新たなヒロイン現る!
それはとても愛らしい声だった。
思わず振り返れば、そこには艶やかなキャラメル色の巻髪に同色の瞳の令嬢が…くねくねしていた。
あっ…くねくねってそう言うことか!
…科を作っていたのね。
それをくねくね…リオンさんや、令嬢にその表現はダメでしょ?
令嬢に呼ばれたリオンを見れば、リオンが少し困った顔で私を見る。
私はグッと親指を立てて、笑顔を返してみた。
「…行ってくるよ。」
リオンは仕方ないと教室の入り口に向かった。
「リオン・クリスティア様!お会いしたかったです!!私は、クレア・ポンシュワールです。」
そう言って手を差し出すくねくね…ではなく、クレア様。
「…ああ、初めまして…だよね?」
リオンは疑問符を浮かべながら令嬢を見る。
令嬢の手は宙に浮いたままだ。
「はい、私…初等部も中等部も出ていなくて…高等部に入れたのも本当の父が私を見つけてくれたからなのです。」
そう言って切なそうに笑うクレア様…だが、そのあざとい笑みはリオンには通じない。
…多分だけど。
ポンシュワール伯爵家か…確か、奥方が子をなす事が出来なかったとお母様から聞いている。
“本当の父“…つまり伯爵様が他所で作った子なのだろうか?
…これ、よくあるパターンじゃない!?
貧しい庶民として暮らしていたヒロインは、成人前に突然…自身の父と名乗る男の娘になるやつ。
多いのが男爵家パターンかな?と思うんだけど。
伯爵家パターンも無くは無いかな?
それに庶民とは思えない美貌…あるな。
これはまさかの“新・ヒロイン“なのではないか?
『ちょっと!観察してないで、助けてくれない?』
リオンが令嬢と対峙しながら、私にテレパシーで助けを求めてくる。
こんな事は今まで無かったな。
『どうすればいい?』
助けを求められたからと言っても、どうやって助けたら良いのか悩む。
するとリオンは、僕を呼んで!と言ってきた。
「リオン?」
そのままにリオンを呼べば、リオンはクレア様に向かってニッコリ笑うと「呼ばれているから。」と言ってクレア様から離れ…ようとしたが、何故か服の裾をクレア様に掴まれた。
「「「「「きゃーーーー!!!」」」」」
その様子を見ていた教室中の令嬢が悲鳴を上げる。
淑女は殿方の服を勝手に引っ張ったりしないからね。
それと…あんまり大きな悲鳴も上げたりはしないと思うよ?
「あの!お待ち下さい。私と…話しているではございませんか?」
クレア様は潤い多めな上目遣いでリオンを見つめる。
だが、それもリオンには通じない。
…多分だけど。
「…話?」
そもそもよく知りもしない令嬢に突然声をかけられ、名乗られ…掴まれるなど普通は考えられない。
学園では皆が平等だが、それでも高等部まで来る令息や令嬢は分を弁えている。
そして婚約者持ちも多いから、あまり異性とは話さないのだ。
「そうです、私ともっとお話しませんか?午後は空いてますでしょ?」
グイグイと引っ張るクレア様にリオンは首を振って否定する。
「午後はリリアと騎士団へ行くから空いてはいないよ?」
「…騎士団?なんのために行くんですの?」
リオンが掴まれていた服からクレア様をソッと離すと、クレア様が不思議そうにコテンと首を傾げる。
…入学式のオリエンテーションで高等部の説明を聞いてなかったのだろうか?
「段級位の取得のためだよ。」
「だんきゅーい?」
リオンが再び助けを求めるように私を見るが…私は左右へと首を振った。
…そこから説明とか、時間が間に合わなくなるし。
「リオン、騎士団に間に合わなくなるわよ?初日から遅刻とか心証が悪くなるじゃない。」
仕方なしに声をかけながら近づくと、リオンに見えない角度でクレア様に睨まれる。
睨まれたところで、痛くも痒くもないから無視しておく。
「はい、荷物。」
「ありがとう、リリア。では、騎士団に行くので失礼するよ…クレア嬢。」
そう言ってリオンは荷物を受け取り、私の手を取った。
クレア様の前で態とエスコートですか…。
まぁ…睨まれても、痛くも痒くも無いから良いんだけどね。
ブクマ・評価・感想・誤字報告ありがとうございます。
最後…大切な事なので二回も言っちゃいましたね。




