エピソード0
ーーーーーオステリア王国
緑豊かな自然に囲まれ、北西には聳え立つ山脈
南方には青く輝く海がある。
王国の中心に王都があり、王都を囲むように貴族が治める領地がある。
その最も広く、そして土地にも恵まれているのが我が公爵家が治める領地である
「リオン、リリア、我が公爵家が誇る温泉はどうだったかな?」
領地の北西に位置する山の麓を馬車はゆっくりと進む。
隠居した祖父母と双子の兄リオンと共に領地を巡り、今は邸へと向かう途中である。
「お祖父様、とても気持ちの良い温泉でした。お祖母様と一緒に入れて嬉しかったですわ。」
私は気持ちいい温泉を思い出しながら祖父母へと答えた。
「そうか、そうか。また行こう」
「私もリリアと温泉に入れて嬉しかったわよ」
お祖父様とお祖母様はにっこりと微笑み返してくれる。
「お祖父様、ボクもまた行きたいです。」
私の隣に座るリオンも笑顔で祖父母に答えた。
双子の兄のリオンも温泉の余韻なのか、ほんのりと頰が赤い。
ほっこりとした空気が馬車内に流れていた
暫く馬車に揺られながら、会話を楽しんでいると…
ーーーーーそれは突然に起こった。
馬の嘶きが聞こえたかと思うと馬車がすごい勢いで傾いた。
思わずリオンにしがみつくが、揺れは続いている。
「どうしたと言うのだ!」
お祖父様が御者へと声をかけるも反応はない
慌てて御者台を覗くと、御者が血を流していた。
お祖父様は馬車から御者台に乗り移ると馬を落ち着かせるように試みる。
しかし馬は興奮し暴れ、終いには崖の方へと突き進んで行った。
「リオン、リリア!体を屈めて何かに掴まるんだ!」
ガタガタと揺さぶられ、馬車は崖を転がり落ちていく。
手摺にしがみついたが6歳という幼い体では揺れる度に体が浮き上がりそうになる。
反対の手でリオンの手を掴むと、リオンも力強く握り返した。
恐怖と助かって欲しいという願いが交差し、目蓋をきつく閉じる
その瞬間、馬車を取り囲むように何色かの淡い光に包まれた
それまで転がり落ちるように走っていた馬車は静かに崖下に着地し、動きを止めた。
激しい揺れに多少の擦り傷はあったが、それだけで済んだらしい。
御者台のお祖父様も外に投げ出される事もなく不思議な光景に吃驚し、慌てて馬車内へ声をかけた
「無事か!アリア、リオン、リリア!」
お祖父様に馬車から引きずられるように降ろされた面々は、顔色が悪いものの何とか意識があった。
…ただ1人を除いては…