷くと…昨日同様に説明を始めた。
「此方と同じ資料はクロード殿下もお持ちかと存じます。」
最後にクロード殿下へと話を振ると、クロード殿下は良い笑顔で頷き前へ出た。
「事実か?」
陛下は、私達が行った説明の真偽をクロード殿下へと問う。
クロード殿下は「事実です。」と短く伝え頷いた。
「……ここまで愚かだったとはな。」
陛下は椅子の背もたれに少しだけ身を預け、肘掛けに肘を乗せると手に頭を乗せた。
その顔は陛下というよりも、一人の父親の顔に見える。
こうなってしまったのは誰のせいか…とは言えないけど、少なからず陛下や王妃様方にも責任はあるだろう。
これほど沢山の問題を起こし、更にはもっと厄介な事になろうとしているのだ。
「陛下、城門にワインバル王国の王太子が到着したと連絡が入りました。」
城門の警備兵から騎士団の方へ連絡が入り、そしてそれを外務大臣補佐から外務大臣のマッカラン様へと伝え…マッカラン様が陛下へと報告した。
…ちょっとややこしい、直で陛下に伝えられたら手間が省けるのになと思ってしまう。
どうやらワインバル王国の王太子にも今回の件を伝えてあったようだ。
国同士が絡む事だから、かなりデリケートになるのだろう…本当に厄介な事に巻き込まれてしまった。
「クロードよ、ワインバルの王太子と仲が良かったな?」
「はい、良き友人でございます。」
今回の件…どうやらクロード殿下に任せるのだろう。
勿論、手に余るようなら力を貸してくれるとは思うが…陛下はクロード殿下の力量を測りたいのかもしれない。
「ならば、任せて良いな?」
「はい!」
クロード殿下はキリッとした返事をし、一歩後ろへ下がった。
王子が二人いるこの国で、今はまだ王太子が決まっていない。
陛下の意向でジュード殿下が成人を迎えた時に判断すると聞いた。
ジュード殿下の成人は間も無くだ…その時にジュード殿下はどう出るのだろうか?
「リオン…そしてリリア嬢、二人にもクロードに協力してもらいたい。宰相である二人の父からの提案も呑もう。」
「「かしこまりました。」」
陛下の言葉に私もリオンも頭を下げ返事をすると、陛下はお父様に書類を用意させた。
「ここにはアレスもおったな、では私が立会人になろう。」
「「有難き幸せに存じます。」」
アレスはサッと私の隣へと移動し、今度はアレスと共に頭を下げれば…陛下は優しい笑顔で頷く。
アレスからは小声で「後で詳しく。」と呟かれてしまった…そんな声でさえ色っぽいとかズル過ぎる。
「次にジュードとリナリア嬢の婚約は白紙に戻す…本来ならば公爵家から“破棄“と言われても文句は言えない立場だが、本当にいいのか?」
陛下は困り顔でお父様を見れば、お父様は笑顔で「勿論です。」と答えていた。
その笑顔が怖い事を此処の皆んなは知っているから、笑えない。
「ジュード殿下はすんなりお認めになったのですか?」
陛下のサインを貰うと、お父様は陛下へと質問する。
恐らくは此処にいる全ての者が知りたかった事だと思う。
「あぁ、驚くほど素直に受け入れた。…今なら、すんなり頷いたのも分かるな。」
そう言って陛下は私とリオンを見た。
先ほどの説明で腑に落ちたのだろう。
「最後に、騎士団長から二人が師範代になったと聞いた。おめでとう、そして叙爵の際に加味する。」
「「ありがとうございます。」」
陛下の言葉に頭を下げたまま感謝を伝えれば、陛下は口元を少し緩めた。
「次は何を狙っているんだ?」
さも次があると分かっているかのように陛下は私達へと問いかける。
私とリオンは互いに顔を見合わせると、陛下へと顔を向け答えた。
「「次は魔法省にて国家資格を頂きに参ります。」」
私達の答えに陛下は愉快そうに笑うと「期待して待っているぞ?」と答えてくれた。
馬鹿にするでもなく、下に見るのでもなく…その声は純粋に期待が込められていて…。
とても良い国王だと…心が少し温かくなった気がして再度頭を下げるのだった。
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まだ暫くはリリアの作戦を伏せておきますので、何となく気づいてもご内密に。




