表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/19

今度こそ、熊谷浩介(30歳 独身)の新魔法

「おいナミトー」



 昼飯を食い終わり、二人と一羽でくつろぐ。

 おっさん、もとい浩介が気色の悪い泣き顔で擦り寄ってくる。



「早く新しい魔法覚えないと晩飯に間に合わないよー」



 そうだった。今日は浩介の魔法を考えるんだった。



「何か考えたか?」

「いや、なにも思いつかねえ。なんか初級の、簡単な、理屈も分かりやすいのはないか?」



 確かに最初は簡単なものがいいかもしれない。



「なんの話をしているんです?」



 今日の昼に仲間になったラフが尋ねてきた。



「ん?この浩介の新しい魔法を作ってやろうと思ってな?」

「新しい魔法?なにを言ってるんです?そんなことできるわけが……」

「何故そう思うんだ?」

「そんなこと神様が許可なさらないからです」



 神様?宗教か何かの勧誘か?生憎と俺はそんな物に興味はない。



「火の魔法なら火の神様のマズラ様から許可の出された魔法しか人間には使えません」



 ラフの話によると他にも、木や土、金、水、時空、光を司る神がいて、それぞれ魔法を使う許可を原初の時代に人間に下したのだそうだ。

 宗教というより、伝説に近いかもしれない。



「属性みたいなもんか。"闇"はないのか?属性としては定番だと思うけど」

「闇?!何を言ってるんです?神様の加護にそんな禍々しそうなものあるわけないじゃないですか!」



 むう……そうか。かっこいいと思うけどな、闇。中二病くさいけど。



「とにかく、自分で魔法を作るなんて非常識すぎます」

「とはいえ、できてしまうのだからしょうがない」



 そうだなあ、物を動かすだけなら簡単だから……。



「こんなのはどうだ?浩介」



 石を拾って、指に乗せる。

 ファイアー・ボールを飛ばす要領で打ち出す。なるべく速く。



 ズゴオオォォォオオオオ!!!!



 思ったより凄い威力だ。これなら狩にも使えるだろう。

 溶けて形が変わった石が、木の幹を貫通している。



「また大層な技作りやがって……」

「何言ってんだ浩介?お前が使うように作った魔法だぞ」

「え……」

「本当に魔法を作ってしまいました……もう意味が解りません」



 浩介にこの魔法をレクチャーするのがしばらくの課題になりそうだ。



「ところでラフ」

「何でしょう?」

「ファイアー・ボールのコピーはできているのか?」

「いいえ。私はこの身で受けた魔法しかコピーできません。あんな魔法を受けたらコピーする前に滅んでしまいます」

「なるほど、だから静電気の魔法と風の壁だけ使えたのか」

「はい。もしかしてあの魔法も自作のものですか?」

「ああ。俺の使う魔法はほぼすべて自分で作ったものだ」

「そうなんですか……街に出たら、隠した方がいいですよ。神に愛されすぎた者もやはり迫害の対象になり得ますからね」

「そうか。メンドくさいな、宗教は」

「ナミト様は神様を信じないのですか?」

「いや、信じないというより、何とも言えない、だな。いるのかもしれないし、いないのかもしれない。よく分からない」



 日本なら、『神様なんていない』と切り捨てられただろう。でもここは魔法のある世界だ。神様ぐらいいても不思議じゃない。

 もしかしたら、大昔の人も同じように考えていたのかもしれない。

 雷なんて人知を超えた現象が起きるのだから、人よりもすごい神様がいるに違いない、とか。



「おーい、小難しい話をしてないで俺が魔法覚えるの手伝ってくれ」



 浩介が喚いている。



「小石を魔法で動かすだけじゃないか。何がわかんないんだ?」

「それだよ、何簡単に言ってんだ。お前地球人のくせに魔法使いこなしすぎだろう」

「ファイアー・ボールの火の玉は動かせるんだろう?それを小石でやればいいだけだ」

「よし、この小石を火の玉だと思えばいいんだな?」



 再び浩介はうんうん唸り始めた。



 ……コト



 お?少し動いたかな?

 やっぱり浩介はセンスがあるのかもしれない。ファイアー・ボールを実戦で使えるようになったのも、俺が予想していたより早いし。



 そろそろそろ…………ポト



 小石はゆっくりと空を進み、木の幹にぶつかり、落ちた。



「……こんなの攻撃にならないだろっ!!」



 浩介が絶叫する。



「投げた方が速えよ、投げた方が!」



 そういうと小石を振りかぶって……投げた?!

 想像以上に速い。プロ野球選手顔負けの速さだ。

 むしろ浩介のほうが速いかもしれない。

 どうやって投げたんだ?



