もう一つ心臓をください。
春の暖かな日差しの中…私の前に居るアレスに、何故か跪かれてます!?
チャリティバザーの次の週末、祖父母とアレスが王都へと来る事になり私達はいつものようにエントランスで待っていた。
両親とお兄様とリオン…そして今回はリナリアも一緒にいる。
前回…リナリアはお出迎えには顔を出したが、アレスに挨拶する前に邸へと入ってしまった。
会ってはいるが、話すのは今回が初めてとなる。
「ドキドキする…お姉ちゃんの好きな人ってどんな人なの?」
リナリアが私の横で…私にではなくリオンへと問いかける。
まぁ…私に聞かれても困っちゃうんだけど。
「とっても格好良いんだ!だけど、リリアにはとっても優しくて…見てるこっちが赤面しちゃう事も多いんだよ!」
その説明でウンウンと頷くリナリア…ちょっと、なんて言うか…本当に止めてくれないかな?
「アレス様が…お姉ちゃんの作った物を喜んでくれるといいね?」
リオンと会話をしていたかと思うと、私の袖をクイッと引っ張り…そんな可愛い事を言うリナリア…。
思わずギュムッと抱きしめてしまう…。
そんな私の上から「僕もー!!」と言ってリオンも覆い被さる。
チラッとお兄様を見れば、ウズウズはしているが何かをグッと我慢しているように見えた。
そんな遣り取りを終えた頃、馬車が門を潜り邸の前へと到着した。
中からはお祖父様が出て来て、お祖母様をエスコートする。
「「来てくれて、ありがとう!!」」
いつものように私とリオンが抱き付けば、嬉しそうに祖父母は抱きしめ返してくれる。
ーーーーートスンッ!
私がお祖母様と抱き合っていると、私の背中に何かが衝突した。
振り返ればリナリアが私にしがみ付いている。
「あらあら、リナリアも混ざりたいのね?」
お祖母様が嬉しそうにしゃがむと、右手に私を抱き、左手にはリナリアを抱き締めた。
三人でぎゅーっとしてから…離れる。
……新しい!!
「リュークも元気そうだな!」
祖父母は私達と離れると、今度はお父様方へと挨拶をする。
私は再び馬車の前に行くと…扉から…。
家庭教師のト…コホンッ。
トレイルさんが出てくる…何故!?
「おや、お目当ての彼で無くて申し訳ない。先に私からリリア様にバレンタインデーのお返しをと思いまして…はいっ!」
トレイルさんは申し訳なさそうに笑うと、私の両手にドスンッと羊皮紙の束を渡してきた。
羊皮紙は何故か初等部の進学テスト対策の問題集だった…。
既に初等部の私には不要な物なのだが…と、首を傾げているとトレイルさんはニッコリと笑う。
「リリア様には問題集などは今の所は不要そうでしたので、リリア様からリナリア様にプレゼントなさると宜しいかと思いまして。」
そう言って私の隣にいるリナリアへも笑顔を向けるトレイルさん。
確かにリナリアは特進クラスを目指しているが、まだ一年以上先の話だ。
だが、これはかなり役に立つ事を私は身を以て知っている。
「ありがとうございます!そうさせて頂きます。」
トレイルさんは私の答えに満足そうに頷くと、再び扉を開けて声をかける。
すると…扉から、今度は本物のアレスが降りて来た。
「リリア!」
「アレス!」
嬉しそうに私を呼ぶアレスに…私もアレスを呼んで応えれば、アレスはそれを遮るように私を抱き締める。
暫くぎゅぅっと抱き締め合うと、私は顔を上げてアレスを見た。
「会いたかった…。」
アレスは嬉しそうに微笑むと再び腕に力を込める。
私も…会いたかった。
「ゴホンッ!!」
アレスに返事をしようと口を開きかけた時…背後からお父様の咳払いが聞こえて我に帰る…。
……やばい!此処は、まだエントランスだ!
そう思い振り返れば苦笑いを浮かべる祖父母や両親…と使用人達。
赤面しているお兄様とリナリア…。
リオンだけは呆れ顔で私を見ていた。
「失礼しました、ご無沙汰しております。」
「うん、アレス君も元気そうだね!此処は人も多いから…後で庭園でゆっくりリリアと話すと良い。」
アレスは私に回っていた腕を離し…何故か手を取ると、お父様方に挨拶をし出す。
私はその横で繋がれた手とアレスの顔を見比べる。
挨拶を終えたアレスは今度はそのままの状態で、近くにいたお兄様とリナリアへ顔を向けた。
「元気そうだね!」
「そっちも…って、まだ前回会ってからそんなに経ってないけどね?」
お兄様とアレスは仲が良くて…いつものように笑って挨拶を終えると、今度はリナリアへと目を向けた。
「初めまして、アレス・ハインツです。」
「初めまして、リナリア・クリスティアです。お姉ちゃんの事…よろしくお願いします!」
アレスとリナリアが互いに名乗り…って!リナリア、ストップ!!
私は慌ててリナリアを止めると、リナリアがコテンと首を傾げる。
「リナリア、そういう事はアレスがリリアの婚約者になってから言うものだよ!」
もうダメじゃないかーっとコツンとリナリアを小突くリオン。
…そう言う事じゃぁ無いんだけど。
「ふふっ仲良くなって良かったじゃないか。お姉ちゃんの事、僕が必ず幸せにすると誓うよ!」
私の隣でアレスは嬉しそうに笑うと、リナリアの目線まで体を屈めてアレスはリナリアに約束していた…。
その言葉に私の頭の中で爆発するような音が聞こえる。
なんだ…これっ!…誰か私にもう一つ心臓を下さい。
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今回…思ったより長くなってしまい、冒頭の一文は回収出来ませんでした。




