リオン、運命と出会う
「……え?しないけど?」
リオンに言われて、私も匂いを嗅ぐと…普通に臭かった。
騙された?と思って訝しげにリオンを見ると、リオンは更に不思議そうに私を見た。
「するよ?甘い匂い…。」
再びクンクンと猫の匂いを嗅いで、首を傾げるリオン。
私としては、どちらかというと二度と嗅ぎたくないと思える匂いなのだが?
「おかしいな?僕だけって事?」
何度も首を傾げて悩むリオン…。
悩むリオンに、もう一度だけ猫の匂いを嗅いでみたが…やはり先ほどと同じ匂いがした。
「その匂いは…最初からしたの?」
救出した時からしていたのかと聞くと、リオンは暫く悩んで…首を傾げた。
どうやら思い出せないようだ。
「そもそも、リオンは悲鳴を聞いて来たんでしょ?猫の鳴き声だったの?」
「…いや、女性の叫び声だと思ったんだけど…。」
思い出しながら、リオンは首を傾げて猫を見た。
温まってきたのか、少しだけ呼吸が安定してるように思う。
「でも助けてみたら猫だった。」
「うん。」
女性はいなくて、いたのは猫で…。
……つまりは…?
「…女性が猫になっちゃったと。」
「…なっちゃったと。」
私とリオンは落ち着くために一度、深呼吸をする。
再び猫を見た。
「なるほど、獣人の完全獣化…なら有り得るか。」
概ね、森の大蛇に襲われて抵抗するために最後の気力を振り絞っての完全獣化…と言ったところか。
これだけ弱っているし…それに…。
猫を愛しそうに抱えるリオンをチラリと見た。
私の視線に気づき、顔を上げるリオン。
「とりあえず、鳴き笛でジン様を呼ぼうか。」
「ん?うん。」
暫くすると、ジン様が走って此方に来てくれた。
かなり焦っていたのだろう、私達を見つけると周囲をキョロキョロと確認し…首を傾げた。
「おい、魔獣はどこだ?何があった?」
息を切らして額や首には汗が滲んでいる、走らせてしまった事に申し訳なく思う。
「この猫が森の大蛇に襲われていて助けました。」
リオンがジン様へと歩み寄ると抱いていた猫を見せる。
ジン様は更に訝しげな顔をした。
「そうか…で、森の大蛇は?」
ジン様は、二人では厳しかったから自分は呼ばれたのかと納得しながら再び周囲を警戒する。
「あっ、倒しました。」
私が手を挙げて答えると、ジン様は一度キョトンとし…再び首を傾げた。
「何故、私は呼ばれたんだ?」
心底分からないと言った顔で私を睨むので、私もリオンも苦笑して…猫を見る。
「この猫…獣人です。」
私の言葉にジン様は目を見開き、固まってしまう。
そっとブランケットをズラすと、体には固まった血液の汚れが付着している。
「探知魔法で足取りを少し追ってみたら、この先の村の方から来たようです。その横の町には国境があり、塀の向こうは獣王国です。」
「…怪我は森の大蛇から受けたとは思えない人為的な傷ばかりでした。」
私とリオンの報告を受け、ジン様は眉間に皺を寄せ…難しい顔をしてしまった。
「この子の身元も分からないですし、一度…聖女様へ面会をお願いしてみようと思います。」
険しい顔で考えていたジン様が、暫く沈黙していたが…考えが纏まったのか一度だけ頷く。
「状況は分かった。聖女様へは連絡が出来るんだな?ならば、私は陛下へと報告しよう。」
「ここで手紙を書いて、聖女様の使い魔に託します。あと、明日の近隣町村への報告時に情報を集めたいのですが…?」
私は魔法鞄から羊皮紙やペンなどを出しサラサラと手紙を認め…使い魔を呼ぶと、ジン様にお願いする。
ジン様も一緒に情報を集めると言ってくれた。
聖女様の使い魔のチョ…トニーが物陰から此方を伺っているのが見えたので、両手を広げて受け入れるポーズを取ると…嬉しそうに駆けてきた。
いつものようにハグをし、手紙をお願いすると…首を傾げた。
「おやつも勿論、入れておきますよ?」
魔法鞄をプラプラさせて催促されたので、自分の魔法鞄からお菓子を取り出して入れると満足そうに私の頬を鼻先でスリスリして再び森の奥へと姿を消して行ってしまった。
初めて見る光景にジン様は暫し固まっていた。
「あと、ジン様!この猫を嗅いでもらえますか?」
「え?は?…何かあるのか?」
使い魔が帰った後、私はジン様へと再び声をかけると…ジン様は不思議そうな顔をして猫へと近づいた。
匂いを嗅ごうと腰を屈めるが、リオンはサッと避ける。
「なんか…嫌なんだけど?」
「あ?どういう事だ?」
リオンが珍しく不機嫌な顔でジン様を見る。
ジン様も訳が分からないと言った顔で私とリオンを交互に見た。
「そういう事です。」
「「どういう事だよ!」」
私が目を瞑りウンウンと頷いていると、リオンとジン様が思いっきりツッコミを入れてきた。
うん、中々に小気味良いツッコミですな。
「…その子、多分だけど…リオンの“運命の番“です。」
引っ張るのも面倒なのでサッサとネタバラシをすれば、何故か二人は顎が外れそうなほどに口を開けていた。
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