幕間 リナリア・クリスティア④
リナリア視点のお話の続きです。
「リナリア様、お元気そうですね?」
お部屋の扉を開けて入ってきたのは、サリーだった。
以前会った時よりも背筋が伸びていて、腰を庇う様子も無い。
突然の事に言葉を失って驚いていると、サリーは近くまで来て人差し指を立てる。
「表情が出ておりますよ?…でも、以前よりも少し明るくなられましたね。」
以前と同じ声で…同じ仕草で私に注意するサリーに、気がつけば涙が溢れる。
サリーはハンカチを取り出すと、スッと涙を拭ってくれた。
「喋れるようになったとケリーから聞いていましたが、まだ本調子では無いようですね?」
サリーが心配そうに私を見るから、私は左右へと首を振った。
そして…サリーの胸へと飛び込むと、大量の涙が溢れ出してサリーの胸でいっぱい泣いてしまった。
サリーは怒るでもなく、ゆっくりと背中を摩って…私が落ち着くまで待ってくれる。
「会いたかった。サリーにもう一度会って…ありがとうって、ごめんなさいって言いたかったの。」
一頻り泣くと、ゆっくりと顔を上げてサリーに告げる。
サリーは優しく微笑んで「こちらの台詞です。」と言った。
「ずっと…私の腰の事を気に病んでいると、ケリーから報告がございました。この腰は私の問題ですのでリナリア様には全く非は無いのです。」
サリーが腰を摩りながら、説明してくれたけど…きっと私が無茶をさせていたんだと思う。
首を左右に振って否定すれば、サリーが苦笑いを浮かべた。
「リナリア様はお優しいから…本当に私の問題なのです。」
「それでも私が無茶をしたからっ!サリーを困らせてばかりいたから…。」
暴れたり騒いだり…走り回ったりと…落ち着きのなかった自分を思い出して思わず俯く。
もっとお淑やかでいたら良かった。
もっと…静かな子供でいたら…。
「子供が元気なのは普通の事です。それにリナリア様はしっかりと私の教えた事を出来ていましたよ?」
サリーが私の体をぎゅっと包むように抱きしめる。
この腕の中はいつだって温かい。
優しい…お母さんの香りがした。
「ちゃんとお勉強もしてました。食事のマナーや所作も誰よりも美しく出来ていましたよ。」
「…本当?」
私を褒めるサリーの言葉はきっと本当だと思うけど…。
だけど、ジュード殿下の事もあるし…。
「あぁ、本当だよ。」
私達の様子をずっと見ていたリーマスお兄ちゃんが、私の近くに寄って膝をつくと目線を私に合わせて喋り出す。
「リナリアはサリーのおかげで以前では考えられないくらいに所作やマナーが綺麗になったと思うし、話し方もずっと良くなってる。」
ポンポンと頭を撫で優しく微笑んだリーマスお兄ちゃんに、私の心が熱くなった。
そんな風に見てくれていたのかと…嬉しくなった。
「お勉強も出来る様になったんだろうね…前と違って行動の前に考えるようになっただろ?」
以前の私は考える前に動いていた。
最近は行動する前に考えるようになったと…確かに実感する。
「素敵な淑女に近づいているんだと思う。それこそ…ジュード殿下には勿体無いくらいだよ。」
少し前まで仲違いしていたリーマスお兄ちゃんの言葉は、私の心にストンと落ちてくる。
仲直りしてからも少しずつは仲良くなったけど…リオンお兄ちゃんやリリアお姉ちゃん達とはやっぱり距離感が違うなって思っていた。
そんなリーマスお兄ちゃんが…私を褒めてくれる。
「これからもしっかりと励んで下さいね。私はいつだってリナリア様の事を想っておりますから。」
そう言ってサリーはスッと立ち上がり、部屋を出て行こうとしたから…私は慌てて声をかける。
「待って!また…会える?サリーにまた会いたい!!」
私の声にサリーは一度俯くとギュッと手を握りしめ…息を一つ吐いた。
そして振り返れば嬉しそうな笑顔で「勿論です。」と言って部屋を出て行ってしまった。
残された私にケリーが近寄ってきて、背中を摩ってくれる。
どうやらまた涙が出てしまったようだ。
「ケリー…ありがとう。サリーに会わせてくれて…もう一度話す事が出来て嬉しかった。」
私の言葉にケリーは嬉しそうに微笑むと、首を左右へと振る。
「その言葉は、今日ここに母を呼んだリリア様にお伝え下さい。」
やっぱり…私はリリアお姉ちゃんには敵わないなと思った。
私がずっと後悔していた事を…私の苦しみを…なんでリリアお姉ちゃんには分かってしまうのだろう。
リリアお姉ちゃんの事を皆んなが規格外って言うけど…その言葉は本当だったんだなと思った。
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リナリアのお話はここで終わりです。




