最強の"兵器"への道
…………え?
「えっと……食料、ですか?この靴が」
「不満か?」
不満だよっ!!
たしかに食料不足で革靴を食べる話は聞くけど……。
「うむ……。ああ、あれを忘れていた」
そう言ってグラム教官はカレーのようなものを持ってきた。
「この城の便所は非常食用に全て繋がっている。おかわりが欲しければそこにあるタンクからいつでも継ぎ足していいぞー」
マジで言っているのか……?
さっきから、異臭がすごいことになってるんだけど?
「これなら革靴より栄養があるからな。栄養不足で戦場に出してもなんの戦力にもならん。」
マジで言っているのか……。
「それでは訓練を始める。ついてこい」
そう言うグラム教官について行くと、地下牢の様なところに来た。
痩せこけた人々が石の上にうずくまっている。
「コイツらはこの国で法を犯した罪人だ。コイツらを今からお前達の手で死刑にしてもらう。」
殺せ、ということだろうか?
「つまり、殺せ」
この訓練において、俺に課された課題は、心を死なせること。
ただし、決して壊してはいけないそうだ。
道徳観や恐怖心を完全に欠如させる。つまり、人を殺しても何も思わないし、武器を持った相手にも臆さない。怪我を負ってもひるまない。
でも、理性は残っている。考えることのできる武器の完成、というわけだ。
俺たちは完璧なカウンセリングを受けながら、死刑囚を殺し続けた。殺す前には、死刑囚の家族構成や、法を犯さざるを得なくなった事情など、慈悲を掛けたくなるような内容の話を散々聞かされた。時には本人と話してある程度親しくなることもあった。気に入られて、「兄弟!」なんて呼ばれたこともあった
そのうえで慈悲を掛けずに殺す。
おそらく、敵兵を戦争で殺すよりも心の負担になるだろう。
相手のことをよく知ってから殺す。これを毎日毎日繰り返す。
絶対にあってはいけないことだとは、心の隅で分かっている。
なのに、麻痺してくる。頭に靄がかかったみたいに、うまく考えることができない。
人を殺すことが日常になる。
罪悪感が無くなってくる。
飯も、あれだけど、慣れてしまった。自分が自分ではないみたいだ。
心の抑揚が、全くなくなっている。
ずっと冷静、というのとは違う。
しいて言うなら、冷めている。自分のことを、一歩引いて、他人事のように見ている。
あ、う〇こ食いやがった、あ、人殺した、あ、またうん〇食った……そんな感じだ。
理性はあるが、これを理性と呼んでいいのだろうか?
四則演算や状況把握はできる。感情を理解することもできる。
だけど、俺自身に感情がない。
そうか、俺は、課題をクリアしたのか。
心を壊さずに、死なせることに成功したみたいだ。
出兵の日が来た。
というか、いつの間にか出兵していた。
訓練を受けてから、意識を手放していることがある。
今も、いつの間にか戦場にいて、魔族、つまりルルイ人を殺していた。
…………ボウゥ
詠唱なんかしなくても、イメージさえしっかりさせれば魔法は使える。
黒い風……大量の二酸化炭素を集めて酸素と炭素に分解し、もう一度燃焼させる。粉末状になった炭素に引火させることで、粉塵爆発が起きる。
この仕組みを理解してから、オレの魔法の威力は格段に上がった。強いイメージだけで現象を調整できるから、いくらでも威力は強くなる。
強いイメージだけで現象を調整できるから、詠唱を知らない魔法でも、仕組みさえ理解できれば行使できる。
人々が詠唱を使うのは、科学のあまり発展していないこの世界で魔法の仕組みをぼんやりとでもイメージするためだろう。
「…………ファイアー・ボール」
オレのファイアー・ボールは、”ファイアー”などとうたっているものの、何も燃やしていない。
攻撃範囲を指定して、その中にある水分子を高速に振動させて高温にしているだけだ。電子レンジのハイエンドのようなものだ。
範囲内にはリザニマの兵士もいるようだが、関係ない。全て蒸発させる。
陛下の所有物(兵士)には攻撃できない?それも関係ない。敵意が無ければ攻撃とは見なされないのだから。心を完全に死なせることに成功した俺に敵意もへったくれもない。
余熱で範囲外にも被害が出ているようだが、それも関係ない。オレは暑くないから。オレを中心に半径2mの物質の熱振動を固定したので周りの気温にかかわらずオレの周りは適温に保たれる。
「……ファイアー・ボール」
呟く度に200m四方の生の無い更地ができるのは、ある意味爽快だった。
「……ファイアー・ボール」
あの心を死なせる訓練は有意義だった。
あのおかげで躊躇わずに仕事が出来る。
今回の戦いで十分な戦果を挙げれば、次の戦争で使ってもらえるらしい。
……だからなんだ?
そろそろ飽きてきた。次の一発で全て終わらせる。
今までは効果範囲を200m四方にしていたのを、少しだけ拡げる。
「……ファイアー・ボール」