慰謝料はお菓子で!
「ムグ…そもそもさ…モグモグ…何でこんなに…モグムグ…僕達に…モグモグ…絡むんだろう!」
リオンは口に入ったお菓子を、モグモグごっくんとすると新しいお菓子に手を伸ばす。
それを私とジル様はただただ見ている…。
会議室で今まで以上に腹を立てたリオンは、生徒会室に戻ってもずっとお怒りモードのままで…。
私もジル様もどうしたら良いのかと悩み、私は備蓄していたお菓子をリオンの口元へと運んでみた。
私手製のクッキーや小さなパイ達をリオンの口元へ近づけるとリオンはプンスカと怒りながらも食べ出す。
…それはもう凄い吸引力で、お菓子はあっという間に無くなってしまった。
再び私がアワアワとし出すと、生徒会室の戸棚からジル様が備蓄菓子を持って来てくれて…今度はジル様がリオンへと食べさせた。
それを再び怒りながらリオンは食べ続け…時折、その怒りを声に出していた。
その様子に私もジル様も相槌を打っていると、ジル様がお隣の会議室の扉が開いた事に気付き顔を上げる。
私も同じように顔を上げれば、心配そうに此方を伺うクロード殿下が見えたので思わず苦笑いを浮かべた。
「えーと…どんな状況?」
クロード殿下は私達の顔を見比べながら困惑した表情になる。
きっと心配して来てくれたのだろうな。
「あー…えっとですね…。」
私が話し始めるとリオンは私を遮るように手で制す…が、それでもお菓子を食べるのは止めない。
「ジュード殿下を何とかして下さい!」
ムグムグとお菓子を食べながら、リオンは立ち上がってクロード殿下に向かって文句を言い出した。
おいおい、まずいよ?リオン君!
そう思って慌ててリオンの袖口を引っ張るけど無視された。
「彼にはリナリアという婚約者がいるんですよ?なのに、何でリリアにばかりちょっかいを出すんですか!!」
リオンの言葉を嫌な顔せずにクロード殿下は聞いてくれ、更に続けるように頷いた。
意外にも心が広いのか…いや、終わってから反論するつもりなのだろうか?
不敬罪に問われなければいいのだけど…。
「僕のお邸に来てもリリアの事ばかり話して、リナリアの事は邪険に扱ってるそうじゃないですか!リナリアには王城へも来るなと言ったそうですよ?王族の勉強で必要な事だってあるはずなのに…。」
先日のリナリアとのお茶会の話…あの時もきっと今みたいに怒っていたんだろうな。
あの時は私の方が怒っていたし、リナリアも居たから我慢してたのかな?
「そう…そんな事になっていたのか…。」
クロード殿下の知らない所で起きていた問題に、一度だけ目を見開くと難しい顔になる。
ジュード殿下が普段どのように過ごしているのかなど、忙しい彼には気にかける余裕もなかったのかもしれない。
「それだけじゃありません、リナリアに“煩い“と言ったせいで…リナリアは殆ど喋らなくなっていたんだ!」
その言葉に再び瞠目し、クロード殿下とジル様は黙り込む。
話を終えたリオンは再びお菓子へと手を伸ばし、その咀嚼音だけが生徒会室に響く。
「…リナリア嬢は、今も喋れないのか?」
沈黙を破ったのはクロード殿下だった。
クロード殿下は困惑の表情のまま私に問いかけるので、私は左右へと首を振る。
「先日…リナリアに事情を聞いてからは、少しずつ話せるようになりました。」
私の言葉に明らかにホッとした表情になったクロード殿下…。
だが…その顔に今度は私の方が険しい顔へと変わる。
「…どういうつもりなのでしょうね?リナリアから声も表情も奪うなんて…!」
沸々と湧き上がる怒りを押しつぶすようにしながら…それでも我慢出来ずに今度は私が喋り出す。
「あれほど気に入っていたリナリアを邪険にし私に好意を向けてくるなど…私には到底理解出来ません。」
「…しかも、アプローチの仕方も可笑しいよね?」
私がお菓子に手を伸ばせば、リオンが私の話に乗ってきた。
二人してプンスカと怒りながらお菓子を食べる。
「全くです!あんな計画…いや、計画とも呼べませんね!あんな事をする暇があったら勉強をしていた方がまだ好感度が上がると言うのに…逆効果だと何故に気付かないのでしょうか?」
ウンウンとリオンは頷きながら、更にお菓子に手を伸ばす。
この際だ、この美味しいお菓子達を私達への慰謝料だと思って頂いてしまおうではないか。
…という魂胆か?
「…君達、そろそろ…その…。」
「「何か!?」」
ジル様が減っていくお菓子を見つめながら私達に話しかける…が、私達の手は止まらない。
クロード殿下に助けを求めるようにジル様が視線を向けると、クロード殿下は苦笑したまま首を左右に振っていた。
どうやら食べても良いようだ。
「今後、もし…リナリアを再び傷つける事があれば…私達にも考えがございます!
今はリナリアがジュード殿下の事を許しているから何もしませんが、準備はさせて頂きます!」
王族相手に喧嘩を売るわけでは無いけども…それでも私達は家族の方が大切なのだ。
私の気持ちをクロード殿下に伝えると、クロード殿下は真剣な顔で頷く。
「あぁ…そんな事が起きたら、僕は止めたりしないよ。」
「そんな事が起きないように、してはくれないのですね…?」
クロード殿下の言葉に私もリオンも落胆する…自身の弟ではないか?
何故、そんな事が起きる前に何とかしてくれないんだろう?
「止められるならば止めるが、僕達は以前と違って殆ど話す機会が無くなってしまったんだよ。」
学園の生徒会だけでなく第一王子としての仕事も忙しいクロード殿下は、ジュード殿下との接点がどんどん減っていってしまったと話してくれた。
王城で会う事も、学園で会う事も殆どないという。
唯一…会えそうなのはお昼休みくらいだが、クロード殿下はあまりの忙しさに生徒会室で食事を摂っているそうだ。
今日の食堂での事も慌てて駆けつけたらしい。
「……自身の弟ではないですか…。」
つい、ポロッと口から溢れた言葉に私は慌てて口を噤む。
弟…だけど、王族。
私達の常識が彼らにとっては通用しない。
「ごめんなさい…。」
私は俯きながらクロード殿下へと謝罪の言葉を溢す。
クロード殿下は左右へと首を振り…苦笑した。
「事実だからね、僕達のせいで迷惑をかけてしまって申し訳ない。今後は出来る限り、僕は君達の力になる事を約束するよ。」
クシャッと私とリオンの頭を撫でるクロード殿下に私はリオンと一度だけ顔を見合わせ…微笑んだ。
すると、クロード殿下も安心したのかホッとした表情へと変わった。
『……言質は取った。』
私は笑顔の下でリオンへとテレパシーを送る。
『ふふっ…良い味方が出来たね!』
リオンからも直ぐにテレパシーが返ってきた。
私とリオンは、最上の笑みでクロード殿下を見つめるのだった。
ブクマ・評価・感想・誤字報告ありがとうございます。




