バザー用のお菓子作り
食堂での出来事から四週間近くが経ち、私は今…厨房でクッキーを焼いている。
クロード殿下やお兄様から頼まれたチャリティーバザー用のクッキーである。
刺繍のハンカチをお願いしたリナリアは既にかなりの枚数を作り終えており、私のクッキーと一緒にラッピングしてバザーに出すと言う事になった。
あの出来事の後、ジョニー様方は二週間の謹慎処分になった。
その間、何故かクリスティア領の本邸で合宿をしていたそうだ。
アレスの事が心配になったが、お祖母様からの手紙によればその間はお祖母様のお姉様のお手伝いで王都で過ごしていたらしい。
王都に居たのなら…少しは会いたかったな…って思ったり思わなかったり…?
謹慎処分から復帰した彼等は…なんて言うか…別人だった。
そんなにクリスティア家って厳しいのかなって不思議に思ったけど、彼等は変われた事に満足しているように見えた。
そして、彼等はジュード殿下の取り巻きを辞めた。
ジュード殿下は取り巻きが居なくなり、今度は令嬢達に囲まれる日々を送っている。
…毎日のように令嬢から学園内のサロンで行われるお茶会に誘われては参加しているそうだ。
ラライカさんが誘われたと言っていたので、様子を探って欲しいとお願いすると何故か快く受けてくれた。
見た目がクールなラライカさんは意外にも面白い事が大好きみたい。
他の仲の良い令嬢にもコッソリと聞いてみてくれているそうだ。
バレンタインの次の週の王妃様とのお茶会は、クロード殿下が陛下や王妃様に報告した事で流れてしまった。
リナリアの話もしたらしく、陛下も王妃様もリナリアの王城の出禁を直ぐに解いてくれた。
お母様が王妃様のお茶会に呼ばれた際にリナリアから預かった刺繍のハンカチを王妃様へ渡したところ、大変喜んでくれていたと誇らし気に話していた。
近々リナリアはお母様と一緒に王妃様のお茶会に参加するそうだ。
「クッキーは何種類にするの?」
私が最近の出来事を振り返ってボケーっとしてると、リオンが隣で作業を手伝いながら質問してきた。
その言葉で、手元のクッキー生地を思い出す。
「えっと…3種類かな?」
アイスボックスクッキーと、ドロップクッキーと……あっメレンゲクッキーも食べたいかな。
ラングドシャとかも好きだけど壊れやすいのは向かないよね?
アイスボックスクッキーもドロップクッキーも基本の生地は少し柔らかめで同じだし…。
メレンゲクッキーはその名の通り砂糖と卵白のみだ。
量産するからあまり凝ったのは作れないけど…。
アイスボックスクッキーは市松模様の可愛い感じに。
ドロップクッキーはナッツ多めのボリュームある感じにしようかな。
リオンと共に厨房でクッキー作りをしていると、いつもの様にリナリアが顔を出した。
最近はお菓子作りをしていると顔を出してくれるのだ。
「私も手伝える事…ある?」
手を洗ってから作業台の近くまできたリナリアに私はスプーンを渡しドロップクッキーを手伝ってもらう事にした。
リオンには冷やしておいたアイスボックスクッキーの生地をカットしてもらう。
市松模様の断面を見たリオンとリナリアが二人同時に「おぉ!」と言ったのが可笑しくて思わず笑ってしまった。
確かに、金太郎飴みたいで面白いよね。
二人の作業していたクッキーを先にオーブンに入れると、私はメレンゲクッキーに取りかかる。
しっかりと固めのメレンゲを作るため、卵白を泡立て砂糖を加えてよく混ぜる。
それを鉄板へと小さめにポトポト落としていくと、二人はその光景を不思議そうに見ていた。
「本当は絞り袋に入れて絞ると楽だし、形も綺麗なんだけどね。」
いつか…どこかの職人に作ってもらおう!
二人はメレンゲクッキーがオーブンに入るまで…不思議そうに見つめ続けた。
簡単だし、多めに作ったから…後で皆んなで味見しようかな。
あの食感にきっと感動してくれると思うんだよね。
クッキーを焼いている間に、もう一品!
これは私がずっと作りたかった物の一つ…いや、ずっとっていうか…バレンタインの準備の時に本当は欲しかったやつ。
ゼラチンと砂糖とお水と卵白…あとはコーンスターチ。
コーンスターチ…と多分同じだと思われる粉は、とうもろこしが原料の澱粉だ。
コーンスターチは大きめのバットに広げて、等間隔に溝を作っておく。
お水を火にかけ、そこにゼラチンを入れて溶かし…その後で砂糖も溶かす。
再び卵白との戦いが始まる…今日は既に手が疲れているが、最近の私は筋力がついたのか以前よりも持久力が上がった気がする。
少量の砂糖を加えた卵白をツノが立つまで泡立てる。
そこに砂糖とゼラチンを溶かした物を少しずつ加えながら更に混ぜる。
私の本気にリオンもリナリアもドン引きだが…お構いなしだ。
時折、クッキーの焼き加減を確認する。
特にメレンゲクッキーは水分を飛ばしてあげる事でサクッとするので何度かオーブンを開ける。
再び、マシュマロ作り。
ゼラチンと混ぜたメレンゲ生地をコーンスターチの溝の中にスプーンで流し入れる。
固まり出したらコーンスターチを絡めて完成だ…作ってみたら思ったよりも簡単で吃驚する。
ただし、腕はかなり疲れるのでやる気は必要になるな。
出来立てのマシュマロをパクリと味見。
ふわっふわの食感に思わず顔がニヤける。
私の表情を見たリオンとリナリアが手を差し出すので…私は手を置いてみた。
「「違う!」」
ペシッと手を跳ね返されたので、仕方なくマシュマロを手に乗せてあげると目をキラキラさせてフニフニと触っていた。
パクリと口に含むと今日もリオンの美味しいのポーズが決まる。
その横で同じポーズを取ったリナリア…誰かっー!カメラ持ってきてーーー!!
二人のあまりの可愛さに思わず蹲り悶絶する私…大丈夫だよね?鼻血とか出てないよね?
「何これー!?」
「美味しいですぅ…。」
二人が遅れて感想を述べる。
これを本当はチョコレートサラミに入れたかったと話すと、二人はウンウンと納得し頷いた。
本当に可愛い仕草がそっくりだなっ!
そうこうしている内にクッキーも焼き上がる。
焼き上がったクッキーはまだ柔らかいので、そのまま冷ます。
メレンゲクッキーだけは大きめのお皿へと移して冷ましておく。
それぞれ三つずつお皿に乗せ、別のお皿にマシュマロも乗せる。
サッと作業台を片付けてハイムさんにクッキーを冷ましているからと声をかければ直ぐに了承してくれたので、そんなハイムさんにもマシュマロをお裾分け。
厨房を出る時に、遠くの方でハイムさんの「んーーーー!!!」という叫び声が聞こえたけども無視しておく。
今は一刻を争うのだ!
リオンとリナリアに急ぐように伝え、私達は足早に使っていない応接間へと向かうのだった。
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