「すごい、コウスケ様は身体強化の術を使えるんですね」

「身体強化?」



 大体分かる気がするけど、一応疑問形にしておく。



「はい。自身の体に魔法をかけて身体能力を底上げする術です」

「おお、浩介、良かったな。魔法使えたじゃないか。どうやってやったんだ?」

「ええっと、めちゃめちゃ速く小石を投げたいと思ったら、できた」

「身体強化を使える人はあまり多くないですよ。自慢になります」

「だそうだ。俺も浩介に魔法を教えるのが面倒になってきたし、そっちを極めろよ」

「面倒……だったのか……。んん?なんか腕がだるいぞ?」

「身体強化のリバウンドですね。休めば治りますよ」

「体に無理させた代償ってことだな?」

「ご名答です、ナミト様」



 それから二三日の間、浩介は身体強化の練習をしていた。

 ラフは時々、俺が考える魔法の実験台になってもらった。(もちろん本人同意のうえで)

 俺たちの移動速度は若干上がった。浩介が身体強化で、かなりの速さで走れるようになったのだ。

 ラフは空を飛び、俺は空中を滑り、浩介は陸を走り、森を突っ切る。



 ……いつの間にか浩介がムキムキになっている。

 本人曰く、身体強化によって超回復の速度を上げ、効率的に筋トレをしているそうだ。

 ラフの魔法のレパートリーも200近く増えた。つまり、俺の魔法のレパートリーも200ほど増えた。

 もともと俺一人で狩をしていたのが、一気に戦力三倍以上だ。飯もだいぶ豪勢になった。





「そろそろ森を抜けますが」



 ある日の晩飯に、ラフが切り出した。



「街に出て何をするのか決めていますか?」

「そうだな……特に決めていないが。逃げようと言ったのは浩介だろう?何か考えはあるのか?」

「いや、特にねえけど……異世界と言ったら冒険者だろ」

「なら、冒険者ギルドに行く必要がありますね。それに装備もそろえませんと。ナミト様は軍服ですからまだ大丈夫ですが、コウスケ様の格好はちょっと……」



 軍服?ああ、学ランのことか。



「でもよ、俺たち文無しだぜ。先に簡単なクエストこなしてからにしようぜ、そういうの考えるの」

「そうですね。お二人がいれば簡単なクエストなら丸腰で達成できそうですね」





 森を抜けたのは、そんな話をした翌日だった。

 久しぶりに耳にする喧噪。東京ほどではないが、都会、という感じのする地だ。



「冒険者になるお二人にはちょうどいい場所に出ましたね。ギルド都市・ベルガルです」

「ベルガル?」

「ええ。冒険者ギルドや商業ギルドなど様々なギルドによって自治される独立民主都市です」



 たしかにギルドが治める都市なら動きやすいかもしれない。独立、ということはリザニマ王国の目からも逃れられるだろう。



「冒険者ギルドは確か……」

「こっちだよ」



 みると、浩介と同じくらいの年齢の男が手招きをしている。



「喋る鳥なんて珍しいね。君の使い魔かい?」

「えっと……使い魔?」

「は、はい!私はナミト様の使い魔です!」

「?どうしたんだ、急に」

「……この人、冒険者ですよ。野生の魔物だと知られたら殺されてしまうかもしれません。私の家族にも素材集めの為、と殺された者がいます」

「そうか」

「できればギルドについたら正式に使い魔に登録してほしいです」

「分かった」



「ついたよ」



 中年の男性に連れてこられたのは、3階建ての結構大きな建物だった。



「受付は1階だ。何かあればそこのお姉さんに聞けばいい」

「「「ありがとうございました」」」



 3人揃って礼を言うと、男性は手を振りながら中に入っていった。

 浩介がまじまじと俺を見てくる。



「なんだ?」

「いや、お前が敬語使ってるの久しぶりに見たなと思って」

「失礼だな。俺だって場をわきまえるよ」

「と言ってもなあ、初期の頃のお前と比べるとびっくりするほどの変わりようだぞ?」

「こっちが素だ」



 そんなことはどうでもいい。

 俺はギルドに踏み込む。

 受付……あそこか。



「冒険者の登録をしたいのだが」

「新規の方ですね?こちらの書類に必要事項を記入して持ってきてください」

「……字が読めそうにないのだけど」

「ではこちらで記入しますので質問に答えてください」

「わかった。それからこいつを使い魔に登録したいのだが」

「はい、ではそれもこちらで済ませてしまいますね」

「助かる」

「お願いします」



 受付嬢は手際よく2人分の書類を作ってくれた。



「ギルド証にはカード型、腕輪型とありますが、いかがいたしましょう?」

「へえ、そんな物があるのか。じゃ、俺は腕輪型で。落としにくそうだし」

「じゃ、俺も」

「それではこちらになります」



 差し出されたのは真っ黒な腕輪だった。腕時計なら文字盤があるところに液晶のようなものがはまっている。真っ黒な中、その液晶だけが紫に縁取られている。



「それが皆さんの身分証明書になります。今はFランクなので紫ですが、これからランクが上がると色も変わっていきます」

「ランク?」

「クエスト受注の目安です。自分のランクより一つ上のクエストまで受けることができますよ。クエストを失敗すると違約金が発生しますのでご注意ください」

「わかった。さっそくクエストを受けたいのだが」

「クエストはあちらの掲示板で確認できます。受けたいクエストがあれば貼り紙を剥がして受付までお持ちください」

「字が読めないのだけど」

「ギルド証をかざすと読めなくても理解できるはずです」



 ……本当だ。F、Eランクのクエストは街の人の手伝いや採取が多いな。退屈そうだ。

 人魔大戦への出兵、なんてのもある。俺たちが召喚された原因の戦争だ。

 俺が敵味方問わずぶっ飛ばしてやったが、まだ続いていたのか。



 1番稼ぎがいいのは……おお、定番だな。



【ゴブリンの群れの討伐(Eランク)】


 ホブ・ゴブリンが率いる20頭前後のゴブリンの群れが確認された。あまり危険はないが、念の為早急に討伐してほしい。


 依頼金 5万R

 違約金 2万R

R……お金の単位です

1円=1Rぐらいです

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