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たぶん...悪役令嬢だと思います  作者: 神楽 紫苑
第2章 私リリア!学園に通うの。
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幕間 リナリア・クリスティア②

リナリア視点のお話の続きです。

※嫌な気分になる表現があるかもしれません。

「おい、リリア嬢は居ないのか?」

学園が冬季休暇に入って間も無く、ジュード殿下が公爵家へと遊びに来た。

私はいつものようにお出迎えすると、馬車を降りたジュード殿下がリリアお姉ちゃんを探すようにキョロキョロとする。

最近はいつもそう…挨拶も無くリリアお姉ちゃんの事を聞く。


「リリアお姉様は領地に行ってます。」

私は無表情で答える…明らかにムッとすればジュード殿下は機嫌を損ねて怒鳴り散らすから。

それが少しだけ怖いと思い始めたのはいつからだろう?


「は?居ないだと?」

怒りの感情を顔に出しジュード殿下が怒鳴るので思わず体が後退る。


「…ジュード殿下の婚約者は私では無いですか?」

ポソッと小さな声で問うと、苦虫を噛み潰したような嫌な顔をするジュード殿下。

婚約者は…私のはずなのに何故こんな嫌な顔をするのだろう?


「チッ…では、中で茶でも貰おう。案内しろ!」

ジュード殿下は舌打ちすると、仕方ないと言った感じに邸の中へと入っていく。

執事のスティーブとケリーが応接間へと案内すれば、ジュード殿下はドカッとソファーへ体を沈めた。


「おい、時間が無いんだ。早くしろよ?」

フンッとそっぽを向きながら命令するジュード殿下に私が少しだけ怯むが、執事のスティーブもケリーも顔色一つ変えずにサッとお茶を準備してくれた。


「で?リリア嬢はいつ帰ってくるんだ?」

ケリーの入れたお茶を啜りながらジュード殿下は私の方へと顔を向ける。

折角こちらを見てくれたと言うのに聞いてくるのはリリアお姉ちゃんの事だった。


「…冬季休暇が終わる頃です。」

「はぁ?そんなに待てるか?直ぐに呼び戻せ!」

私が返答すると直ぐに反論し、怒鳴り散らす。

…私が婚約者なのに…。


「あーあ…本当に無駄足だったな。…帰る。」

「ちょ…ジュード殿下!お待ち下さい…何故そのような事を言うの…ですか?」

ソファーから立ち上がったジュード殿下を慌てて引き止めれば、伸ばした腕を振り払われる。


「うるさい!黙れ!私に話しかけるな!!…ったく、さっきからギャーギャーと…少しは静かに出来ないのか!?」

手を振り払われたショックで思わずヒュッと喉が鳴り、怒鳴られた事で足が震え始める。

その様子にジュード殿下が嫌な笑みを浮かべた…。


「お前…王城に王族のマナーの勉強に来ているんだってな!…もう来なくていいよ、二度と来るな!」

私の顔の前で唾が飛ぶ程に怒鳴るとジュード殿下は応接間を出ていく。

扉を叩きつけるように閉められ…私はその場にしゃがみこむ。


…怖い…怖い…怖くて…怖くて…私は体の震えが暫く治らず、異変に気づいたケリーが私を包むように抱きしめてくれたけど…。

私はその日を境に上手く喋れなくなってしまった。

そして…ジュード殿下もまた、公爵家に顔を出す事が無くなってしまった。



毎日の食事の味がしない…。

目に見える全ての物から色が無くなった。

私は喋るのが怖くなって…自分の気持ちを飲み込むようになった。

唯一…ケリーにだけは少しだけ話す事が出来るようになったのは、二週間が経った頃だった。


冬季休暇が終わる頃…リオンお兄ちゃんとリリアお姉ちゃんが帰って来たけど…。

その頃の私は部屋に閉じこもってばかりだったから、よく覚えていない。


そんなある日、勉強の途中にケリーは私を厨房へと連れて来た。

厨房に用なんか無いのに…。

厨房の入り口にはリリアお姉ちゃんの侍女のマリーが立っていて、ケリーが何やら話をすると…厨房の扉を開いてくれた。


「中にリリア様がいらっしゃいます。今日は男子禁制だそうで、リオン様もリーマス様もおりません。」

マリーがサッと説明し、厨房の奥の方へと私達を促した。

初めて入る厨房…その一番奥にリリアお姉ちゃんは居た。

近づくにつれ、甘い良い香りが鼻を擽る。

こんな風に匂いを感じたのはいつぶりだろう…?


