リオンの疑問
「リリアはどこまで読んでいたの?」
羊皮紙を魔法鞄にしまいながらそれ以外の資料も整理し王城へ行く準備を整えていれば、手伝っていたリオンが突然話しかけてきた。
何の事か分からずに首を傾げると、リオンは呆れた顔で手元の資料を指す。
「…あぁ!お父様に呼ばれた時に資料を持って行ったこと?」
「そう。」
リナリアの婚約白紙の件で一瞬で資料の存在を忘れてしまったが、呼ばれる前から準備していた事に疑問を持っていたらしい。
「うーん…。あの馬車が誰の物かは分からなかったけど、獣王国から獣人を攫った可能性が高かったじゃない?そうなるとオステリア王国の誰かが関わっていると思ったの。」
「そこまでは分かる…だけど、あの資料はそれとは関係無かっただろ?」
今回の件とジュード殿下やリナリアは関係無いだろ?と言いたいようだ。
確かに…それだけで結び付けるのにはかなり無理があるとは私も思った。
「獣人の件でお父様に呼ばれたって僕は思ってたし、リリアもそうだろ?」
「うん、そう思ってたよ?」
なら何で資料?と思っても当然か…。
「あの穴を開けたのはオステリア王国の人間だと思ったの…そしてあの領地を治めているのが東の辺境伯・チャミシル家。そして、チャミシル家の令嬢はかなり前からジュード殿下の取り巻きにいたわ。」
小柄で細身の体躯は子供のようにも見えるが、顔つきはどちらかと言えば妖艶で…藍色のストレートヘアに深い紫色の瞳をした令嬢。
殆どの辺境伯家は特進クラスにいたが、彼女だけは珍しくずっと普通クラスにいた。
メアリ・キャロリーヌ男爵令嬢を筆頭に目立つ令嬢が多くいる中…彼女の存在は忘れてしまう程に薄かった。
そして、昨年はワインバル王国へ留学していたとラライカさんから聞いていた。
「…確かに、彼女は目立つ事はなかったけど…ずっとジュード殿下の傍にいた…か。」
顎を指で擦るように触りリオンは暫し考え込む。
ワインバル王国への留学をしていたのはその二人だけでは無いので特に気にも留めてなかったが、今回の件で何故か彼女が気になってしまった。
「そう…この件に少なからずジュード殿下が関わっていれば、婚約者であるリナリアにも火の粉が飛ぶかもしれないと思ったし…。」
「…それだけじゃ無いんでしょ?」
私が中途半端に言葉を止めると、リオンが顔を上げて私の方をジッと見た。
「あとは…お父様と話す機会があまり無かったから、暴露しておこうかなって!」
テヘッと小首を傾げて舌を出してみる…こんな事をしてもリオンのあざとさには敵わないんだけどね。
私の顔と仕草にリオンは深い溜息を吐く。
…ちょっと失礼だと思う。
「本当は…こんな形で言いたくはなかったんだけどね。」
婚約を白紙に戻すのであれば、ついでに今までの悪行をバラして慰謝料を取ってもいいし…“他の何か“を頂いてもいいかなとは思った。
でも、一番はリナリアがどうしたいかだと思っていたから…お父様の“あの発言“には思わず頭に血が上ってしまったのだ。
私の言葉にリオンも同じように思ったのか頷くと、再び王城へ行く準備を続けた。
「…ところで、何で悪役令嬢なのさ。」
魔法鞄へと収納を終えると、横にいるリオンが頬杖をつきながら再び問いかけてきた。
家族に宣言してしまったが、悪役令嬢になる必要ってあるのかと疑問をぶつけてくる。
「今まで悪役令嬢になりたくなくて、回避してきたんじゃないの?」
幼い日に思い出した前世…。
この見た目だから恐らくは悪役令嬢になると思っていた事を何度もリオンに相談していた。
時には断罪を恐れ、家族と離れるのを恐れた私を…リオンはいつも慰め…励ましてくれた。
それなのに、私はこれから悪役令嬢になろうとしている。
「これから“なる“悪役令嬢は合法だよ?陛下とお父様の許可も頂くし、アレスにも話す予定……アレスは怒るかな?」
悪役令嬢と言っても、これは使命だ!
決して断罪される事のない悪役令嬢ならば恐怖は無い。
「アレスは…きっと生殺し気分を味わうんじゃない?」
「生殺し?」
リオンが苦笑いを浮かべて心底同情したような顔をするので、私は理解出来ずに首を傾げる。
「…相変わらず、リリアは鈍感過ぎるよ。そんなんで悪役令嬢なんて務まるのかな?これから僕がみっちり鍛えてあげるからね?」
リオンは呆れた顔をしたかと思えば、口の端を上げてニンマリとした笑顔で私を見た。
その目はちょっと怖いくらいにギラついていたので…ぜひ、程々にして頂きたいと思う。
「リリアに僕の全てを教え込む!」
そう言って…何故か私は部屋の奥の方へとズリズリと引き攣られて行くのだった…。
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リリアとリオンがこれからする事を分かってしまった方は…感想に書かないようお願いします。
もし我慢できず…感想を頂けるようでしたら「分かった!」とだけお願いします。
答え合わせはかなり先になるかと思います。




