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おっさんと逃亡

 ドゴゴゴウウウ…………



 すごい音がして俺は我に返った。



 いつの間にか戦いは終わっていた。



 いや、違う。

 俺が終わらせたんだ。



 戦っていた時の記憶はあるが、その時自分が何を考えていたのか、さっぱり覚えていない。

 よく知る他人が戦っていたのを見ていたような記憶だ。



 俺は無詠唱で自分にも信じられない規模のファイアー・ボールを何度も使って、辺り一面を更地に変えてしまった。



 見ると、味方、敵方、双方ともにボロボロだ。

 被害を出したのはリザニマ側だけど、ほとんど痛み分けのような感じだ。



 この被害をもたらした、ファイアー・ボールは個人的な訓練の最中に編み出した。



 ファイアー・ボールの詠唱に出てくる"黒の風"の意味に気が付いたらもう楽勝だった。

 この世界の魔法はかなり理屈で作られている。なら理屈を使う。



 だいたい、この世界の魔法の常識は間違った事が多いきがする。

 詠唱が必要だとか、逆に詠唱さえ唱えれば魔法は発現できるとか。



 この前魔法を始めたばかりの俺が言うことではないかもしれないが、魔法で大切なのは"イメージ"だ。

 具体的なイメージを浮かべれば詠唱を知らない魔法や、この世界に存在しない魔法も使うことができる。



 詠唱はそのイメージを補完しているに過ぎない。

 俺の感覚ではそんな感じなのだが……。



「うおーい、大丈夫かあ?」



 久しぶり聞く声がする。



「アンタ……生きてたんですか!」



 そこにいたのは、俺より数日先に出兵していたおっさんだった。

 服のあちこちに焦げが付いている。



 ……コレって俺のせいじゃね?



「ナミト、あのデッカいファイアー・ボールってお前の魔法だろ?」



 …………ギクッ



「え、ええまあ、そうですが……」

「黙ってろよ?」

「……え?」

「だから、黙ってろって。あんな魔法使えるって知られたら何されるか分かんないぞ?

 もう手遅れかもしれないが、あれだけの規模だ。術者も特定されてないかもしれない」



 そうだよな……。

 俺たちは兵器としか見られていない。

 すごい魔法を使えるからと言って、褒めて貰えることもない。

 むしろこき使われるだろう。



「にしても、すごい威力だよなあ」



 そう言っておっさんはファイアー・ボールを詠唱し、撃ち出した。

 ぽわぽわぽわ…………と火の玉が飛んでいく。



「ほら、俺がやってもこんなもんだぜ?」

「イメージが大事なんですよ、イメージが。…………ってか使えるんですね?魔法」

「ああ、練習したからな」



 おっさんも努力したんだなあ。

 …………違うか。剣と魔法の世界に憧れただけか?



「イメージ?」

「空気中の二酸化炭素を分解して、粉状にして、もう一度燃焼させて……」

「あ、いいや」

「ええ?いいんですか?魔法の威力、爆発的に上がりますよ?」

「俺はそういう理屈っぽいのは嫌だ」



 そうか……。この方法ならチートも夢じゃないのだけど。



「そんなことより、今のうちに逃げようぜ?」

「逃げることしか考えませんね……」

「当たり前だ!!今なら混乱していてバレないぜ」



 確かに今は俺のファイアー・ボールのせいであたりは混沌としている。



「走るぞ!あっちの森だ!」

「ちょっ……」



 速い。おっさんは速かった。なんで毎日酒を浴びるように飲んでいたのにそんなに速く走れるのだろう?

 骸を越え、天幕の残骸を越え、おっさんは走る。その後ろを俺もついていく。



「おい」



 突然おっさんが振り返った。



「なんです?」

「なんです?じゃねぇよ!お前、絶対楽だろ!」



 俺はおっさんの後ろを、宙に浮いて、ついて行っていた。

 宙に浮いているから、障害物を避ける必要がない。回り道の必要もない。

 ……うん。楽だ。



「ずるいぞ、お前だけっ!」

「まあまあ、"そんな理屈っぽいのならいい"って言って魔法習うのやめたのあなたですから」

「ぐぬぅ……ってついさっきのことじゃねえか!」

「でも、火の玉を飛ばせるのならすぐ飛べるようになると思いますよ?火は飛ばせるのに自分を飛ばせない道理はありませんもの」

「……おいっ!」



 突然おっさんが声をあげる。

 見ると、前からラザニマの兵が迫ってくる。



「おい、どうする?」

「……命令さえされなければ大丈です!」

「あ?どういうことだ?」

「こういうことです!見ていてください」



 そんなことを話している間にも兵は迫ってくる。



「おい、お前ら、奴隷だろう。止まーーーー」

「うわああぁぁぁあああああ」



 俺は兵が命令し終える前に大声を出して打ち消した。

 命令されても、聞こえなければ問題ない。



 それからも何度かラザニマの兵に会ったけど、その度に大声を出して乗り切った。



「はあ、はあ、はあ、……ここまで来れば大丈夫だろ」

「そうですね」



 俺たちは30分位走り続け、いや、走ったのはおっさんだけだけど、森に駆け込んだ。



「あーしんど、あーしんど」



 おっさんは肩で息をしている。



「ナミトぉー、やっぱり魔法教えてくれー」

「いいですけど、また今度ですね。今は少しでも安全なところに行かないと」

「そっか。残念だな。でもよ、ナミト、お前が言うには、イメージが大切なんだろ?」

「はい。イメージできればたいていのことはできますよ?」

「ならそれで、この奴隷の呪い解けるんじゃね?」



 …………確かに!呪いのイメージを壊すイメージをすれば……。

 精神的に束縛を受けている感じがするから、神経系に魔法がかかってるんだろう。



「やってみます!」



 俺は近くにあったマルタに腰掛け、目をつぶった。



 まず、呪いを具現化するイメージ。自分の深いところを見つめる。



 暗い、暗い、暗い。



 もっと深くまで潜る。



 暗い、暗い、…………いた。



 俺の心の、奥深くには、鎖で雁字搦めにされた俺がいた。

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