閑話・裁縫師ティア
ーーーーークリスティア領“商業地区“
私はそこで仕立て屋を営んでいる
10数年前までは王都で仕立て屋をしていた
貴族社会に疲れ、主人に先立たれた事もあり店を畳もうとしていたところを友人に誘われ移り住むことにした。
アリア・クリスティアと私は幼馴染みで、よく彼女のドレスや洋服を仕立てていた。
「貴女が裁縫師を辞めるのは勿体無いし、離れるのは寂しいから領地に来て?」
なんとも我儘なように聞こえるが、私が寂しくないように気遣っているのだと思った。
そんな彼女には珍しく、その日はご主人と孫を連れて来店した。
双子の孫はとても愛らしい。
何度か邸で会っており、私はこの双子が大好きだった。
そして、この時私はこの孫娘に驚かされたのである。
双子ファッションがしたいとスケッチブックに描かれたデザインを見て、久しぶりに「この服を作りたい!」と思った。
男女で全く同じに作れる訳もないが、襟や袖…飾りやボタンの配置など細部まで拘った絵にリリアちゃんの意見を聞きながら書き込んでいく。
生地や素材までも細かく選び、すぐにでも作りたい欲求に駆られた
逸る気持ちを落ち着かせると、更にアリアからは別の注文を受ける。
孫たちを驚かせたいらしい
嬉しそうに帰っていく後ろ姿を見送ると、すぐに作業に入る。
あの二人が嬉しそうに袖を通すのを想像しながら休む間もなく作業に没頭すると、納期の半分で仕上がってしまった。
「早く届けてあげよう」
裁縫師としての人生をまだまだ続けていきたい
そう思わせてくれた彼女らに…
この街に来て良かったと改めて感じた日だった。