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熊谷浩介(30歳 独身)の新魔法

「ファイアー・ボール!!」



 森の中、力の限り叫んだ詠唱が木霊する。



「チチッ、チ、チ、……」



 火の玉に捕らえられた、ウサギのような動物が可愛らしい鳴き声をあげながら転げ回る。



「……死に際の叫びを"可愛らしい"ってどうなんだよ?」



 ……ファイアー・ボールを放った張本人のおっさんが何か言ってる。



「チィィィィイイイッ」



 やがてウサギは今まで以上の叫びをあげながら力尽きた。



「よオッ…………しゃああああああーー!!初めての獲物、ゲットだぜ!」

「26回目で成功か。意外と早かったなあ。」



 俺たちがこの森に入って4日。おっさんが初めて魔法で狩りを成功させた。



「思っていたより早いぞ、よくやったじゃないか、おっさん」

「こちらから頼んだとはいえやっぱりムカつくな、その喋り方」



 おっさんに魔法を本格的に教えると決めたとき、俺は敬語を使うのをやめた。

 おっさんが、「俺は人生の先輩かもしれないが魔法に関してはナミトが先輩だから同格として扱ってくれ」と言ったからだ。



「でもな、"おっさん"はやめてくれ、まだ30なんだ」

「30なんておっさんだろ?……それにおっさんの本名ってなんだっけ?」

「おい?!」



 そうなのだ。ずっとおっさんと呼んでいて、本名を忘れてしまった。

 そもそも、俺はおっさんの本名を知っているのだろうか?



「はあ。ったく、熊谷浩介だよ、頼むから覚えてくれよ?」

「……ん、まあ、できればな?そんなことよりおっさん、早くこのウサギ、調理するぞ」

「……そんなことより……俺の名前は"そんなこと"だったのか……」



 森で暮した四日間、危険な魔物に遭遇したりすることもなく、順調に歩を進めることができている。



 1日進んだら、近くの木に登って目印をつける。

 その時に、真っ直ぐ進んでいることを確認している。



「このウサギは……シチューにでもするか」

「おお、それはいい」



 この四日間で分かったこと。このおっさん、料理ができる。

 召喚される前は居酒屋を経営していたらしい。ジビエのまねごともしていたそうで、狩ったばかりの動物も問題なく捌いてくれる。



「……これがシチュー?」

「……よく考えたら材料が全然なかった」



 ウサギはシチューではなく蒸し焼きになった。

 独特の香りのする木の葉に、甘酸っぱい果物と一緒に包まれている。

 辺りに食欲をそそる湯気がたちこめる。



 めっちゃ美味そうだ。……しかし惜しむらくは俺の口の中が完全にシチューを受け入れる状態になっていたことだ。

 逃がした魚は大きい。シチューを食べたかった。



 ……ま、いいか。



「それでは、俺の初・獲物ゲットを祝って…………」

「「いただきます‼」」



 うん、美味い。木の実の甘酸っぱさが、肉に良い味を付けている。

 肉も多少筋張っているが、柔らかい。噛んだ時に肉汁があふれる。



「なあ、どうだった?俺のファイアー・ボール」

「ん?ああ、威力は申し分なかったぞ。ただな、詠唱の声が大きすぎる」

「でも、威力を上げたいんだよ」

「詠唱の声量と威力は関係ないぞ?あんな大きな声を出したら獲物に逃げられる」

「そうか……」

「次の狩りからは詠唱を禁止しよう」



 大切なのは想像することだ。炭素を集めて、火をつける。

 威力を上げたいなら、燃焼させる炭素の量を増やす。簡単な話だ。

 この世界の科学レベルは分からないが、地球人には使いやすい魔法なのではないか。

 ちなみに、調理器具や水は俺の魔法で用意した。



「詠唱は禁止、なんて言ってもなぁ」

「そもそもファイアー・ボールを禁止するぞ。一辺倒すぎてつまらん」

「おいおい、俺はファイアー・ボール以外の魔法を知らないぞ?」

「自分で作ればいいだろ?俺だってこの世界の既存の魔法はファイアー・ボールとサーヴァント・チェーン以外知らない」

「ううん……電撃とかどうだろう」

「電撃……使えたら超カッコイイな」



 電撃が使えたらテンションが上がるな。

 大体の仕組みは考えてみたけど……あそこにいる鳥さんに向かって撃ってみよう。

 俺は木に止まっていた、赤と青のオウムのような鳥に向けて魔法を放った。



「クワ?」



 ……何も起きなかった。

 強いて言うなら、鳥の羽毛が逆立ったぐらいか。静電気を帯びたのかもしれない。



「クワカカカカ!クワカカカ!」



 笑われている気がする。なんかむかつく。

 よし、あいつには次の晩御飯になってもらおう。



「……ファイアー・ボール」

「クワアアアアアッ!」



 なに⁈避けられただと?

