きうりのあさきにゆめみしはみよくのささざりしきなるや
「おう、もんさん! 今日も良いの揃ってるよ!」
「吉の助さん。今日はきゅうり、あるかな?」
夏空の暑き沈下すなる陽のかげろうに揺れる江戸において、八百屋に赴いた一の輔様。おうよと威勢かわす吉の助主人のところよろしく、奥へと込みなさる。
「きゅうりは今年あんまりよくなくてねえ。でも、あんたならなんかしてくれそうだから、市場分はあんたにやっちゃう! ーーほい、これにね」
「ありがとう。夏にきゅうりの冷たきがないのはつらいことだからな。まだ初夏、やれることをしてみよう」
代を払い、包みにきうりひと抱えを被し、体をばさし挟み背に負うと、一の輔様、足早に去っていったのでした。
屋敷に戻ると、一の輔様は裏手に回る小道をありけらりて、ある建間の前に立つ。
ここはいわゆる一の輔様の作務部屋にあることにて、おほくのおつけものが浸かりの浅き長きをふるへているところで、一の輔様は掻い紐を横して袖をたたむと、おつけものの御仕込みをせむとすることなのでした。
「さあ。まずは廻をつくろうか」
井戸に桶を落とし、水を汲み、こじんまりとした樽に、半に届くか届かないかまで張る。
「この冷たいところに、昆布、ひとひら」
昆布を一長の半ほど入れ、次に取り出したのは、塩と唐のからしの中当たり。
「伊勢の畑塩は、冷たくとも溶ける」
この塩をはばらと回し入れ、左手で、さつと掻いたあとに溶せしものを味を見る。
「うん、いいな。あとは、台に、乗せて」
頷きしところに、何者かの姿が作務部屋の入り口に立つ。一の輔様、それを見やる。
「もんさん。手ぬぐい、いるでしょ?」
「お香さん。ありがとう。助かるよ」
一旦手を拭いた一の輔様、笑みをやんわりと浮かべて手巾を返されると、立ち上がり、台の前に立ち、包みを開きてきうりをながまなの上に並べる。
「さあ。これを今から塩もみするぞ。お香さん、そこの桶とそこので、もんだやつを洗って置いていってください」
「もんさんったら、仕方ない。わかりました。またおつけもの、分けてくださいね?」
「わかっているよ。じゃあ、始めよう」
塩もたけなわ、作務も経て。はたらく身にも、汗シが滲む。胡瓜転回後前擦塗。
塩クのしみなるところもありてむ、修業のことにぞありなつる。水行のかからる気付ケのことなる、ぱはりと張りなむ肌の着せ。はたらく身なるの御威勢かな。
「ふう。出来たな。これを廻に漬け込む」
「きゅうりにしても何にせよ、大変ね」
修業のあとなる水浴の、清水溜めなるいづみに遊ばん、うをのごとしとありなんや。並びて浸かりん、つめきたけりぬ水の端を、岩魚があかく泳がりし。きぬもひろまぬありをりし。この時とよにか、おわらざりきの押し番を、タして乗せしは日々なるよろこびをばありさめんとす。
「出来た! 明日来てください。分けるよ」