私の手作りに貪欲な兄
「そうそう!今日はね、リリア嬢にお願いがあって来たんだよ。」
チョコレートサラミを綺麗に食べ終えると、紅茶を飲みながら再び会話を再開する。
その所作はやはり王族…とても美しい。
「毎春、孤児院でチャリティーバザーが行われるんだけどリリア嬢にも何か出してもらえないかと思って。」
「チャリティーバザー…ですか?」
学園の生徒会では毎年行われるチャリティーバザーを手伝っているそうで、事前に出品できそうな方に声をかけているそうだ。
お菓子作りが趣味となってる私に目をつけていたらしい。
「簡単な焼き菓子で良ければ、ご用意出来ます。個数はどれくらいでしょうか?」
孤児院のためのバザーであれば、私としても勿論参加したい。
リオンも頷きながら「リリアのお手伝いするからね?」と私に声をかけてくれた。
「そうだな、50個ほどあれば良いと思うが…それ以上でも大丈夫だよ。残ったら僕達で美味しく頂くからね。」
それくらいならばと了承すれば、クロード殿下もお兄様もどこかホッとした顔になった。
断られると思ったのかな?
「ありがとう、リリア。今…次の生徒会の子達を新たに選出したりで忙しくて、チャリティーバザーの方に手が回らなくて。」
「来年は今の二年生が生徒会になるが…その次の年は君達が生徒会をやるかい?」
どうやら、最近お兄様が遅くに帰宅していたのは次の生徒会の事で悩んでいたからのようだ。
最高学年が務める事になる生徒会は…基本的には優秀な高位貴族が選ばれる。
私達の学年にはジュード殿下と取り巻き達がきっとやってくれるだろう!
「折角ですが、学業が忙しく手が回らないので遠慮させて頂きます。」
そう私が答えるとリオンは意外そうに首を傾げテレパシーで『断っちゃうの?』と聞いて来た。
『朝から鍛錬して、学園で特進クラス…それに放課後まで生徒会ってなると遊べないしお菓子作れないけど良いの?』
『あ、それはダメだね。』
これ以上に忙しくなるとお菓子作りも出来なくなると伝えれば、あっさりと納得したようだ。
私の横でウンウンと頷くリオン。
それを見たクロード殿下とお兄様は苦笑いを浮かべていた。
「私達の学年にはジュード殿下がおりますので、適任だと思いますが?」
「…適任だと思える事に僕は吃驚だよ。」
私がジュード殿下を推せば、クロード殿下は首を振る。
自身の弟を…もっと信頼すべきだと思うぞ?
私は無理だけど。
「まあ、このまま行けばジュードになるだろうし。他の子を推したらジュードも怒るだろうな。」
如何にも面倒臭そうに言うクロード殿下に今度は私とリオンとお兄様が苦笑した。
「先ほどのチャリティーバザーの出品ですが、生徒以外でも可能ですか?」
再び紅茶を味わいながら、リオンが思い出したかのようにクロード殿下とお兄様に話しかける。
クロード殿下とお兄様は互いに顔を見合わせて、頷いた。
「誰でも可能だが、出品物はどれも事前に確認するけど構わないかい?」
「はい、大丈夫だと思います。本人に聞いてみて良ければ出品させて下さい。」
クロード殿下の答えに、リオンは満足そうに頷いたが…何か当てがあるのだろうか?
「因みにどんな物なんだい?」
クロード殿下は興味深そうにリオンに問うと、リオンは胸ポケットから一枚のハンカチを取り出した。
それを広げてクロード殿下とお兄様に見えるようにすると、二人はハンカチに顔を寄せて頷く。
「見事な刺繍だね、とても綺麗で上品だ。」
クロード殿下が関心しリオンからハンカチを受け取り刺繍をマジマジと見ていた。
お兄様も刺繍の出来栄えに驚きつつも笑顔で「良いと思うよ。」と答えている。
…そう、リナリアが刺繍したハンカチだ。
私も持っているので思わず開いて見ていれば、私の方も気になったのか顔を上げた。
「二人の知り合い…って事なのかな?」
お兄様は不思議そうにハンカチを見て質問して来たので、私とリオンは顔を見合わせる。
先程の会話からリオンはリナリアの作品だという事を話す気はないのだなと感じた。
「「はい。」」
私とリオンは…これ以上の詮索はしないでね?と言う意味を込めてニッコリと微笑んだ。
そして話を終えると少しだけ雑談し、クロード殿下は帰って行った。
王家の馬車を見送りながら、お兄様は先程のハンカチの製作者を再び聞いて来たので私とリオンは「もう少しの間、秘密です。」と答える。
「もう少し…いつかは教えてくれるって事なの?」
「うーん…教えるより先にお兄様は気づくかもしれないし。」
「もしくは本人がバラすかもしれません。」
後者は無いかなとは思うけども…もしかしたら、リナリアがお兄様のために何かを刺繍するかもしれない。
二人の仲は未だに拗れたままなので、いつの日か修復出来たらと思う。
「ところで…リリア?」
「はい?」
お兄様は私の目線に合わすように屈むと、それは良い笑顔で私を見た…これヤバいやつだ。
一歩だけ後退ると、お兄様は私の両肩をガッシリと掴む。
「僕、あのチョコレートを今日初めて見たんだけど?」
「………そう…でしょうね…。」
互いにニコニコと微笑んでいるが、私の方は冷や汗が止まらない。
何故、私専用のチョコレートでこんなにも詰め寄られているのだろうか?
そもそも、私専用だったのに…皆んなに取られてしまったが…。
「また…何かお作りしましょうか?」
私は耐え切れず、何とかそれだけ言葉にすれば…お兄様はパァァと明るい笑みに変えて「うん。」と頷き…邸へと戻って行ってしまった。
食べ物の事になると、人間が変わりすぎでは無いだろうか?
私がそんな事を思って口にすれば、リオンは左右へと首を振る。
「リリアが作る物だから人が変わったように貪欲になるんだよ?」
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気がついたら100話超えてました!!
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