 他の魔法も試してみよう。

 例えば、風の壁はどうだろう。鳥が飛んでいる進行方向に空気で壁を構築する。



 ガツンッ‼

「クワッ⁈」



 今度はうまくいった。鳥が空気の壁にぶつかって落ちてくる。

 偶然だったのか。

 ともかく、今日の晩飯も手に入った。鳥の丸焼きだろうか。豪勢だなあ。



「おいナミト、何してるんだ?」

「美味そうな鳥が手に入ったからな、今日は鳥の丸焼きが食べたい」

「ん……別にいいけどな、そいつまだ生きてるぞ?」

「クワッ‼」

「何⁈」



 まさかもう復活するとは……。殺せたとは思っていなかったが、気絶ぐらいはしていると思っていた。



「クワッ‼クァクァ‼クワァー‼」



 まるで抗議するかのように喚きながら俺の周りを飛びまわる。



 ……うぜえ。無視しよう。



「あ、そうだ。おっさん」

「クワッ」

「だぁかぁらぁ‼浩介だ。熊谷浩介」

「クァクァッ」

「ん、じゃあ浩介。電撃、あまり使えなさそうだったぞ。せいぜい静電気が起きたぐらいだ」

「クァ―クワッ」

「そうか……使えたらカッコイイと思ったんだけどな」

「クェ‼」



 ああ、もう、うるさい!さっさとどっか行け!



「クエ!」

 ふゎ……



 この鳥、何者だ?完全に俺がさっき使った、"静電気を起こす魔法"をコピーしやがった。



「クワカカカカカ!クワカカカカカカ!」



 また笑っている。



「てめ、どうやってやった?!」



 とっちめてやる。著作権の侵害だ!



 ガンッ‼



 痛ってぇ……風の壁までコピーされている。

 魔法のコピー。この鳥独自の能力だろうか。

 て、やばいぞ。ファイアー・ボールをコピーされたらさすがに厳しい。

 なんだかんだで今俺が使える最強の魔法はファイアー・ボールなんだから。



 魔法を使わず仕留める。これはなかなか厳しい。最近はサバイバルをしているとはいえ、元は日本という温室でぬくぬくと育ってきたのだから。



 手ごろな大きさの石を拾う。振りかぶって、投げる!あっさりと避けられる。

 避けるときの鳥のドヤ顔がうぜえ。

 投げる。ドヤ顔をされる。投げる。ドヤ顔をされる。投げる。ドヤ顔をされる。投げる。ドヤ顔をされる。



 そろそろ決着を付けよう。

 投げる。ドヤ顔を……させない。いい加減、その顔は見飽きた。

 お前は魔法をコピーするだけかもしれないが、人間は工夫して使えるんだ。



 工夫……なんてことはない。風の壁で閉じ込めたんだ。

 この鳥は、進行方法に出して妨げる使い方しか思いつかなかっただろう。

 俺がそうやって使ったからだ。



「ククク……動けないだろう?おとなしく丸焼きになりやがれっ」

「お、おいナミト。顔がちょっと、じゃなくてすごく怖いぞ」

「ハアッ八ッ八ッハッ!喰らえ、ファイアー・ボー……」

「待って下さい!!」



 突然、鳥野郎が叫んだ。

 お前……喋れたのかよ。





「リプロダク鳥?」

「はい。私はその群れの次期・女王だったのです」



 次期・女王ねえ……。というか、野郎じゃなかったんだ。

 ん?だった?過去形なのか。



「こんな弱いやつに群れを任せられるわけがない、と若いオスたちの反発がありまして。群れを追い出されたのです」

「弱いのか」

「ええ、母上……女王様が過保護であまり群れを出ることが無くて、魔法のコピーをあまりできていないのです」

「やっぱり魔法をコピーできるんだな」

「ええ。ここには強力な魔法を感じたのでコピーしに来たんです。それで、貴方を挑発して……ごめんなさい」

「そうか、群れを追い出された女王鳥か。辛いだろ?」

「はい、すごく辛いです」

「死にたいぐらい?」

「いいえ、生きていたいです」

「……ちぇっ、本人同意の上で焼き鳥にしてやろうと思ったのに」

「お前は悪魔か?ナミト」

「なにを言ってるんです?」

「いや、なんでもない」

「あの、ナミト様」

「なんだ?」

「森を抜ける旅をしているんですよね?お供させてください!」

「……ふむ、戦闘要員にも非常食にもなるな」

「?なにを言ってるんです?」

「いや、なんでもない。いいだろう。連れて行ってやる」

「ありがとうございます!私はラフといいます」



 こうして、俺たちは新しく仲間になったラフと共に、さらに森の奥に進むことになった。



「おい、俺の新しい魔法は?」

「完全に忘れてた。自分で考えろ、ボケカス」

おっさんの魔法を作ってあげるつもりだったのですが……。

新キャラ登場で忘れていました。

ただのナビキャラにするつもりなのですが果たして

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