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女は怖い

「私は自分でやりたいゲームを商品化するのが夢だ。もうシステムは出来てるしテストも終わってる。ただ、実際に流通させた後のメンテナンスやシナリオ追加やアップデートなどのための運営資金が不足している」


 蓮花は自分のスマホの中のデモデータを圭吾に見せながら説明する。

 美麗で精緻なCGに見入り、様々な操作をしてみて圭吾は感嘆の声をあげた。


「よくこのレベルのものを個人で作れたな」

「余暇も給料もほぼ注ぎ込んだからな」


 ドヤ顔の蓮花が、高給取りなはずなのにいつも量販店の服しか着ない理由を知り、圭吾は少し遠くを見る。


「しかし、デモキャラも暗殺者か。どれだけ好きなんだ」

「プレイヤーキャラクターの職は暗殺者しか無い」

「は? 何需要だ?」

「私のように全年齢向けゲームで暗殺者をやって、腑に落ちないシチュエーションに不満が積もり積もった人間需要だ。当然それは成人向けゲームとして世に出す」


 またもドヤ顔。言われてみれば納得は出来る。

 悪人しか暗殺しないとか、暗殺対象と恋に落ちて見逃すとか、仕事の度に罪悪感に苦しむとか。大抵の世界背景と合わないご都合主義だ。


「勝算はある。出資して損はさせない」

「俺が運営資金を出資した場合、安倍さんは会社を辞めるのか?」

「辞める。元々、このゲームを作るために働いてただけだ」


 圭吾は素早く計算し、この技術者を逃がすのは大損だと答えを出した。


「俺と許嫁との縁が完全に切れるように、どんなことでも協力して結果を出すなら。

 うちにゲーム開発部を立ち上げて安倍さんを主任にする。開発とテストまでの報酬は別に払うし、スタッフの人選も任せる。そのゲームは我が社から出して、運営に必要な予算をその都度要求すればいい」


 蓮花は素早く計算し、カネと人と後ろ盾が手に入るなら、別に何をやらされてもいいかと答えを出した。


「一筆書いてもらおう」

「いいだろう」


 机の前に座り、圭吾は必要事項を盛り込んだ契約書を作成すると、ソファでスマホを弄る蓮花に差し出した。

 内容を確認し、蓮花もサインした後で写しを受け取る。


「契約成立だな」


 ガッチリ握手をする二人。互いに互いを利用する気満々である。


「で? 具体的に私はまず何をすればいいんだ?」

「そうだな。親からの質問内容について俺達の認識がずれているとマズイ。この手紙を読め」


 圭吾は今朝届いた細かい「圭吾の恋人ヘ」の質問事項が羅列された手紙を渡す。

 見合いの釣書にするつもりかと言うような内容に、スラスラ答えていく蓮花のプロフィールは、望まない結婚回避の協力者として想像以上に素晴らしかった。


 総合病院を経営する両親と3歳上の兄は医師。家族全員健康状態は良好で大病の病歴、遺伝性疾患無し。

 本人は、高校まで堅実な進学校を出て国立の難関大学を卒業。ローンも含め借金無し。大学生の頃から一人暮らしで家事も節約も苦にならない。マイカーは持たないが、運転免許証を見ると全車種運転可能らしい。暗殺に必要だからだろうか。ゴールド免許だ。経験した習い事はピアノと水泳。学生時代の所属サークルは英語部。婚歴無し。妊娠経験無し。過去の交際歴は大学生の頃に同じサークルの同期生が一人だけで、卒業後相手が地元に帰り自然消滅。既にその彼は妻子持ち。

 2歳上に海外留学を経て現在エステサロンを経営している姉。3歳下にお嬢様学校を卒業して大企業で働いている妹がいる。

 兄姉妹本人、浪人留年経験無し。

 家族、親族に経済的困窮者も犯罪歴のある人物も無し。


 コレ、俺の方が釣合わないような上玉じゃないか?

 圭吾はメモを取りながら背中がしっとりしてくるのを感じる。


「必要ならプロに裏を取らせてもいい。嘘は一つもついてない」


 蓮花に言われて頷くと、手紙には書いていない気になることを圭吾は訊いた。


「今現在、交際中の相手はいないんだな?」

「データ採取のために寝る相手はいるが、交際相手はいない」

「データ採取?」

「色仕掛けで暗殺する場合に可能なシチュエーションの推察と確認、アクションのデータ」


 行動の根底には全て暗殺があるんだな。

 今度は完全に遠い目になり圭吾は思った。


「問題の起きない相手だろうな」

「あくまでビジネスライクな関係で、自分自身にしか興味の無いナルシストで恋人もいない独身だ」


 類は友を呼ぶのか、周囲の人間も個性が強そうだと内心呟きつつ、圭吾は要求だけ言葉にする。


「無事に許嫁と縁が切れるまで、俺の恋人をやってもらうから他の男とは会うな。隙きを突かれるのは避けたい」

「わかった。どうせシナリオ追加までは次のデータは必要無いから構わない」

「明日の終業後、それらしいデートをする。俺の連絡先を登録しておけ。それから、二人の時は名前で呼ぶ。人前では普段通り猫を被れ」


 出された指示に頷いてスマホを操作すると、蓮花はスッと姿勢を正し涼やかに微笑んで言った。


「はい。よろしくお願いします。圭吾さん」


 女は怖い。圭吾は引きつりそうな顔を無理矢理笑顔に変えて、どうにかいつもの声を出した。


「よろしく。蓮花」

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