ずっと気になっていた事
「クロード殿下に…質問しても宜しいですか?」
チャリティーバザーも終わり、撤収作業を手伝いながら私はクロード殿下に話しかける。
本来はクロード殿下に私から話しかけるなど無礼…なのだけど。
「うん、良いけど…答えられる質問しか答えないよ?」
売れ残った商品の在庫を調べ記入しながらクロード殿下は笑顔で了承してくれた。
「…ジュード殿下の事は聞いてますか?」
私の問いにクロード殿下は反応し、ピクッと一瞬だけ手を止める。
だが、何事も無かったかのように直ぐに手は動き出す。
「…どれの事?」
……どれって何っ!?
え?学園のお茶会以外にも何かあるの?
私は思わず目を見開き驚いてしまう。
「……リリア嬢の耳に入るって事は、お茶会の事かな?」
「そうです。」
私の耳に入らない事も…何かあるのだろうか?
まぁ、学園での事が全てでは無いだろうけど…。
「聞いてるし、目撃もした。……王城に戻ってから注意もしたけど、聞く気は無いみたいだね。」
注意もしてくれたのか…。
お兄様…だもんな。
「陛下や母上にも勿論報告は上げているし…侍従も増やしてはいるんだけどね。」
国王陛下や王妃様にも知らせて、しかも侍従…教育係を増やしているって事かな?
その割には…。
「お察しの通り、教育係をいくら増やしても本人にやる気が無くては意味がないんだよ。」
他での作業を終えて、お兄様方も近くに来て私とクロード殿下の話を聞き出す…。
皆んなもやっぱり気になるよね。
あんなに派手に女の子と遊んでいるんだもん…。
……はっ!もしかして、皆さんの好きな令嬢もお茶会に参加してるのかな!?
私が一人、在らぬ方向へ考えを膨らませているとリオンが私の頰をプニプニし出す。
…あれかな?リオンの中で流行っているのかな?
「…リリア、違うと思うよ?変な方向性に勘違いしない方がいいと思う。」
リオンが耳元でボソッと呟くと、何故か皆さんが私に視線を向けて首を振っている。
「………っ!!」
このパターンはもしかしてっ!?
慌てて口元を両手で塞ぐと、リオンが「大丈夫、今日は漏れてないから!」と教えてくれた。
「……漏れてなくても、何考えてるかは何となく分かるよ?」
お兄様が苦笑しながら、私の頭をポンポンと撫でる…。
…表情でダダ漏れって事ですかっ!
引き締めなくては!
「話を戻すけど…今のジュードには一般教養とマナーの講師、王族教育を担当する講師の三人と侍従も三人付いている。」
王家というのは、そんなにも教育係がいるのか…我が家とは違うなっ!
なんて思っているとクロード殿下が苦笑する。
「僕なんてソムリスだけなんだけどね?まぁ…ソムリスがどれも教えられる男だからってのもあるかな。」
なんと!?ソムリスさんて…侍従兼毒味役だと思っていました。
「あと…魔法や剣術は魔法省へ行ったり、騎士団へ行ったりして教わってるから…そう考えると僕の教育係って少ないね?」
二年生から教わる魔法は学園外ならば国家資格を持った人でなければ教える事は出来ないそうだ。
魔法省の就職の際に必要なのも、この国家資格で…要は危険な事なので勝手にやっちゃダメだよって事みたい。
お祖母様も元は魔法省の職員だったから、勿論この国家資格を取得している。
剣術も同様に資格があるようで、こちらは所謂…空手や柔道などの段級位制といった資格に近い。
冒険者のランクと同じような仕組みのようだ。
師範代みたいなランクで無ければ教える事は出来ないという。
勿論、お祖父様は最上位ランクなので師範代である。
クロード殿下は同じ王城の敷地内の各部署へと出向き、日々…励んでいるようだ。
確かに、どうせ呼びつけても練習するところは各部署にあって移動しなければならないなら…効率はいいかな。
…きっと王族では珍しいんだろうけども。
「今のジュードが魔法も教わるようになるのだと思うと不安しかないよ。」
はぁー…と一際大きな溜息と共に、クロード殿下は商品を入れた最後の箱を閉じた。
それを聞いていた皆さんもクロード殿下を苦笑しながら見つめていた。
「…ジュードも君達の弟達みたいに更生されないのかな?クリスティア家に行っただけで別人になるって…羨ましいよ。」
……多分ですけど、ジュード殿下は朝の段階で無理だと思いますよ?
他家の皆様方も、よく朝から起きれたと思います。
だって…五時って、普通に使用人しか起きていない時間だからね?
貴族じゃなくても早いレベルだと思う…。
「ジョニーは朝起きるのが一番大変だったらしいよ?」
「ジャックも同じ事を言っていた…朝は五時には支度して外に出なければならなかったらしい。」
二人のお兄様方の話に私とリオンはフイッと右斜め下に目線を下げる。
……あれが普通じゃなかったって、気づいたのは王都で暮らし始めてからだったりする。
「リオンとリリアは毎朝、五時前に起きてるんだよね?」
勿論…お兄様はそんな時間には起きないのだが、使用人には聞いてるようだ。
最近は何故かリナリアも早く起き出して私達の鍛錬を見学していたりする。
…あの子も私達寄りなのかも知れないな。
「「「「「「毎朝!?」」」」」
驚愕の声と共に凄い顔でこちらを見てくる皆様方…だから目を逸らしたのに。
「そんな時間から勉強してたんじゃ…確かに二人に追いつくのは難しいだろうね。」
クロード殿下がそんな事をボソッと呟くので、私もリオンも訂正の為に左右に振った。
するとお兄様を含む皆様が不思議そうに首を傾げる。
「五時から朝食までの二時間は勉強じゃなくて、剣術と魔法の鍛錬だけだよ?ね、リリア。」
「う…うん。」
それもそれで驚かれちゃうんだけどね…ほらね。
皆様…顎、外れそうですよ?
「……別人になるわけだよ。」
クリス様が溜息を漏らしながら納得してくれたようだ。
合宿中に私達と同じ生活を送っていたのなら、朝から鍛錬と勉強でスケジュールは埋まっていただろうな。
「……今のジュードでは無理そうだな。」
心を入れ替えるための合宿なのに、その前段階でNGって…。
だが…このままジュード殿下を野放しにしておくのも王族としてはまずいよね。
我儘放題では国民の心証も悪い。
今日のようなチャリティーバザーにも、しっかりと参加するクロード殿下の評価はかなり良いだろうけど…。
再来年に行うであろうチャリティーバザーはジュード殿下が主体になるはずだ。
それまでに変われば良いのだが…。
…ちゃんと生徒会長をやってくれるよね?
取り巻き達が離れちゃったけど…きっと新しいメンバーを見つけてくれるよね?
仲直り…は、難しいもんね。
彼らの中で恐らく…ジュード殿下への信頼回復は無いと思うしね。
「…皆様が今年卒業なんて…して欲しく無いです。」
私が眉を寄せ…皆様に残念な気持ちをそのままにお伝えすれば、クロード殿下は再び苦笑して皆様方の顔を見た。
「……それは、なんて言うか…あまり嬉しく無い言葉に聴こえるのは僕だけじゃ無いよね?」
皆様方も同じように苦笑して、頷くのだった。
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