作ったのは秘密の令嬢
王都の中心にある大きな広場では大勢の人達がチャリティーバザーに参加していた。
どこもかしこも楽しそうな声が聞こえてくる。
そんな中、特に賑わっているお店を見つけた。
私とリオンは逸れないように手を繋いでお店を覗くと…そこにはお兄様方、生徒会メンバーがいた。
「やぁ、いらっしゃい。」
賑わう店内の端にいた私達に気づいたお兄様が手を振って、私達をカウンターの中へと入れてくれた。
此処は学園の生徒達が出品しているブースだそうで、色々と珍しい物が揃っている。
…だが、何度確認しても私とリナリアの商品が無い。
このお店では無いのだろうか?
「ん?どうしたの?」
私とリオンがキョロキョロと探しているとお兄様が不思議に思い、声をかけてくれた。
「私達のハンカチとクッキーは別のお店ですか?」
私の問いに、お兄様も他の生徒会メンバーも困り顔で振り返った。
え?なんか問題でもあったのかな?
「…売り切れた。」
………はい?
私もリオンもポカーンとした顔でお兄様方を見ると、お兄様が気まずそうに苦笑する。
だって…まだお昼前だよ?
…50個って約束だったけど、ハンカチと一緒にしたから30個になってしまって…それでも多かったよね?
30枚ものハンカチを刺繍したリナリアって凄いって思っていたのに…もう売れちゃったの?
だって、他にもこんなにいっぱい商品あるし…。
可愛い髪飾りとかあるし…あっ!これも可愛い。
「それがさ…女の子達のグループが見つけちゃって…そしたらあっという間に無くなっちゃったの。」
「面白いんだよ?気づいたのは女の子達なのに、買っていた大半は男の子達だったんだ。」
「あれは、贈り物にするんじゃ無いのか?」
「あぁ…確かに、あれを贈られた女の子は喜ぶだろうね。」
クリス様やジル様…ルシアン様とラムシル様まで話に混ざる。
接客の手は止めないところが、さすがです。
「売り切れた後も大変だったよな。」
アルフレッド様が在庫の補充をしながら遅れて参加すると、生徒会メンバーの皆さんが再び苦笑した。
私もリオンも訳が分からず首を傾げる。
「もう無いのかって問い合わせが凄くてさ…大変だったよ。」
主に男の子達からの問い合わせが殺到してしまって、対応が大変だったみたい。
…でも。
やはり売り切れって聞くと嬉しいよね。
思わずニマニマしていると、プニッとリオンに頬を押された。
プニプニと何度も突かれて思わずムゥッとした顔になり、リオンを見た。
「良かったね!」
リオンは本当に嬉しそうに笑って、更にプニプニとする。
嬉しいけど、プニプニは止めて欲しい。
「リリア嬢のクッキーも美味しそうだったけど、あの刺繍のハンカチは僕も欲しかったなぁー…。」
クリス様がボソッと呟く。
リナリア手製のハンカチの刺繍はちょっと控えめに刺してあり、モチーフも淡い色合いのお花と小鳥で子供でも大人でも使えそうな逸品だった。
「確かに…あれを好きな子に贈れば喜んでくれるだろうな。」
ジル様もボソッと呟く。
おや?皆さん…好きな方がいらっしゃるのかな?
再びニマニマすると、今度はリオンも突くのを止めて上級生方を見ていた。
「…皆さんには好きな方がいらっしゃるのですね?」
「「「「「え!?」」」」」
赤面するわけでもなく…何故か皆さん素で驚いている。
え?なんで?
「ハンカチ…皆さんの分もお願いしてみましょうか?」
「「「「「え?」」」」」
何でそんなに揃えて返事してるかは分からないが…期待の眼差しがヒシヒシと伝わって来る。
「あっ、じゃあ僕のはクッキーを2倍にして?」
クリス様がサッと要求を増やしてくる。
他の人達も同じように頼まれるので、了承した。
「少し…お時間頂いても大丈夫ですか?」
リナリアに作ってもらうのに、急がせるのは申し訳ないし…。
それに来週はアレスとのホワイトデーが…ゲフンッ…ゴホンッ…。
皆さんに了承してもらい、お受けすると…お兄様にも頼まれる。
お兄様は今も作っているのがリナリアだと気づいていないようだ。
暫くすると、護衛を引き連れたクロード殿下が裏から顔を出したので私もリオンもご挨拶する。
クロード殿下は嬉しそうに私達に声をかけた。
「もう売り切れたんだってね!僕も一つ買おうと思っていたんだけど…残念だよ。」
……その件は先ほど上級生方としたので、同じように声をかければ…やはり頼まれた。
「そうそう、あの刺繍のハンカチを母上も持っていて吃驚したけど…誰の作品なの?」
王妃様にはお母様から渡された事を聞いていたが、王妃様はクロード殿下に話してはいないようだ。
まぁ、ジュード殿下の婚約者の作品だしね。
ジュード殿下にも以前に渡そうとしたけど断られたってリナリアが悲しそうな顔で言っていたな…。
「……彼女から話して良いと許可を貰って無いので…。」
何となく濁しながら言う。
その答えに納得するはずもないクロード殿下は更に笑顔で首を傾げている。
話せないの?みたいな顔をされても困る。
「とても可愛い令嬢ですよ!」
私の隣でリオンが得意気に答える。
その答えは…ずるいよね!それ以上は聞けないもんね!
良くやったリオン!
「…君達は本当に秘密が多いんだから…、また教えてね?」
リオンの答えにクロード殿下は苦笑し、今回も諦めてくれたようだ。
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