プロポーズ
椅子に座ったままの私の前にアレスは跪くと、顔を上げて微笑む。
「アンクレット…僕に付けさせて欲しい。」
甘く熱を帯びた眼差しにコクンと頷くと…アレスは私の左の足首を取り、靴を脱がせる…。
……待って!?待って?なんで靴を脱ぐ必要があるの?
足をビクッと引くが、しっかりと足首を掴まれてしまってびくともしない。
「リリア、動くと付けられないから…ね?」
そう言って、何故か脹脛を撫でるアレス…それが擽ったくて足がピクンと動いてしまう。
何度かそれを繰り返すと…いつの間にかアンクレットが足首に付けられていた。
…え?どうやったの?…マジック?
「…一年後にって言った事、もう少し早くに叶いそうなんだ。」
アレスは私の足に靴を履かせると、そのままの姿勢で話し始める。
足を地面に置き…私の両手を取ると、私の膝の上で手を繋ぐ。
「リリア…僕はリリアが好きだ。」
美しく光る碧い瞳が私の瞳を捕らえる…。
アレスからの告白に、私の顔が一気に熱くなった。
「僕がマリア様の養子になったら、もっとちゃんとした言葉で伝えるけど…今は僕の気持ちだけでもリリアに知っていて貰いたくて…。」
繋いだ手に力が篭り、温もりが心地良い。
それなのに、私の心臓はドキドキが止まらなくて…ギュゥってなって…。
「…リリア、好きだ…。」
少しずつアレスの瞳が私に近づいてきて…その美しさに瞳を逸らす事も出来ずに私もアレスを見つめる。
「私も…アレスが好き…。」
思ったままをそのままに口が勝手に動いた…。
ーーーそして…
溢れた言葉を掬うように…唇が塞がれた。
触れるだけのキス。
瞳を閉じて…再び開ける頃に、アレスの唇が離れていく。
もう少しだけ…と、思わず呟けば…その言葉も掬われて…再び唇が重なった。
「…リリア、それ以上は言っちゃダメだ…止められなくなっちゃうからね。」
再度、唇が離れると…アレスは親指の腹で私の唇をなぞる。
その言葉に私は自分の言った事を思い出し…ボンッと音がするほどに体が熱くなった。
「リリア…今日はありがとう。」
アレスが再び微笑むから、私も同じように笑顔になる。
「私の方こそ、ありがとう。アンクレット、とても嬉しかった…大切にするね!」
春の暖かな日差しの中で、私とアレスは再度…微笑みあった。
ーーーーーー八ヶ月後。
お兄様が初等部を卒業し、私とリオンは二年生へと進級した。
そして、今日…私とリオンの9歳の誕生日を迎える。
今年はちょうど週末と重なったので、領地の本邸で家族も一緒にお祝いする事になった。
本邸ではアレスや祖父母の他に、マリア様も待っていた。
先日、アレスはマリア様の養子になりアレス・ハインツからアレス・ペチェリーヌへと名を変えた。
今はまだこの領地にいるが、中等部に通う時は王都のペチェリーヌ伯爵家から通うそうだ。
もうすぐ婚約者となる私と同じ家だと…外聞があまり宜しくないらしい。
夜にお祝いをしてくれるそうで…今は、アレスと一緒にお邸の庭園へと来ている。
「リリア…誕生日おめでとう。」
「ありがとう。」
アレスは綺麗な花冠を私の頭に乗せ、お祝いの言葉をくれる。
花の甘い香りが漂う庭園は…どこか幻想的に思えた。
スッとアレスは跪くと私の手を取り、顔を上げる。
陽の光で輝く美しい瞳に、私は目が離せなくなる。
アレスの瞳は太陽というよりも静かな月のイメージだが、陽の光が当たるとキラキラと光って見える。
「私…アレス・ペチェリーヌは、リリア・クリスティアを生涯愛し、私の全てをかけて君を幸せにする事を誓います。
リリア・クリスティア、私と婚約して頂けないでしょうか。」
前世も今世も合わせて…初めてのプロポーズ。
今のアレスは物語に出てくる王子様のようで…私の胸はずっと、ときめきっぱなしだ。
一呼吸置き…気持ちを落ち着けると、私はアレスに向かって応えた。
「お受けします。…私もアレスを生涯愛し、幸せにすると誓います。」
なんとか返した私の言葉にアレスは嬉しそうに微笑み、握っていた手に口づけを落とす。
その手に力を込めてアレスが立ち上がると、私を抱きしめた。
「リリア、ありがとう!」
抱きしめた手を緩め、互いに見つめ合うと…唇が触れる。
その感触に思わず肩がピクンと跳ねて、アレスの上着をぎゅっと掴んでしまう。
「ふふ…リリア、可愛い…。」
スリッと頬を撫でる手に擽ったくて目を細めると、再び唇が塞がれた。
何度か繰り返されて…遠くの方で私を呼ぶリオンの声が聞こえるまで止まる事はなかった。
そして…そんな私の左手の薬指には、綺麗に光るダイヤモンドの指輪が嵌っていたのだった。
ブクマ・評価・感想・誤字報告ありがとうございます。
…プロポーズシーンで誤字とかあったら本当に申し訳ございません!と、先に謝っておきます。
無い事を祈りつつ。
第二章はここで終わります。
最後、駆け足かなと思いましたが…あまり引っ張るのも何だかなと。
そして、第三章は一気に年齢を上げます。
なので、三章までの間に幕間やら番外編を書く予定です。
暫くは三章に入りませんが、ご了承下さい。