リリアお姉ちゃんの作業台に近づくと…何かを作っている。

それが気になって覗き込もうと背伸びをした。

だけど…上手く覗き込めなくて、何度か飛び跳ねるとリリアお姉ちゃんがいつの間にか隣に来て…私の足元に踏み台を置いてくれた。

「見たいんでしょ?」と声をかけられた事に…そして踏み台を置いてくれた事にも驚いて私は思わず顔を上げてリリアお姉ちゃんを見た。



リリアお姉ちゃんは作業の邪魔をした私に嫌な顔をするでもなく…何かを手早く用意して、私の前へと並べてくれる。

暖かいミルクのような物と…ケーキの切れ端?

ケリーが私を椅子へと座らせてくれて、私が恐る恐るリリアお姉ちゃんを見るとフワッと柔らかな笑みで「召し上がれ。」と言った。


甘い香りのミルクを一口飲むと…口いっぱいがチョコレートの甘さに包まれる。

「…美味しい…。」

初めて飲んだその飲み物をリリアお姉ちゃんはホットチョコと言っていた。

美味しくて…次に目の前のケーキにも手を付けると、こちらも上品な甘さで口の中で解れる。

夢中で食べて…私はリリアお姉ちゃんが何かを作っている事を思い出し、再びリリアお姉ちゃんを見た。


美味しいって思ったのは…?

良い匂いって感じたのは…?

目の前の食べ物に色が付いたのは…?

いつの間にか感じなくなっていた感覚を、一気に思い出す。


いつの間にかリリアお姉ちゃんが作業を終えて…出来立てのチョコレートのお菓子を切り分ける。

あれは…誰かにあげるのかな?

…ジュード殿下に…?

胸の奥がキュゥッと苦しくなって、私は両手に力が入る。


スッとリリアお姉ちゃんがチョコレート菓子を私とケリーに差し出すから…吃驚してリリアお姉ちゃんを見てしまった。

リリアお姉ちゃんが「味見にどうぞ。」と言ってパクリと食べたから、私もケリーも同じようにパクリと口に含む。

甘く蕩けるチョコレートに…たっぷり入ったドライフルーツやナッツの食感がとても合う。

こんな美味しいお菓子…初めて!

その美味しさに落っこちそうになる頬を両手で支え、私は蕩けるように目を細める。

じんわりと余韻まで味わって目を開けば…リリアお姉ちゃんが何やら険しい顔でチョコレート菓子を見ている。

美味しいのに…どうしたんだろう?


「気にしないで。」とリリアお姉ちゃんが言って…そしてケリーとマリーと厨房の人に声をかけて作業台から離れて行ってしまった。


暫くすると、リリアお姉ちゃんが「このチョコレートサラミは私専用だから!」と大きな声で宣言していた。

あの美味しいチョコレートが、もう食べれないのかと気持ちが落ち込む。

するとリリアお姉ちゃんが私の前まで来て、私と目線を合わせるように屈んだ。


「私専用だから、もし食べたい場合は私と一緒の時だけね!約束できる?」

…一緒の時?

また…一緒に居てくれるの?

私と一緒に?

嬉しくなって自分の顔が綻ぶのが分かった。

私…前はいつ笑ったんだっけ?


「じゃあ、帰ってきたら一緒に食べよ!」

リリアお姉ちゃんが微笑んで…私に声をかけてくれる。

「うん!!」

思わず頷き…声が出た。


ブクマ・評価・感想・誤字報告ありがとうございます。


思いの外…リナリアの話が長くなりました。

まだまだ続きます。


ジュード殿下の言葉を書きながら、私がダメージを喰らうなんて…。

嫌な気分にさせてすみません。

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