確信犯
「…ところで、クレア様とはどうなの?」
リオンが自身の妻になる方の話をしたので振ってみると、それはもう…嫌そうな顔をする。
女性にその顔はしちゃダメだと注意すると、リリアにしか顔なんか崩さないよ!と返された。
他ではポーカーフェイスでいると断言すると…溜息と共に話し出す。
「もうね…信じられないよ?リリアが居ない時を狙ってるんだと思うんだけど…トイレで出待ちとか勘弁して欲しい。」
トイレで出待ち…それは淑女として、いや人としてダメだと思う。
ラライカさん情報だが、クレア様は上級生のクラスにも突撃したそうだ。
クロード殿下以外は皆様、婚約者がいらっしゃる。
その婚約者に関して色々と言ってきたそうで、不興を買ったらしい。
因みにその一人、ルシアン・ウォーカー様はラライカ様と婚約している。
唯一、婚約者のいないクロード殿下は歯牙にもかけなかったそうだ。
「だからいつも、リリアが待ってるからって断ってるよ。」
私がラライカさんの情報を思い出していると、リオンが恐ろしい事を言い出した。
「…私が待ってる?」
「そう。」
ギギギと首をリオンに向ければ「いい考えでしょ?」と言って微笑むリオン。
「それ…私が妨害してるみたいじゃない?」
なんてこった…リオンの手で私がクレア様を妨害してる風になっている。
それってつまり…。
「私が悪役令嬢って事になってない!?」
それまで小声で話していたが、思わず大きい声が出てしまった。
周囲を起こしてしまったかと不安に思ったが、リオンが既に防音の魔法をかけていたらしい。
辺りは全くと言って良いほどの静寂だ。
「んー…うん!」
少し考える風を装い…あっさり頷くリオン。
この確信犯め!!
「…まぁ、別にいっか。」
そもそも悪役っぽく振る舞ってもいないし、虐めてもいないし。
でも万が一の為に今の内からしっかり裏を取ったり、綻びがないか確認しとくべきだな。
上級生がダメとなるとリオンとか…後はジュード殿下やロマネス殿下にも行くかもしれないし。
ジュード殿下に行った場合はリナリアの事もあるから、しっかり調べておこうと思う。
「え?いいの?」
私の言葉が予想外だったのか、確信犯は聞き返してくる。
それに対してジト目で見返すと、リオンは引き攣ったような笑みを溢した。
「良いか悪いかで言えば…よろしくは無い。だが、既に私が妨害してるように思われているのであれば…対策をするしかないでしょ?」
手を伸ばしリオンの頬を摘むとムニムニと引っ張る。
「ひゃってひかひゃなひゃったんひゃもん!」
引っ張られながら喋るリオンが可笑しくて思わず笑ってしまう。
手を離せば少し痛かったのか頬を摩るリオンは…どこか幼く思えた。
「クレア様は誰を狙うんだろうね?」
「んー…僕じゃないと良いんだけどね。」
互いに「全くだ。」と言いながら笑い合うと…リオンが先程伸ばした私の手を握る。
温かい手は、昔とちっとも変わらないかと思ったけど…私よりもずっと大きくてゴツゴツしていた。
貴公子のような綺麗な手ではなくて、どちらかというと働く人の手に近い。
少し厚みがあって、力強い手を握り返しながら目を瞑った。
「「おやすみなさい。」」
どちらからとも無く呟き、眠りに落ちていった。
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