段級位の試験
訓練場をサッと整備し、騎士団長のジン様と私とリオンが中心部へと移動する。
ジン様が記録係をと声をかければ、何故か魔術師団長のビルショート様がボードを持って近づいてきた。
「おい、ビルは魔術師団だろ?」
「私も若い頃は騎士団へ在籍していた事もありますから、記録はつけられますよ?」
明らかに嫌そうな顔をするジン様にビルショート様はニコニコして答える。
「それに、彼らの記録は副団長不在の今…私が適任だと思いますが?」
ビルショート様の言葉にジン様は溜息を吐くと「頼む。」と頭を下げた。
その遣り取りを私もリオンも不思議に思いコテンと首を傾げる。
何か…難しい事でもあるのだろうか?
「では、始める!まずは初級、基本の型だ。」
ジン様の言葉に先程から借りている刃が潰された模造剣を構える。
段級位の試験の級位は殆どが型で判断される。
基本の構え方や、抜刀、剣の振り方、敵と対峙した時の回避の仕方などがメインである。
まずは剣になれなければならないからなのだが、この型が綺麗じゃないと試験には合格出来ず…判定も厳しいらしい。
「さすがはリチャード様が直々に教えただけあるな、とても綺麗な型だ。」
そう言ってジン様は練習用の剣を持つと、リオンから対峙し剣の払いや打ち込みを確認する。
リオンが終われば私と…順々に確認し、記録係のビルショート様に声をかけた。
「級位は問題ないだろう。次は初段から…まずはリオン、前へ出て構えて。」
リオンが終わるまでは私は見てるだけとなる。
全部で八段…その上が準師範で、さらに上が師範代だ。
なかなかに時間がかかりそうだな…。
果たして…今日はどこまで取れるだろうか?
ふと、訓練場の近くの廊下を見ると…他の生徒達が此方を見ていることに気づく。
今日から職場体験だから、他の生徒達もいて当たり前なのだが…ジン様は私とリオンを特別扱いしてくれたのだと思う。
本来ならば事務室へ行き、説明会があり、その後で施設内の案内を終えて…学生用騎士服が配布され帰宅となる。
それが早速着替えて、騎士団を全滅させたのだ…問題児とも言えるな。
道場破りにも近いよね…でも、騎士達が仕掛けて来たのだから私達は悪くないと思う。
いや…思いたい。
他の騎士達も気づいて、見学に来ている子達に話しかけていた。
また、先程の少し嫌味っぽい笑みを浮かべている…懲りないな。
そんな事を思いながら、見学してる生徒とは別方向から来た集団がいた。
ジュード殿下と…隣国の王子だ。
確か、ワインバル王国の第二王子のロマネス・ワインバル殿下。
ワインレッドの艶やかな長髪に濃いゴールドの瞳…何とも派手な見た目だ。
隣の派手なジュード殿下と並んでも違和感が無いとは…。
何かを指差しながら、此方に向かって嫌な笑みを浮かべている。
その笑い方で私は“生理的に無理“だと確信する。
見た目は美しく整っているのだが、こればかりは本当にどうしようもない。
…できる事なら今すぐアレスを見て癒されたい気持ちになる。
「とりあえず、リリア嬢も控えているから今日はこの辺りで止めておこう。」
ジン様の言葉にリオンが手を止める。
珍しく息が少しだけ荒い。
「ありがとうございました。」
リオンが一礼すると、少し休憩し私の順番になる。
因みにリオンは見てないうちに六段まで合格したらしい。
こんなに急いで取る物ではないのか、一段毎の試験が大変なようだ。
「リリアは余所見して何を見てたの?」
水分を補給しながらニッコリと微笑むリオン…見てなくて、ごめんね。
私は視線だけで方向を伝え「殿下方。」と答える。
「あぁ、二人の殿下が見ていたのか…って他の生徒達もいるじゃん。」
皆んなに見られていたのかと少しだけ赤面するリオン。
思いもよらない事が起きると、こうやって赤面したりするリオンは…あざとくなくて可愛いと思う。
いや、あざといリオンも可愛いのだけど。
「ロマネス殿下は…生理的に無理だなと思いながら見てました。」
私がボソッと呟くと、リオンはゴホゴホと咳き込み…私を睨む。
「変な事を言うなよ…思わず噴いたじゃないかっ!」
そんなに変な事だっただろうか…不思議に思ってコテンと首を傾げると、今度は頬を膨らませるリオン。
…やはり、あざといのも可愛いな。
「そろそろ始めるぞ?リリア嬢、此方へ。」
ジン様へ呼ばれ前へ出る。
試験は想像よりももっと大変で、余所見などする余裕も無い。
一心不乱に剣を振り、ジン様に時折アドバイスを貰う。
とても楽しい時間だった。
日が傾き、周囲が少し騒ついた頃…ジン様が終わりを告げた。
「今日はここまでにしよう…二人とも六段だな。明日も来れる様なら続きをしよう!」
「「ありがとうございました!」」
私もリオンも元気よく一礼すれば、ジン様もどこか嬉しそうに微笑む。
「久しぶりに…二人の剣からリチャード様を感じたよ。楽しかった、また明日…私の執務室へ声をかけに来なさい。」
「「はい!!」」
いつの間にか居なくなった生徒や殿下方。
私はリオンと二人…訓練場を後にした。
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