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ダマしてくれてありがとう

 誠司には蓮花の連絡先を教えてアパートヘ送り届け、圭吾は蓮花と自宅で夕食を食べていた。

 テイクアウトの和食屋の弁当と煎茶。

 半分くらいまで無言で食べ進め、圭吾は蓮花に質問する。


「さっきの電話の相手は、お姉さんか?」

「うん。プロの殺し屋に狙われて、さすがに家族に相談無しは無理だと思ったから。姉が経営するエステサロンには色々人が来るみたいで、姉には謎人脈があるんだ。だから、本当に困った時に頼ると大抵の事は迅速に解決してくれる。代わりに頼まれた時にはボディガードをしてる」


 とても静かな表情で、淀みなく答える蓮花を少し遠く感じて、圭吾は質問を重ねた。


「遠藤電機を追い込んだのも、お姉さん?」

「姉の人脈かな。殺し屋の依頼主が遠藤電機の社長だったから、多分、もののついで。圭吾も調査してたのに無駄にさせたな。ごめん」

「構わない。早期解決に至り助かった」


 弁当を食べ終え、箸を置いて、蓮花は頭を下げる。


「圭吾を騙していた。魅力的な報酬に目が眩んで、途中から今回みたいな許嫁には強制力は無いのに気付いてたのに言わなかった。圭吾は長いこと苦しんでたのに私は最低だ。でも、どうしてもあの許嫁を叩きのめしてやりたかった気持ちもあった。身勝手でごめんなさい」


 蓮花の向かいに座っていた圭吾は、立ち上がると彼女の隣に移動して、ゆっくり座った。

 下げたままの蓮花の頭を、そっと撫でる。


「先に信じられないほど身勝手で非常識なことをお前にしたのは俺だ。お前は、そんな俺を許して傍にいて救ってくれた。すぐに正解を教えてお前が離れて行っていたら、俺はこんな風に救われていない。だから、蓮花。俺をダマしてくれてありがとう」


 頭を上げた蓮花の目の前に、見知らぬくらい穏やかに微笑む圭吾が居た。


「なぁ、蓮花。あの許嫁との縁は切れて契約は終了だ。俺はもう、お前を恋人として見てはいけないのか?」

「圭吾は、どうしたい?」

「俺は蓮花と、結婚を前提とした恋人になりたい」

「うん。私も。私の傍で圭吾が笑ってるの、好きだ」

「俺を幸せにしてくれるか?」

「任された!」


 声を上げて笑い合い、抱きしめ合った時、訪問を知らせるチャイムがけたたましく鳴った。

 眉を寄せて訝しげに玄関ホールを映すモニターを覗き、圭吾は舌打ちする。


「俺の両親だ」

「へぇ。ちょうどいいや。宣戦布告するから入ってもらおう」


 ニヤリ。顔を見合わせ黒く笑い、圭吾は解錠のボタンを押した。



 圭吾の両親は、一言で表せばカネのかかった外見をしていた。

 母親の顔は確かに圭吾と似ていたが、目の卑しさと口許のだらしなさで印象が息子と真逆だ。

 父親は三年前まで蓮花も社内で見たことがあるが、現役を退き遊興三昧なのか、理知的な雰囲気が微塵も感じられない。


「いやぁ、安倍さんが、あの安倍総合病院のお嬢さんだったなんて知らなかったよ。言ってくれたらもっと早くに愚息と引き合わせたのに」

「まぁまぁまぁ! 美人でスタイルのいいお嬢さんだこと! 遠藤の娘とは大違いだわ! うちの息子と本当にお似合い!」


 うんざりした感情を隠さない自分達の息子が見えていないはずは無いのに、この人達には金蔓になりそうな資産家の娘と縁を繋ぐ道具としてしか圭吾は認識されていない。

 道具だから、表情なんか見ない。道具だから、感情なんて気にしない。


「初めまして。安倍蓮花です。圭吾さんのご両親にお会いできて嬉しいです」


 ここまでは良家のお嬢様らしく述べ、蓮花はガラリと雰囲気を変え、好戦的に唇を歪めた。


「会ってみたら、情けをかける必要の無い毒親だとわかったからな。今後、圭吾の個人資産や会社の経営に手を出せると思うな。当然、圭吾の生き方にも口は出させない。圭吾は私の婚約者だ。バックに私の実家が付く。それを圭吾の親だからと貴様等が頼れると思うな。私は圭吾を守る。圭吾の人生を邪魔するなら、私に全力で潰されると思え」


 一気に言い切り、面白そうに頬を緩めている圭吾にお願いする。


「言いたいことは言ったから、叩き出してくれる? 二度と会いたくないな」

「気が合うな。俺もだ」


 唖然とする両親が正気に戻る前に、圭吾は文字通り彼らを叩き出した。部屋の玄関の外に放り出して鍵をかけ、フロントに電話をかけて警備スタッフに道路まで摘み出してもらった。


「ふ、ふふっ、はははっ」


 圭吾の腹の底から笑いが込み上げる。こんなに笑うのは生まれて初めてだ。笑って笑って笑い過ぎて涙が止まらない。


「圭吾は泣き虫だよな」

「蓮花の前でしか泣けないからな」

「そうか。なら、また下らないゴミを心に溜めたら私が泣かせてやる」


 偉そうに鼻を膨らませる蓮花が堪らなく愛しくて、圭吾は初めて手に入れた両想いの恋人を抱きしめ、涙が枯れるまで泣いた。

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