食堂での事について②
クロード殿下の冷たい声が会議室に響く…。
謹慎よりも重い罰則…って何だろう?
緊張が走る会議室の横、生徒会室にいる私はそんな事をボンヤリと考えていた。
そもそも、食堂で起こった騒動で誰かが怪我をした訳でもないし…。
誰かが立ち直れないほどの精神的苦痛を味わった訳でもない。
いや、ある意味ではジョニー様には肉体的にも精神的にもダメージはあったかもしれないが…彼は加害者側だからな。
返り討ちに遭ったからといって文句を言われる筋合いはない。
仕掛けた方が悪いのだ。
「…構いません、お好きになさって下さい。私は失礼します。」
私が罰則の事を考えてる間に、ジュード殿下は返答したかと思えばサッサと部屋を出て行ってしまった。
…え?帰ったの?本当に…?
私は隣にいるリオンと顔を見合わせる。
リオンも驚いた顔で私を見返す。
取り巻き達に全てを擦りつけて帰っちゃったよ…?
「…はぁぁ…。」
会議室ではクロード殿下が盛大な溜息を漏らしていた。
…本当、どうするんだろう?
「あぁ…大丈夫、そもそも謹慎以上の罰則は無いから心配しないでよ。」
恐らく青い顔でいたであろう取り巻き達にお兄様が説明する。
すると明らかにホッとした声が上がった。
「謹慎以上となれば退学しかないからな。」
私達の傍にいるジル様が小さな声で呟いた。
退学なんて初等部にもあるのかな…と疑問に思ったが、もしかしたらあるかも知れない。
初等部で退学したら、中等部はどうやって入るんだろうか?
思わずコテンと首を傾げると同じように首を傾げたリオンの頭とぶつかった…。
その様子を見ていたジル様が思わず微笑んだのを見て、今度はその顔に驚く私達。
ジル様って…笑うんだ!?
なんか、堅物っていうか…いつも無表情に近いからそのギャップに思わずドキッとしちゃう。
きっとこのギャップに、世の女性達はやられてしまうに違いない。
「二人は本当に可愛いのだな、クリス達が構いたくなるのも分かるよ。」
そう言って私達よりも大きな手で優しく頭を撫でられてしまった…。
突然の事に私もリオンも固まったままだが…ジル様はお構いなしに撫で撫でしてくる。
しかも、撫で心地が良いと言って止めてくれる気配はない。
…これ、ちょっと恥ずかしいんだけどっ!?
「ちょっと!!ジル、何を勝手に触ってるの!?」
隣の会議室から私達の様子を見に来たお兄様がジル様の行為に気づき、大慌てで私達とジル様を引っ剥がした。
「いや、あまりの気持ち良さに止められなかった…すまない。」
ジル様は申し訳なさそうに私達に頭を下げるので、私達も慌てて「大丈夫です。」と答える。
「確かに二人の頭は撫で心地が最高なのは認めるけど、僕のいない所で勝手に触らないように!」
お兄様がプンプンと怒っているが…何故、私達の頭を撫でる権利をお兄様が握っているのだろうか?
あと、私は女の子だからあまり触っちゃダメだと思う。
「ジョニー達が二人に謝罪したいそうだけど、どうする?」
お兄様はジル様と頭を撫でる際の注意点を話し終えると、私達に向き直り確認してきた。
私は…どちらでも良いけど、問題はリオンだ。
お昼休みの時はジョニー様を許す気は無かったみたいだけど…?
「謝罪するのは勝手ですが、僕はリリアにまで手を出そうとした彼等を許す気は無いです。」
普段は優しいリオンだけど、私や家族の事になるとそうではない。
そんな家族思いのリオンの事を…私は大好きだったりする。
大切に守ってくれているんだなって思うと正直…かなり嬉しい。
「勿論、僕も許す気はないよ?ただ謝りたいだけみたいなんだけど…。」
お兄様も許す気は無いようだけど…謝罪の言葉だけ聞いても良いのかなとは思う。
リオンは暫く悩むとコクンと頷いて立ち上がり、私に手を差し出す。
私もリオンの手を取ると、二人で隣の会議室へと向かった。
「長い事、待たせて悪かったね。一応…今日の事の顛末は聞いてもらったと思うけど…。」
私達が会議室へと入るとクロード殿下は立ち上がり私達に話しかける。
私もリオンもコクンと頷くと、今度は取り巻き達の方を向いた。
彼等が中々話し出せずに互いに視線を送り合っているのを見て…私は思わず溜息が出そうになる。
「許す気も無いけど…本当に謝罪する気はあるの?」
私が声に出す前に同じ事をリオンが彼等に問いかける。
リオンの言葉に彼等はビクッと肩を揺らす。
お昼休みの威圧の効果が今もあるようだ。
「君達の為に僕達は待たされて、しかも謝罪させて欲しいって呼びつけられて…元々許す気も無いけど謝り方も知らないの?」
…確かに、謝ってもらう側が呼ばれるって可笑しいよね?
しかも全然、謝ってこないし。
「高位貴族は謝罪しないのかも知れないけど、謝罪の仕方くらいは学ぶべきだと僕は思うよ?」
彼等に向かって声をかけると、リオンは私の手を再び握りクロード殿下やお兄様方に頭を下げる。
「謝罪したいと言われて来ましたが、彼等にはその気がない様なので僕達は失礼します。」
リオンは元の生徒会室の方へと歩き出した。
見た事のないリオンの姿に私は驚いたまま続き、更にジル様も付いてくる。
隣の部屋のソファーに再び座ると、お隣のリオンはプンスカ怒っていた。
そんなリオンに私もジル様も何と声をかけて良いのかとアワアワする事しか出来ずにいたのだった。
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リオン君は御立腹です。




